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第14話 ウホ♡

 学園の昼休憩。天気も晴れ模様で穏やか。風も少し冷たく、太陽の暖かさとの塩梅で過ごしやすい気候。


 昼食を食堂で食べ終わると、学園の庭に出て太陽の光を浴びながら談笑する生徒も少なく無い。


 木漏れ日も揺れるそんな昼時。木製の椅子に腰掛ける影が二つ。


「へ〜やっぱり職人気質なんだな〜」


「これでも父さんにしごかれてるからね」


「今度お邪魔していいか? 家が作ってる茶葉を持っていくよ」


「ぜひぜひ!」


 和気あいあいと語り合うのはこの二人。


「俺も実家の仕事出来る事増やさないとなぁ……」


 ルイス・サラダ。


「出来る事は少しずつ増やしていこうよ! 僕もそうだったし!」


 スミス・スチール。


 両名である。


 ブライアン騒動の最中に居た二人。互いに痛めつけられ、そして互いの尊厳が踏みにじられた苦い記憶。元は少しだけ話すだけの両友だったが、その体験を共有する二人の距離は一気に縮まり、今では親友と呼べるまでに発展した。


「「アハハ!」」


 木漏れ日の中で談笑する二人の姿はどこか板についており、心の底から笑っている表情はこれまで見向きもしなかった女子生徒たちには輝いて見え、頬を染ませる始末。


 中にはルイスとスミス二人の熱い絡みを妄想する女性たちも数人おり、別の意味で頬を染めている。


 そんな仲の良い二人に、二つの影が落ちた。


「おいおいぃ、ザク同士仲良しこよしかぁ? 良い身分だなぁルイスにスミスぅ」


「良い身分だなぁー!」


「げっ!? マルフォイ!?」


「マルフォイ!」


 悪名高いイングラム家の子息であるマルフォイ。その彼の許嫁であるカルヴィナが登場。


 つまりは俺と俺の女だ。


 周りの連中は不意に現れた俺たちを見てそそくさと退散するのがチラホラ。様子を伺うのもチラホラ。


 そして明らかにめんどくさい俺に絡まれたルイスとスミスに同情する視線も感じる。


(うわぁ最近絡んでこないと思った矢先かよ……。最悪……)


 などと思いながら超露骨に嫌そうな顔をするルイス。そうそう顔が大事。


 周りに俺の存在が如何に面倒くさいかを知らしめるいい表情だ。


 だと言うのに……。


「どうしたの! マルフォイ!」キラキラ


 スミスのザクときたら目を輝かせて俺を見てくる……。


 ブライアン騒動の後からか、スミスは俺を見ると露骨に目を輝かせてくる。確かにブライアンから救い出し、負った手の深手も俺が治した。そして共に苦境を乗り越えたルイスとも仲良くなるその一端を俺が関わっているからか、ものすごく好かれている……。


「……困るんだよそれは」


「ん? 何だってマルフォイ?」キラキラ


 つい俺の心境を呟いてしまったが、声が小さくて聞こえなかったようだ。それは重畳。


「なんだスミス馴れ馴れしいぞ!」


「馴れ馴れしいぞー!」


 隣のカルヴィナがいつものように同調。


「忘れたのかスミスぅ。お前の店とオヤジ、ガモンを扱き使えるのは俺だけだぁ!! つまりはお前も俺のザクとして一生ボロ雑巾の様に使ってやる!!」


「使ってやるー!!」


 傍観している生徒たちに見栄張る俺の威厳を見せつける。そうする事で俺の悪名はどんどん悪くなり、正義感ある生徒は俺を嫌い、不念ある悪い生徒は俺にこびへつらうだろう。


 益々ルイスはイヤな顔をする。


 だが。


「うん! これからもご贔屓に!!」キラキラ


「……」


 何なんだこいつは……。こっちは悪評を取りに行くムーブをしていると言うのに未だに眼を輝かせている。ルイスの反応が正常だと言うのにまるで意味が意味が分からんぞ……。


 まぁそんな事は些事。


「んーぺろ」


 飽きたカルヴィナが俺の耳たぶを舌で転がしているが些事。


「ん゛ん゛! いいかザク共。精々俺のために勉学に励めと言っておくが、今日はルイスに用があるぅ」


「ッエ゛!?」


「どうだ嬉しいだろぉ?」


 心底嫌そうな顔をするルイス。


「ちなみにスミスには用はない。精々ガモンの下で腕を磨いて置け」


「うん……」シュン


 心底落胆した顔をするスミス。うん。お前はキッチリガモンから教わって腕を磨け。


「「っぐっへっへっへっへ!!」」


「ひぃいいいい!?」


 そして今まさに、俺の手がルイスの顔を掴む。


 その時だった。


「――待て!!」


「「!?!?」」


 爽やかなキレのある声が響き渡る。


 ルイスとスミスが俺とカルヴィナの餌食になっているのを傍観する生徒たち。その群れの中から奴が割って歩いて来た。


「マルフォイにカルヴィナ! 君たち悪の貴族が民を害するのは! この正義の貴族であるボク――ヴィンセント・グラップが許さないぞ!!」


 流れる綺麗なブロンドの髪。それを靡かせながら、ヴィンセントは俺とカルヴィナに啖呵を切った。

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