次のネストへ向かう通路を進む。
リボンはツタになっている下半身を脚の形にして二足歩行で歩いている。
「その方が歩きやすい?」
「まぁねぇ。動かす分二本だけだもん」
そう言われればそうか。あんな風に触手をウネウネやって移動するよりも歩きやすいだろう。
「でもさぁ、この先行くとアタシ、戦うことになるんだよね? ……大丈夫かなぁ」
「なんで?」
「だってツタを操るくらいだよ? 小さい動物を食べるくらいしからできなかったし……」
「動き止めてくれるだけでもありがたいよ! そしたら私がやるから!」
「そう〜?」
「うん! 頼りにしてるよ!」
「そっか……うん! わかった!」
不安そうにしていたが、リボンは私の言葉を受けて笑顔で返事した。
「んー、そろそろかも。リボンちゃん、警戒しよう」
茂みが途切れる。ネストに入るようだ。
「今回は……」
とりあえずネスト内の様子を見る。
少し行った先に眠っている獣が見えた。
「今回はあれの巣かな」
「ひ〜ん、おっきいよぉ」
リボンは獣を見た途端に萎縮している。
「意外と怖がりなのねあんた……」
「だって大きい生き物なんて食べられること全然ないしぃ……」
「よくここで生きてけたわね……」
この子に殺されかけたというのが少し恥ずかしくなるな……。
とはいえ私もこの身の小ささと非力さは致命的な弱点だということがよくわかった。
魔法を活用してそれを補わなければな……。
「どうしよう。とりあえず魔法うっちゃおっかな」
「いきなり?」
「うん。襲われたらやだし」
「それもそっか!」
まだこちらに気づいていない様子の獣に向けて手をかざす。
「ストレイト・ファイア!」
私の手から正面に向かって一直線に火が飛んでいく。
それは獣の腹のあたりにぶつかり、じゅわりと音を立てる。
だが、それきり火は消えてしまった。
「あれ、弱かったかな」
「だ、だめだったの?」
獣は、それを受けて飛び起きる。
そしてあたりを見回し……こちらを見つけ出した。
「あ……」
獣は全力疾走でこちらに向かってくる!
「ど、どうしようどうしよう!」
リボンは慌てているが、ここで動いてもらうのはこの子だ!
「落ち着いて! ツタを張って!」
「え?」
「はやくっ!」
「うぅ〜!」
まごついていたリボンを一喝すると、彼女はようやく目の前にツタを張る。獣はそれに躓き、私たちを越えるほどにすっ転んでいった。
「今だ!」
その隙を逃すわけにはいかない!
「拘束して!」
「えっ……はいぃ!」
指示を出すとリボンはその獣をツタで雁字搦めにした。
「これならどう!? スプレッドファイア!」
ツタに覆われた獣に向けて拡散する火を放つ。
それはツタにも引火し、獣は火だるまになった。
「うあっつ! ちょ、いきなり燃やすかなぁ!?」
「文句を言わないの!」
「もおおおぉぉ!」
そう、良心に傾いているようではこの先生きのこることはできない……。私はどんな手を使ってでもこの先に進まなければならないのだ。
ゴロニャームで無理やり仲良くなっている以上、私たちは真の意味で理解し合うことなんてできない。
利用し尽くすつもりでいないとダメだ。
……胸が痛まないわけではないが、私以外は全員敵だと思った方が良い。
でなければ、こんな能力使ううちに心が壊れてしまうから。
「そろそろかしら」
獣を包んでいた火は勢いを弱め始めた。
当然というか、もうその中の獣はぴくりとも動く様子を見せなかった。
「これでおしまいね! よかったぁ」
「……ニャコちゃん、ちょっとやりすぎじゃない?」
「このくらいしないとこっちがやられるもの!」
「うん……」
「ゴロニャームは会う相手全員に使うわけじゃないわよ。そんなことしたら大所帯になっちゃうし」
「……」
「なによ。まだなにか不満?」
「んーん! 全然……」
見た感じ不満はあるだろうけど、言う気は無さそうだ。……というか、言えないだろうな。
もはやこの子にとって私は支配者そのものだろう。ただそれならそれで都合は良い。
主従関係を築く以上大切なのは力量を示すことだ。
冷酷な主を持てば切り捨てられないように必死になる。
私がそうなればこの子も今以上に力をふるえるようになるかもしれない。
「じゃあ、進みましょうか。……と、その前に」
蒸し焼きにされている獣に近づく。
「食べる? いい感じに焼けてるし」
「あ……」
リボンはおそるおそるといった様子で獣に近づく。
「いいニオイ……かも」
「あなた、焼いたお肉なんて食べないでしょう? 美味しいわよ〜」
「ほんとっ!?」
怯えていたリボンは、食べ物のこととなると目の色を輝かせる。
「食べていい!?」
「私の分残しといてよ」
「わはぁ〜!」
リボンは夢中で獣を貪り始めた。
……これ残るかな。
この程度のことでこの子に赦されるとも思っていないが、なるべく良くしていくつもりではある。
こんな強制服従の魔法を使う以上、業を背負うことは覚悟の上だ。
主として、仲間として、友として、どの立場で接せるかはまだわからない。
しかしその覚悟だけは胸に抱きつつ、前に進むことを決めた。