目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

034 創世神殿にて

 神殿と言うのは、創世神ニューワルトとかいう最高神を祀っている宗教施設だ。正式には『創世神殿』と言うらしい。


 エアプレイスにも神殿はあったけれど、国自体があまり宗教色に染まってなかったせいか、アタシも馴染みがない。


 “転移門”と呼ばれる太陽マークのような、円座のシンボルがあちらこちらに描かれてる。


 ニューワルトの像は太陽を背負った、男としても女としても見える中性的な顔立ちだ。ゆったりとしたローブを着ていて分からないけど、確か両性具有とか習った記憶がある。


「勢いで来ちゃったけど……。大丈夫かな?」


 長い石畳の階段を進みながら、アタシはユーデスに聞く。


「……ま、ここにニューワルトが居るわけでもないしね。大丈夫でしょ」


 なんだか投げやりに聞こえるなぁ。


 ユーデスの機嫌はあまりよくないみたい。


「なんかやっぱり怒ってる?」


「怒ってる……というより、心配している」


「心配?」


「うん。あのフィーリーって男は信用できない」


「……またそれ」


 なんでこんなにフィーリーを嫌うんだろう? 脚の長い長髪イケメンだからかな?


「もしかして、ユーデスの元の姿は短足チビで髪薄いとか?」


「は?」


 あ、なんか怒った。図星だったのかな。


「……レディー。私は容姿のことを言ってるんじゃないよ」


「うん。今のはアタシが悪かったけど、でもよく知りもしないで、アタシの知り合いを悪く言わないでほしいんだよ」


「……」


 んー、なんかイヤな雰囲気。


 ユーデスは表情とかないからイマイチ感情読み取れないんだよね。


 いつもみたいにベラベラと喋り倒してくれた方が……


 あ。ユーデスに何か話題を振ろうと考えている間に、神殿の奥へ辿り着いちゃった。


 神殿は祈祷以外に、医療系神官による治療なども行われている。


 受付でローラさんの紹介状を渡し、お布施という名目の治療費を払い、しばらく待合室に座っていると名前を呼ばれる。まるで前世の病院みたいなシステムだ。


 ローラさんの知り合いらしい神官の前に座る。


 医術の心得があるというか、医者が神官になることはそう珍しくないらしい。治療魔法があるんだから、それはむしろ当然なのかも知れない。


「……それで、剣を振ると力が入らなくなると?」


「はい。なんか多分、神経に異常があるんじゃないかなーと」


「君は医者かね? 勝手に診断するんじゃない」


 怒られた。


 なんでこんなゴリラみたいな人が神官なの?


 神官ってより、プロレスラーの方が似合いそう。


 もっと優しい人の方が、癒やし効果も高まると思うんだけどなぁ。


「……右手を伸ばして」


 言われるままに手を伸ばす。神官さんはアタシの腕を色々と弄くり回す。こそばゆいこそばゆい。


「んー。反応が鈍い。次は舌を出して」


「べー」


 なんか本当に診察みたいだ。魔法でちゃちゃっと原因を調べたりはしないんだ。


「次は目を見せて」


 親指を目の下に当てられる。ちょっと痛い……ってか顔をのぞきこまれるのって本当にイヤだ。勘弁して。


「ふーむ」


「なんなんですか?」 


「……薬物中毒」


「えっ!?」


 薬物中毒?


 って、麻薬!?


 アタシ、ジャンキーじゃないんですけど!


「……まあ、ほとんど抜け落ちてはいる。特に治療は必要ないだろう。時間が経てば元に戻る」


「えっと、中毒になるようなことをした覚えは……」


「出身は? 地域によっては、普段食べている物で、知らず知らずのうちに常用してしまっている場合もある」


「エアプレイス…ですけど」


「エアプレイス? 空中城塞の?」


 ゴリラ神官は目を見開いた。


 目あったんだ。彫りが深すぎて埋もれて見えただけみたい。


「ハハハ。冗談にしては笑えるな」


 いや、冗談じゃないんだけど……。


「君と同じ症状の人はいたかね?」


「え? あー、いや、周囲にアタシみたいな症状はいませんでした」


 もし普段食べてる物が麻薬だったとしたら、お父さんやお母さんだけじゃなく、他の人たちもそうなってておかしくない。そんな話は聞いたことがなかった。


「なにか君だけ拾い食いしてたとかはないかね? そこら辺に生えているキノコを食べてたとかは…」


「そんなことするかッッッ!!」


 いきなり怒鳴ったアタシに、ゴリラ神官はびっくりしたようだった。


「そ、そういえばローラからの紹介状に、“凶暴化”の兆候があると……お祓いしよう! きっと君は薬物中毒以前に、何か悪いモノに取り憑かれているに違いない!」


「結構です! アタシは至って普通です!」


「悪霊に憑かれた者は大概そう言うんだ!」


「自然に治るんですよね! それが分かっただけで充分です! ありがとうございました!」


「こら! 待たんか!」


 アタシを取り押さえようとする神官たちの手から逃れ、アタシはそそくさと神殿を後にしたのだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?