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おためしゴロニャーム

それからはアンシェローとルルーさんの館での訓練の日々になった。

魔法生物の知識や魔素の扱い、ガレフのことなどを学んでいった。

……ただ、まだゴロニャームは一切使っていない。

効果の程がどれくらいなのかが全くわからない以上アンシェローの一員に試すこともできないし。

何度か使うことを提案はされていたのだが、私はまだ使う覚悟ができていない。

だが、そろそろ訓練も一段落する。

スキルの使用についても学んでいかないといけないのは確かだ。だからおそらく今日あたりに……。

「ではニャコさん、そろそろスキルを使っていきましょうか」

きました。ついにこの時が。

「やっぱり使わないとだめですかぁ」

「使わないつもりなんですか? 自分の利点を活かさないのはなんの意味もありませんよ」

「それはそうだけど……」

「土壇場で使う訳にもいかないでしょう。何度か試しに使わない限り他所で使うべきでもないでしょうし」

「わかったわよ……はぁ」

「どうしてもというのなら無理強いはしませんが。魔法の実力はやはり他者よりも随分秀でているようですし」

「いや、それでもやっぱりスキルを使うことができなければ使命なんて果たせない。やらなくちゃ……」

「わかりました。ではやっていきましょうか。お相手は……」

ルルーさんに促されて姿を現したのは……。

「ニャコ!」

「えっ、シンジ!?」

「流石に見ず知らずの相手を連れてくる訳にもいかなかったので、あなたの飼い主様を連れてきました」

「連れてきたって……私シンジのこと言ったかしら?」

「私を誰だと思っているんですか?」

ルルーさん、こわ……。

「じゃあ、早速お願いしますね」

「ちょ、ちょっと説明してほしいかな……ぼくはこれ、何をされるの?」

「私のスキルの実験台になるの……」

「ええっ!?」

「大丈夫ですよ。むしろあなたたちの絆は深まるかもしれません」

「そんなこと言われても……」

「解除方法がわからなかった場合、結構大変なことになるかもしれないから、シンジだったら良さそうではあるけれど……」

「そうでしょう?」

「ぼくはちょっと怖いんだけど!? そもそもスキルって、どういう?」

「使った相手をトリコにしてしまうらしいわ」

「えっ!? 好きになっちゃうってこと!?」

「うん……」

「あはははっ! それならぼくに使っても意味ないんじゃないかなぁ」

「え?」

「だってぼくニャコのこと大好きだしぃ!」

「シンジ……」

嬉しいけど、確かにそれでは検証にならないかも……。

「ルルーさん、やっぱりシンジじゃ……」

「とりあえず使ってみましょうか」

「えっ」

「ね?」

……使う以外の選択肢はなさそうだなぁ……。

「わかった。わかりましたよ。シンジもいい?」

「うん。大丈夫だよ」

「じゃあ……ゴロニャーム!」

詠唱しながら私はポーズを決める。

するとピンク色のオーラが飛び出してそれがシンジを包み込んだ!

「うっ……わああぁ!」

「シンジっ!?」

シンジは何も言わずに下を向いてしまい、数秒そのままだったが、いきなり顔を上げた。

「ニャコ様。私に指示を与えてください」

どこか無機質に感じる物言いと、私だけを真っ直ぐに見つめる瞳。

それはまるで愛という感情からはかけ離れているように感じた。

ただ、私だけしか見えていない。私だけのトリコになってはいる……。

「ちょ、ちょっとこれ……」

「ふむ……こうかはばつぐんですね……確かにこれは恐ろしいスキルです。相手の思考もお構い無しに上書きしている感じがします」

「な、なんか怖いよ……元に戻るのかな」

「命じてみたらどうですか?」

「あ……えっと、シンジ! 元に戻って!」

「かしこ……まりました」

そう言うとシンジはまた顔を下に向けて数秒動かなくなり……また数秒後に顔を上げた時、いつもの明るい表情に戻っていた。

「……あれ? 何してるの? スキルってやつ、試すんじゃなかった?」

……どうやら先程の記憶もないようだ。

「これは強力ですね。本人にはなんの記憶も残らずになんでもやらせることができる。ただ、どのくらいのことをどの程度の期間やらせられるかが不明瞭ですがね」

「えっ、えっ? 何? 何の話?」

「もう終わったのよ、シンジ。今あなたは自分の意思とは関係なく私に従う人形のようになっていた……」

「ほ、ほんと!?」

「うん……ごめんなさい」

「なんでニャコが謝るのさ! それってすごいことなんじゃないの!?」

「すごいけど……ヒトに使っていいものではないわ。こんな邪悪なもの……」

「ニャコ……」

「確かにこれは倫理的にマズいスキルですが、対象が問題ない相手ならばどうでしょう?」

「えっと……」

「あなたは、テイマーになったらどうですか?」

「な、なにそれ……」

「魔法生物を使役してともに戦うのです。それならば問題はないでしょう。もし途中で解けてしまったらそれまでですが……別の魔法生物を味方にすることもできるでしょうし」

「でも魔法生物にだって意思が……」

「相手が自分を倒そうとしていて、自分も相手を倒そうとしていたのなら、それはもうそんなことを言っていられる場合じゃないでしょう? トリコの文字の通り捕虜にしたと考えればかわいいものでしょう。どうですか? それならば倫理的にも相手を殺さず、かつ仲間として簡単に迎え入れられます」

「ううん……やってみてもいいかもだけど……」

「まだこのスキルについては色々と考察できることもあります。ひとまずはその線でやることにしてみましょうか」

「わかりました……」

「ではシンジさん、ありがとうございました。ひとりで帰れますか?」

「あ、はい」

「シンジ!」

「ニャコ……大変だろうけど頑張ってよ。いつでも力になるからさ」

「シンジ……! ありがとう!」

「では、またいつでも訪ねてくださいね。ニャコさんとともにお待ちしておりますから」

「はい! じゃあね、ニャコ!」

「うん!」

シンジは部屋を出ていった。

「それにしてもゴロニャーム……予想以上の性能でした。マークさんの時もそうでしたが転生者は味方につけることができれば随分と有利になりそうですね……」

「そのマークさんってのはどんな能力だったんですか?」

「普通にするんですよ」

「え?」

「なんでもかんでも普通にできてしまう……大きいものや小さいものは平均に、変身しているものは変身前に、呪われているものは呪われる前に。果ては破壊された村を普通の状態に戻すことまでできていました。……まぁそれをしたせいで本人はとてつもない代償を負っていましたが……」

「代償……」

「基本的に魔法は大気中の魔素を使うので代償を負うことはないはずですが……ニャコさんも気をつけてください。自分の実力を大きく上回る相手にゴロニャームを使おうとした時、何かが起こるかもしれません……」

「き、肝に銘じておきます」

「それでは今日はこんなところにしておきましょうか。今度はガレフに行く手配もしますので」

「ついに……」

「ガレフは第一階層まで自力で突破してください。それが試験も兼ねますので。訓練を受けてスキルも使えるようになったあなたならばできるはずです」

「が、がんばります……」

ついにガレフへ行くのか……。

まだ実戦経験も何も無いから不安でしかないが、使命を果たすには行くしかない。

うまくいくといいが……。

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