「チームアップゥ? これでぇ?」
後から酒場に来たウィルテは、マイザーから渡された依頼書を見て嫌そうな顔を浮かべる。
「う、うん。戦闘は向こうが受け持つから、アタシたちは捜索に専念していいって言うし……」
「近年発見されたニスモ島にある遺跡の調査。依頼してきたのは、考古学者ですか。主たる目的は、巣食っている魔物の排除と、歴史的遺物などの発見保護。……内容を見るに、特に不自然な点はなさそうですが」
フィーリーがそう言うと、ウィルテは「んー」と頷く。
「成功報酬は5,000E。持ち帰った遺物も査定して追加報酬あり。確かに悪くない条件にゃ。……でも、其れより気になるのはマイザーたちの取り分にゃ」
「8:2……マイザーたちは2でいいって。ブルーランク案件だから、そもそもアタシらが受けなきゃ報酬にもありつけないから、って」
「そこにゃ。そこがどうも納得できないにゃ。確かにウィルテ……ブルーランクでないと受けられない依頼だとしても、2割の取り分なら1,000にしかならんにゃ。こんな金額なら、イエローランク以下の仕事でもざらにあるにゃ」
胡散臭そうにしながら、ウィルテは言う。
「それに、そもそもウィルテたちだけで受ければ報酬は総取りにゃ。マイザーたちを連れてく必要もないにゃ」
「そこは人数がたくさんいれば、それだけ遺物を持ち帰れるだろう…って」
アタシは聞いていて変だとは思わなかったけど、ウィルテは違うみたいでずっと唸ってる。
「……とりあえず、断るにゃ」
「え? な、なんで?」
「このマイザーってヤツは、ウィルテがソロでやってる時から何か周りでチョロチョロしてたにゃ。あんま信用していい相手に思えないのが理由にゃ」
確かに何か調子がいいことを言う感じはあったけど。
「あー。でも、返事しちゃったんだよね」
「は?」
「あー、ウィルテは大金があれば断らないかなぁって……」
「……まさか、なにか書類にサインをしましたか?」
「え? なんか名前を書いてくれって言われたんで、よく分かんないけど……サインしたんだけど」
アタシが申し訳なさそうに言うと、ウィルテとフィーリーは大きく首を横に振る。
「間違いなく、共闘同意書にゃ」
「反故にした場合は?」
「書類を読む限り、キャンセルするなら、こちら側は報酬金額に上乗せして支払うべしと小さくあるにゃ」
「え?」
「ハメられましたね。レディー」
え? ハメられたって……
でも、あれ? ユーデスだって側に見てたのに何も……
ん? なんかボソボソと……「トレーナの胸と尻に見惚れていて詳しく覚えてない」だぁ!?
ふ、ふざけるなぁ!!
「ご、ゴメン……その、アタシ……」
「まあ、いいにゃ。ウィルテやフィーリー様がいない時を狙ってたんにゃろうし。
ぐうッ。その言い回しが胸に刺さる……
「それに町長の依頼もパーになったから、どうせイチから割のいい仕事探さなきゃいけないとこにゃったし。それを考えたら、金が入ってくるだけマシにゃ」
「え? 町長の依頼パーって……ギルドマスターも交えて話すってた件だよね?」
「ええ。それです」
「それおかしくない? だって、向こうはアタシらを指名して来たんでしょ?」
アタシがそう言うと、ウィルテは苦々しそうな顔を浮かべる。
「ギルドマスターの話ってのが、実はそれだったにゃ。“ダブルパイパイ”を指名して来たのに、それを横からかっさらっていったヤツがいたって、そんな聞きたくもない事後報告にゃ!」
「ええ? そんなことって……ありなの?」
「本来なら問題です。ですが、相手がブルーランクの実力者で、依頼人も説き伏せられてしまったから、ギルドとしても何ともし難いという話でした」
「ブルーランクって……もしかして、昼間に会ったいけすかない侍?」
「“サムライ”? うん? ああ、リュウベイのことかにゃ? 違うにゃ。また別のヤツにゃ」
「別の人?」
「“クアトロアックス”という、4人兄弟で編成されるチーム……だそうです」
フィーリーも名前だけしか聞かされてないのか、ウィルテの方を見て言う。
「4人と言っても、ブルーランクなのは長男のローガンだけにゃ。筋肉ですべてが解決するとか考えてる暑苦しいだけの筋肉バカ兄弟にゃ!」
ウィルテが毛嫌いしてる。体育会系かな? それならアタシも苦手だ。できることなら人生で一度もお目に掛かりたくはない。
「でも、なんで横取りなんか…」
「簡単な話にゃ。ブルーランク専門の依頼は数が少ないにゃ。それでいつも取り合いになるのと、町長みたいな有権者の直々の依頼なら、レッドランクへの一番の近道になるからにゃ」
「ああー。なら、もしかして、リュウベイが受付で怒っていたのも……」
「この件だった様ですね。しかし、町長側からの最低限の要望が、“ブルーランク”で、なおかつ、“3人以上のチーム”だったんです」
「リュウベイんとこは2人チームにゃから、交渉にもならなかったんにゃ」
だから、3人いるウチか、4人の“クアトロアックス”…だったってわけか。
“クアトロアックス”ってのはどんなのか分かんないけど、少なくとも出来立てホヤホヤの“ダブルパイパイ”よりは実績豊富だろうし、町長からすればそっちに依頼するのは当然だよね。
「クソッ! あのクソ兄弟が笑ってるのを想像したらまた腹が立ってきたにゃ! ギルドも報酬を没収でもしてやればいいにゃ!」
「しかし、ウィルテ。暴力をちらつかせ、依頼人を脅した行為も問題だと……」
「え?」
「ギルドマスターから、この件を目溢しする代わりに、手打ちにしてくれと……言われましたよね」
「いえ! フィーリー様! それは町長側の勘違いなのにゃ! ウィルテたちは真っ当に交渉しようとしただけで!」
ウィルテが慌てて言い訳してるけど、フィーリーがそれを信じてないのは明らかだ。
なら、ギルドマスターに呼ばれたのって、依頼を横取りされた件を伝えるためじゃなくて、むしろアタシらの行為を注意するためだったんじゃないのかな。
「そ、それよりも、レディーは神殿でどうだったにゃ!? 治療してもらえたのかにゃ!?」
ウィルテは露骨に話題を逸らせてくる。
「診てもらったけど、なーんも分からないって。ただ時間が経てば治るって」
“薬物中毒”の件は伏せておく。なんか話したら色々とツッコまれそうだし。
「治るのってのは……暴走が?」
「あ。ううん。いや、そっちじゃなくて、神経とか、調子がとかの話かな」
「え? 呪われてるって話だったんじゃにゃいのか?」
「違う違う。そんなことないから」
無理やりお祓いされそうになったことを思い出して嫌な気分になる。
「……いつ頃、ちゃんと戦えるようになるとかは?」
なんかフィーリーが怖い顔してるけど、そりゃアタシが戦えないお荷物だと困るもんね。
「そういう話はされなかった。たぶん、明確には分からないからじゃないかな」
「そうですか。なら、引き続き、力を完全にコントロールできるまでは魔剣の使用は控えた方がよいでしょう。それまでは戦闘は私とウィルテに任せて下さい」
「え? でも……」
「大丈夫にゃ。この辺の魔物なら、ウィルテとフィーリー様で軽くカタがつくにゃ。レディーはゆっくりリハビリしてくれればいいにゃ」
うーん。なんか申し訳ないけど、またユーデス使って暴走しては元も子もないってのも分かる。
「それに、戦闘がないって聞いたからマイザーの誘いに乗ったんでしょ?」
「う、うん」
そう。マイザーたちが戦ってくれるなら、捜索ならアタシにも出来そうだなぁって思ったんだ。
「なら、今回は前向きにその依頼をこなすとしましょう」
フィーリーがそう言うと、アタシもウィルテも揃って頷いたのだった。