「ん〜〜! ごはんおいしかったよぉぉ〜!」
大満足な様子のリボンは、借りた宿の一室のベッドの上に大の字になる。
「やっぱりニャコちゃんと一緒に来てよかった!」
「それならよかったわ」
「あの子たちとも友達になれそうだったし!」
多くの客に愛されているのがよくわかる素敵な看板娘たち。
はじめて会った私たちでさえそれを強く感じた。
魔法なんてなければあの子たちがゴロニャーム使ってるみたいね……。
「しかし酒場の上がすぐ宿になってるってのもまあ便利ね」
「もう疲れたもん! お腹も重たいしはやく寝た〜い」
「はいはい。明日はまた迷宮に行くからね」
「は〜い」
そう言ったかと思ったらリボンはすぐに寝息を立て始めた。
「こどもね……」
頼りにしてるけど、若干危なかったしいのよね。
捨て駒にするくらいの覚悟は流石に持てないしね……。
「……ニャコさん」
と、その時部屋の外から声がかけられる。
「誰?」
「フィーナです」
「入って。……どうぞ?」
許可をしてもなかなか入ってこない。
「どうしたの?」
もう一度問いかけると、ようやく戸が開いた。
「ごめんなさい遅くに……」
立たせておくのもなんなので室内に招き入れた。
「何か用?」
「実は……ご主人様のことについてなんです」
「あぁ、マークさんだっけ?」
「オレ、ご主人様には大恩があるんです。それを返し切れたかもわからないまま別れることになってしまって……あ、いや……本人はいいって言ってるんです。でも……オレ、ここで生活してる時もいつも思い出すんです。ご主人様とした冒険のこと、オレと過ごしてくれた時間のこと……」
「そう……大切な人なのね」
「地上に帰って、マロンの村に寄ることがあったら、様子を見てきてほしいんです。ご主人様、もうスキルを使えないから……ここに来るのは大変なはずなんです」
「え? 転生者なんじゃ?」
「ニャコさん……そのこと知ってるんですか!?」
「あ、あぁ……その、私も転生者なのよ」
「ええっ!?」
「そりゃ驚くわよね」
「あ、でもルルーさんのとこにいたならそういうことってわけですね……」
納得も早い。
「そう。転生者は研究に有益だからって、よくしてくれたの」
「やっぱりルルーさんです……」
「あの人は信用していいのよね?」
「多分……」
「多分!?」
「オレも全部は知らないんです。ご主人様を助けてくれたのは事実ですけど」
「利用されてたとしても助けてくれたならいいわよね」
「そうです!」
「まぁわかったわ。今度地上に行くことがあったら訪ねてみる。……簡単に帰れるかどうかはわからないけど」
「帰れるみたいですよ?」
「え?」
「なんかそういう魔法があるみたいなんです。誰でも使えるみたいですよ」
「知らないんだけど……」
「一度行った階層とガレフの穴の入口に移動できるようです。オレはノーフを持っていなかったので自分で使ったことはないですが……」
「あ、持ってないんだ。……あぁ、チームってやつ?」
「そうです! ……多分」
「自信ないの?」
「ルルーさん、オレにノーフ持たせるの渋ったんです」
「なんでかしら……」
「多分オレのことまだあまり信用してなかったんだと思います。ややこしい事情がありまして……」
「あなたも大変なのね……」
「わかってくれますか!」
「まぁ明日その転移魔法についてもきいてみることにしようかな。それを使えば簡単に帰れるんでしょ?」
「魔道車ってのに乗らないと遠いですよ」
「移動なら任せなさいっ! 魔法のチカラで高速移動できるのよ!」
「脚ならオレも自信ありますよ!」
「あ、私もよ? そのうえ魔法もつくから」
「もしかして、オレ負ける?」
「多分」
「この姿を見てもそう言えますかねぇっ!」
そう言うとフィーナは宙返りした。
その瞬間フィーナの姿は四足歩行の獣になった!
「えぇっ!?」
「ふっふっふ〜! 人狼を見たのは初めてですね?」
「すごいねフィーナちゃん! どっちの姿にもなれるのいいなぁ」
「なんとご主人様もこの能力を持ってたんですよ!」
「え? 普通になる能力なんじゃ?」
「それまた事情がありまして……」
「もしかして私もそういうことできるのかな」
「んー、そのままだと難しいかもしれませんね。アミィさんに会うことがあればできるかもしれませんが……ルルーさんはアミィさんのことを大変嫌っているようでしたから……」
「誰?」
「魔法使いみたいな格好をした女の子なんですけど、色々と不思議な子なんです。多分この世界で一番すごいんじゃないかな……」
「そんなに!?」
「ガレフにいる限りは会うことになると思うので機嫌を損ねないようにした方が良いですよ」
「わかったわ……」
アミィ……覚えておこう。
「それで、この姿の私とどっちが速いと思います?」
「魔法使えば私ね」
「んーーっ!」
「でもあなたに魔法使ったらすぐ負けちゃうわよ」
「えへへ」
このコロコロ変わる表情ほんと癒される……。
と、その時急に部屋の戸が強く叩かれた。
「わっ!」
「……ま、まさか」
「心当たりあるの?」
フィーナの返答を聞く間もなく戸は開け放たれる。
「……こんな時間に……なにやってるの?」
その訪問者はカルアだった。
……なんか、怖いよ。
「あっ、カ、カルちゃん! その、これは、その……」
「……あやしい」
「怪しくない!怪しくないから! 大事な話してたの」
「大事な……?」
「うん! ね、フィーナちゃん!」
「は、はは、ははい!」
なんでこんな動揺しちゃってるの?
「……あやしい」
「私から見てもそう思うけど違うの!」
「ご、ご主人様のこと色々伝えてたんです! 外に行くことがあったら見てもらえるといいなって」
「……それは、たしかに大事」
「ねっ! ねっ!」
「あはは、カルアちゃんって結構心配性なんだね」
「……む?」
「フィーナちゃんのこと信じてたら浮気なんてしないことわかるでしょ?」
「……それは、わかってる。わかってるけど……」
カルアもカルアで感情で動いちゃってるみたいだ。
「でも……なんでその姿になってるの?」
痛いところを突く。
「あっ、こ、これはその、その、そのっ!」
そして見事にそれがクリーンヒットしたわけだ。
「落ち着いて! 変な動揺するから悪いのよ」
「あ、そうです! オレなんにもしてないですから!!」
「……そう。でももう遅いから……戻ろう。リボンも……寝てるし」
「あっ……こ、これはお騒がせしました……」
フィーナは人型に戻りぺこりと頭を下げる。
「じゃ、また明日……色々とお話出来てよかったです」
「ん……ゆっくり休んでね」
「うん、おやすみ!」
ふたりは部屋から出ていき、リボンの緩やかな寝息の音だけが部屋を満たす。
この子はこの子で全然目を覚まさないな……。
私も初めての連続で疲れは溜まっている。
リボンのとなりで丸まって眠ることにした。