「やぁ〜よく寝たよ!」
リボンの声で目を覚ます。
ただ、まだ窓からは陽の光も射し込んではいない。
「ん……起きたの」
「ニャコちゃんも起きたんだ! おはよー!」
起こされたんだけどね。
「さぁて、朝だ! 支度支度ゥ〜!」
そんなことを言っているが、時計を見るとまだ午前四時である。
「リボンちゃん、いつもこんな時間に起きるの?」
「うん! 朝陽が昇る前に安全に陽を浴びられる場所に行くんだ!」
「もうこれからはそれはしなくても大丈夫だからもう少しゆっくりしたら?」
「あー、確かにそうかも。じゃあもう少し! おやすみ!」
そう言ったかと思うと、リボンは布団に倒れ込み寝息を立て始めた。
「はや……」
そしてこんな時間に起こされた私は、眠れそうもないのでノーフを弄りながら過ごした。
「おはよー!」
しばらくしてリボンが目覚める。
「おはよ。どう? 二度寝は」
「気持ち良いね! なんかすっきりする!」
「ふふ。いつもそんな早起きだったらそうなるわよね」
今日はとりあえずルルーさんに連絡した後に最寄りの迷宮に潜るつもりだ。
この迷宮、ちょこちょこ場所が変わるらしく行きたい場所があったらすぐに行かなければ無くなってしまう。
ノーフのアレコレを確認しているとガレフについても結構書いてあったので勉強になった。
とりあえず先へ進むにはボスダンジョンというものを探して次の階層への入場権利を得なければならないのだという。
まぁそれは後になるだろうけど。
迷宮を踏破していく間に技術や装備を整えていくことが冒険者としての格を上げる方法なんだとか。
「とりあえず今日はまずルルーさんに連絡取るから外に出るわよ」
「中じゃダメなの?」
「ダメではないけどすぐ動けた方が良いでしょ? 上司にあたる人なんだから緊張感は持たないと」
「ふぅん」
そういう訳で宿を出て階下の酒場へ行く。
「あら、おはようございます」
そんな折に声をかけてきたのは……ルルーさんだ。
「あ、ルルーさん。おはようございます」
「……もっと驚くかと思いましたが」
「転移魔法、ですよね?」
「なるほど。優秀な部下を持つとドッキリができなくてつまらないんですね」
「嬉しいことと嬉しくないことをはっきり言わないでください」
「まぁ、冗談なんで気にしないでください」
……どっちが?
「さて、まずはおめでとうございます。踏破が早かったようで驚きました」
「あ、ありがとうございます。この子のおかげもあって……」
「ど、どうも……リボンです」
ちょっと離れたところで様子を伺っていたリボンがルルーさんに挨拶する。
「……やはりニャコさんのお連れでしたか。魔法生物を使役……うまくいったようですね。ただ、あの時使ったスキルの様子とは少し違うようですが……」
「この子とは友達になったの」
「友達……甘いですね」
「む」
「魔法生物は危険な生き物です。あなたはスキルを使用して心を操っているのですから、馴れ合うことで肝心な時に足を引っ張られてしまうかもしれません」
「そんなこと……!」
「言いきれますか? 友達になれと命令したならそれに忠実に洗脳するスキルなのかもしれませんよ。それはスキルが用意した仮初の人格で、抑圧された本性は今にもあなたを絞め殺そうとしているのかもしれません」
「そんなことないっ!」
リボンがルルーさんの説教に割って入ってきた。
「おや」
「ニャコちゃんのこといじめないで! アタシは操られてここにいるんじゃない! 勝手なことばかり言うなら許さないんだよ!」
「これはこれは……やはりニャコさんのスキルはすごいですね」
「だからスキルのチカラじゃない!」
「……それなら、どうでしょう。スキルを解いてみては」
「え……」
「大丈夫ですよ。私がいますから。それにすぐにもう一度スキルをかけたらいいんです。本当にこの子のことを信用しているのならできるはずですが」
「それは……」
「そうだよ! ねぇニャコちゃん! おねがい!」
リボンは私の身体を揺すって懇願する。
が……しかし、私にそれをする勇気はなかった。
「……ごめん、リボンちゃん」
「ニャコちゃん!?」
「それくらいの慎重さでいいんですよ。未だ解明されることのない技能ですから、恐れを抱くことは悪いことではありません」
「何言ってるの! あなたがそういう風に仕向けたんじゃない!」
「何を言おうともスキルの効力の範囲内にあるうちは証明にはなりません」
「ねぇニャコちゃん! おねがいだから解いて!」
「……」
「アタシが信用出来ないの!?」
「…………ごめん」
ただ震えることしか出来ない私を見て、リボンは悔しそうに唇を噛む。
「……もう、いいよ」
そう言うとリボンは一筋の涙を流してそっぽを向いてしまった。
「はい、わかりましたよ」
それを見届けたルルーさんは、ぱんと手を叩いた。
「え?」
私とリボンは揃ってルルーさんの方を向く。
「イジワル言ってごめんなさいね。でもおかげでわかりました。確かにリボンさんは明確にニャコさんのことを信頼しているようですね」
「は、はぁっ!?」
「スキルの効力は絶対です。逆らうことは許されないはず。今ここで確認したかったのはそのことです。スキルを解いた時の反応か、スキル外の効果を発揮した時の反応。不慮の事態でスキルが使えなくなった場合、裏切られては困ります。なのでそのどちらかを見たかったのです」
「それならそうと言えばいいのに!」
「なので今説明しました」
「遅いの!!」
リボンは相当怒っているようだ……当然だけど。
「ま、まぁまぁリボンちゃん……証明できたんだし……」
「ニャコちゃんもだよっ! アタシ、信じてるのに……ニャコちゃんは信じてくれてなかった!」
「あ……」
「こんな……試されるようなことされて! ニャコちゃんにも裏切られて! もう……サイアクっ!」
そう言うとリボンは上に戻ってしまった。
「……もしかして、私結構まずいことしちゃいました?」
「しちゃいましたよっ!!」
私は急いでリボンを追いかけた。