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第6話 99日後


「そして気がついたら……本当にまたこの人生をやり直してたんだ」

「うう……」

「どうした? 七瀬」


 ぼっちくんが俯いていた私に心配そうな声をかけた。


「もしかしてお前、泣いて」

「うがーっ!!」


 私は雄叫びを上げながらドンッとテーブルを拳で叩いた。


「その四人の気持ちは分からないわけでもない……けど、やりすぎだよっ! ぼっちくんが可哀想! ちょっと思わせぶりだっただけなのに、突き飛ばされて殺されちゃうなんて!」

「おい。鼻水出てるぞ」


 ぼっちくんがナプキンを取り出して私に渡した。


「泣くのか怒るのかどっちかにしろよ」

「だ、だって……聞いてるうちになんか許せなくなっちゃって」


 私はもらったナプキンでズビビッと鼻をかんだ。


 ぼっちくんが死んだのはクリスマスイブだ。

 しかも、好きな人に告白しようとした直前に突然命を奪われたのだ。

 そんな悲しいことってある?

 あまりにも理不尽だ。


「うう〜! やっぱ、ぼっちくんが可哀想だし、犯人のやつ絶対許せない! うわーん!」

「……ぷっ」



 笑い声に気がついて顔を上げると、ぼっちくんが顔を赤くして口元を押さえていた。

 わっ。初めての笑顔が超可愛い!


「やべー。ツボった。七瀬、感情バグってんの面白すぎ」

「ぼっちくん……何で笑うの? ぼっちくんの方が変だよ〜」


 でも笑ってるぼっちくんは可愛いから永遠に見ていたい。



「ぼっちくんは怒ってないの?」

「もういいよ。またこうやって人生やり直して……七瀬と話ができてるんだから」


 ぼっちくんは本心からそう思っているみたいに、優しい瞳をしていた。


 ボッ。


 と私のほっぺから炎が飛び出す。やばい。前髪焦げたかも。

 私は慌てて、照れ隠しに前髪を直すふりをした。


「だ、だけど……ぼっちくんは二周目でひとりぼっちになっちゃったね。寂しくないの?」

「別に。この姿の方が気楽だし、またモテすぎて死にたくねえからな。おかげでこれまでは何のトラブルもなく順調だった」

「良かった! じゃあもうぼっちくんの死んじゃう運命は回避できたってことだよね?」

「それなんだけどさ……」


 ぼっちくんがチラッと私を見る。

 意味ありげな目線を不思議に思った時、お店のスタッフさんが注文したものを運んできた。


「お待たせしました。いちごのケーキとミルクティーのセットと、トーストとオリジナルブレンドコーヒーです」

「わあ、美味しそう」


 カットされたいちごが贅沢に盛られた可愛いケーキに見惚れる。ぼっちくんのトーストには目玉焼きが別皿に乗せられて追加されていた。

 なんだかうちの朝食のセットみたい。


「ごゆっくりどうぞ」

 スタッフさんが去ると、ぼっちくんは徐にトーストの上に目玉焼きを乗せて、サンドした。

 私はそれを見て目を丸くした。


「その食べ方……!」


 もう、せっかくの美少女が台無し!

 って、妹に大不評の私の食べ方に瓜二つだ。


「これが俺のいつもの食べ方だ」

「本当⁉︎ 私もそうやってよく食べるの! すごい、私たちって気が合うね!」

「あと、これ」


 ぼっちくんとの共通点に喜んでいると、ぼっちくんが通学カバンの中からお菓子のような袋を取り出した。


「忘れないうちに渡しとく」

「えっ……? 何それ」

「ビーフジャーキー。おこげは犬用おやつよりこっちの方が好きだから」

 お前にやる、と言ってぼっちくんは私にビーフジャーキーをくれた。


「ありがとう……って、どうしてぼっちくんがおこげの好きなものを知ってるの?」


 一周目で会ってるとはいえ、おこげのことをさすがに知りすぎてない?

 不思議に思った私に、ぼっちくんはマジな顔をして言った。


「別に、俺たちの気が合うわけでもなんでもない。おこげは前世で俺が飼ってた犬だし、このトーストの食い方も元々俺がオリジナルなんだよ」

「え?」


 どういう意味なのかまだ分からなくてキョトンとしていた私に、ぼっちくんはそっとため息をついた。


「入学式の日、遅刻したよな七瀬」

「うん」

「病院に行ってたんだろ? 倒れた妊婦に付き添って」

 私が遅刻した理由は学校側に説明していない。誰も知らないはず。

 さすがに私の笑顔も凍りつく。


「どうしてそれを……?」


「俺も前世で遅刻した。何故なら、目の前に陣痛起こした妊婦がいて付き添って病院に行ったからだ。救急隊の奴らが勝手に俺のことを妊娠相手だと誤解して、学生のくせにって怒られたよ」

「……え?」

「おこげ助けようとして川で溺れたのも俺自身のことだし、毎日日記をつけているのも満点コークが好きなのもそう」


 そしてぼっちくんは私に衝撃的な事実を突きつけた。



「つまり、俺の一周目の人生で起きた出来事は、どうやらこの二周目では七瀬の運命として繰り返されてる──らしいんだよな」



 お店の空気がとんでもなく冷えているような気がして、私はブルっと震えた。


「わ、私がぼっちくんの一周目の人生を……繰り返してる?」

 考えに考えてようやく繰り出した私のセリフは、結局ぼっちくんのセリフを繰り返しただけだった。


「ああ。ぼっちとして前とは違う人生を送り続けて、これで完全に運命が回避されたと思ってた。だけど入学式の日にお前が遅刻してきて……なんか嫌な予感がしたんだ。それからずっと七瀬のことを陰から見守り続けていたけど、選ぶ物とか行動パターンが俺と同じで、すげえデジャヴを感じてた。俺の前世で歩んできた人生が七瀬の今の人生に瓜二つだって気づくのに、時間はかからなかったよ」


 私は完全に思考停止してしまって、瞬きもしないでぼっちくんの真っ直ぐな目を見ていた。



「分かるか? この意味。つまり、このままだとあと99日後のクリスマスイブの日、電車で轢かれて死ぬのはお前ってことなんだよ、七瀬」



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