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第2章 ぼっちくんと初デート

第1話 あなたはぼっちくんですか?


 シャワーを浴びて出てくると、ちょうどスマホから通知音がした。頭を拭きながら画面をタップすると、「シュリ」が新しい画像を投稿していた。


『うちの姉が彼シャツ着て帰ってきた!! 髪もうっすら濡れているし、ナニがあった⁉︎』


 添付画像には少し丈の長い男物の黒いシャツを恥ずかしそうに着ている朱里の全身が写っていた。投稿されたばかりだというのにコメントがすごいスピードで増えていく。


『相手の男は誰だー! 許さん!!』

『俺のシュリ姉がー!!。゚(゚´Д`゚)゚。』

『可愛いけど複雑な気分だ……』

『相手の男、殺す!!』


「あーあ。炎上してやがる」


 ベッドに腰掛けて、自分もコメントボタンをタップした。

 Ko-kiのアイコンの横に『似合ってんじゃん』と書いて送信する。自然と頬がニヤけてしまって片手で口元を覆う。

 すると、「シュリ」からもう一枚写真が投稿された。


『新しい家族を紹介します! 姉が川で拾ってきた仔犬のおこげです。この子を助けようとして川に入って濡れちゃったんだって(^◇^;)服は通りすがりの人に借りたみたいです!』


 垂れ耳で焦げ茶色の濡れた鼻が可愛い仔犬の画像が表示されて、コメント欄は一気に平和になった。


『可愛い😆』

『なんだ、仔犬助けたせいで濡れてたのかー』

『それでこそシュリ姉』

『ネーミングセンスの無さまで愛しい』


「おこげ、か……」


 コメントするか少し迷って、スマホを手放した。濡れた髪を乾かしながら、さっきの朱里を思い出す。

 ──信じるよ。当たり前でしょ。

 何も疑わずに秒で答えた彼女の顔が、瞼を閉じても浮かんでくる。


 すると、スマホからまた通知音がした。

 覗いてみると、Ko-ki宛に「あかり」からダイレクトメッセージが来ていた。



『間違ってたらごめんなさい。あなたはぼっちくんですか?』



 ──



 メールを送る瞬間、最高潮にドキドキして指が震えた。

 シュリが投稿した画像にKo-kiさんからコメントが来て、それがやっぱりぼっちくんにしか思えなくて、我慢できずにメールしてしまった。

 なんて返事が来るんだろう。

 居ても立っても居られなくて狭い部屋の中をウロウロしちゃう。

 すると、メールの受信音がした。


「きたっ」


 フライング気味にタップしてメールを開くと、そこには一言こう書いてあった。


『明日の放課後、Rolling Stones cafe』


「ローリングストーンズカフェ……」

 マップを開いて検索したら、高校から2.1キロくらい離れたところで見つかった。もっと近くに安くて可愛いJK好みのカフェ店やファミレスがあるから、みんなはそっちにばかり行く。2キロ先にそんなカフェがあったなんて知らなかった。


「ここで話をしようっていうこと……だよね」


 場所といい、用件のみのそっけない返事といい、これはもうぼっちくんで間違いない。

 人目を憚って二人きりで会いたいってこと……?


「これってもしかして……デートのお誘い……?」


 ポンポンポンッと頭の中で花が咲いた。それは一気に広がって巨大な花畑になる。


『行きますっ! 何があっても絶対行きますっ!』

 即返事をした後で、私はアイススケーターみたいにクルクル回ってベッドに倒れた。


「初デートだあ……。どうしよう。楽しみすぎる……」

 ドキドキが止まらない。

 そんな私の前に、しかめ面の天使が現れた。


「朱里さん。そんなに浮かれていていいんですか? あなた、100日後に死ぬって言われたんですよ? もっと深刻になりましょうよ」


 そういえばそうだった。


 ──このままだと、100日後に死ぬ。


 人生一周目を経験したぼっちくんの言葉は重い。

 ぼっちくんはその運命をどうやって回避したらいいか、私と話し合うつもりなのかもしれない。

 思ったより重い話になるかも。


「でも、ワクワクが止まらないんだよね! キャーッ! 明日が待ち遠しいよ〜!」


 うつ伏せになってバタバタと足を動かしちゃう。


「やれやれ。今は馬の耳に念仏ですね」

「お前も苦労するなあ」


 ガッカリした天使を悪魔が肩を叩いて慰めてあげている。何気にこいつら親密度が上がってるな。


 だって……しょうがないじゃない。

 こんな気持ち、初めてなんだもん。

 ぼっちくんから借りたシャツを着た私の画像を見て、またニヤける。

 ぼっちくんの服を着てしまった。私を優しく包んで守ってくれているって感じて、すごく幸せだった。

 100日後の運命も、ぼっちくんと一緒なら怖くない。

 不安なんて何もない。



「キャンキャンッ」


 その時、廊下でおこげの声がした。ドアを開けてあげると、おこげがすごい勢いでジャンプして私のお腹に飛び込んできた。

「どうしたの、おこげ」

 私の周りをぐるぐる駆け回ったかと思うと、私のカバンの匂いをクンクンと嗅いで中を開けようとする。

「何かを探してる? あ、もしかしてお腹が空いた?」

 私は帰りにスーパーで買った犬用のおやつを出した。CMでは犬が飛びついて食べていた、人気の商品だ。だけどおこげはあまり気に入らなかったようで、一口、二口舐めてどこかへ行ってしまった。


「どうしたのかな……」

 おこげも元気だよってぼっちくんに伝えたいんだけど。

 まだ初日だから慣れないのは仕方ないか。


 ちょっと心配したけど、私の胸はすぐに明日への期待でいっぱいになっていた。

 早く明日が来るように、夕飯の後はいつもより早めにベッドに入って灯りを消した。







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