目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

038 賑やかな道中

 『アル・ズナー古代遺跡』。


 ニスモ島の奥深い森の中で、2年ほど前に見つかったものらしい。


 もしかしたらこの島の成り立ちなどの発見に繋がるかもと、または隠された金銀財宝でも出てくるのではないかという期待に、島の外からもレンジャーや学者などが集まって来たそうだ。


 しかし、魔物が多数発生する上、遺跡内部は地下深くまで続くダンジョンとなっており、かなり深くまで探索したレンジャーが何も収穫がないと言ったことから、今では見向きもされなくなったらしい。




──




「なあ、その剣いいな。業物なんだろう?」


「……いえ、店で買える普及品です」


「そ、そうか。……あー。その長い髪、戦いの時とか邪魔にならない?」


「……特には」


「そ、そうなんだ」


 先を歩いているマイザーは、なぜかしきりにフィーリーに声を掛けてるが、話はまったく盛り上がらない。


「剣士の男友達がほしいんしょ」


 シェイミが、アタシの側に来て言う。


「ダルハイドさんがいるじゃん」


「あー、ニヒヒ。ダルハイドは年いっちゃってるしね。マイザーとバカな遊びには付き合わーねよな」


 最後尾にいたダルハイドさんに向かって、シェイミが言う。


「失礼じゃな。キサンらと10とおぐらいしか離れてはおらんぞ」 


「10離れてたら話し合わねぇよ〜」


 え? ならダルハイドさんはまだ20代ってこと? 毛は真っ白だし、喋り方が老人ぽかったからてっきりもっと上だと思ってた。


「えー。マイザーとかっていくつなの?」


「ん? あー、18だよ」


「へ? お酒飲んでたけど…?」


「ん? 18なら、フツーに酒飲めるでしょ? 薄めなきゃ飲めない年齢でもなし」


 あ。そうか。この世界じゃ飲酒規制とかはないのか。


 自分の意思決定ができるようになった、15歳くらいで成人とみなされる文化だしね。


 どうも未だに前の世界のルールに縛られちゃうな。まあ、アタシの周りに酒飲む人いなかったから知らなかったってのもあるけど。


「そういうレディーは幾つなの?」


「14……じゃなくて、この前に15になったばかり」


「おー、ならウチとタメじゃーん」


 シェイミは茶色い尻尾を振る。なんかモフモフしてる。うーん、触りたくなる。


「あー、そうなんだ。いや、たぶん同い年くらいか年下かとは思ってたけど」


「ニヒヒ。ま、種族が違うと、年齢って意外とわかんねぇーよな」


「シェイミはなんて種族なの?」


「知らねぇの? あー、まあニスモ島にゃあんまいないからな。ウチは犬人コボルトだよ」


 あー。やっぱり柴犬だったんだ。ホッペから出てる毛もそれっぽかったし。


 擬人化柴犬。犬好きには堪らないなぁ。アタシはそこまで動物好きじゃないけど。


 ウィルテの猫人キャッティに、シェイミの犬人コボルト。なんか分からないけど、揃った感じがする。


「で、マイザーの1個下がトレーナ。確かウィルテと同い年じゃね? 魔法使い同士でもあるし」


「やめて。“魔法使い”って雑にひとくくりにしないでよ」


 アタシたちの前を歩いていたトレーナさんがジロリと睨んできた。


「そうにゃ。ウィルテみたいに“万能魔法師オールマイティー”と、そこら辺の平々凡々な魔法使いを一緒にしたら可哀想にゃ」


「はあ? “オールマイティー”は魔法剣士の称号でしょうが」


「そうやって肩書に囚われてるから、攻撃だけしか能がない魔法使いとかが生まれるのにゃ」


 トレーナさんは悔しそうに唇を噛む。


「ブルーランクだからって偉そうにして…。あなたの魔法の才能は確かに認めるにしても、その格好はなんなのよ!」


「にゃ?」


「魔法使いなら、魔法使いらしい格好しなさいよ!」


「ハッ! 魔法書ばっか読んでるだけのネクラ魔術師が決めた服装なんて守れるかにゃ!」


 ウィルテが舌を出し、トレーナさんが真っ赤になる。


 シェイミは「まるで水と油だねぇ〜。コワイコワイ」と言いつつも、少し楽しんでるような感じに耳打ちしてきた。


「そんな、ぶっかぶかのローブ姿で森ん中歩く方がおかしいにゃ!」


 確かにトレーナさんは動きづらそうだ。木の枝や、根にときたま引っ掛かってる。けど……


「その格好の方がよほどおかしいわよ!」


 ですよねー。


 ウィルテはビキニアーマーだ(アタシも同じだけど)。ローブ以上に、森で歩く格好じゃない。


 帽子はかろうじて魔法使いっぽいけど、トレーナさんの被っているのはオーソドックスな魔法使いだという感じなのに、ウィルテのはバッジや羽飾りとかで色々とデコられて原形がない。


「ウィルテはまだ若いからいいにゃ。肌には自信があるにゃ」


「若さを理由に、節操をなくしていいわけじゃ…」


「自信がないならそうやって隠してればいいにゃ」


「誰が! それに私の方が背も高いし、スタイルだって……」


 トレーナさんは、シェイミを見た。


「え? あー、標人ヒューマンの基本ってのが分からないから…」


 ウィルテにチラッと睨まれ、シェイミはわざとらしくそんなことを言う。


 それにシェイミはその際、フィーリーとマイザーを指差してたけど、そもそも男と女じゃ、種族差以前に体格差あるんだから平均も何もないでしょ。


「な、なら、レディー。あなたなら、女で、同じ種族なんだから分かるでしょ?」


 そして、なんでかアタシにと振られた。


「うん。トレーナさんは、アタシからしても羨ましいぐらいスタイル抜群で魅力的だと思う」


 正直な気持ちを素直に言うと、ウィルテは「裏切り者〜」とジト目となり、トレーナさんはフフンと笑う。


 トレーナさん。もっと年上のお姉さんって思ってたけど、意外とそういうところは年相応なんだな。 


 つい忘れちゃうけど、前の世界の自分よりは年下なんだから当たり前なのか。


 そういや、ユーデスがやけに大人しいから不思議に思って声をかけると……


「ねえ、フィーリーが仲間になるのはあんなに反対だったのにいいの?」


「女の子が同じ数だけ増えるなら我慢する」


 ……とか、言うし。


 黙っていたのは、ずっとシェイミとトレーナさんを観察していたからかよ。


 そして、今度は胸の大きさを競い出したウィルテとトレーナさんを、マイザーがなんか嬉しそうにチラチラ振り返ってくるし。


 男ってのはどいつもこいつも……


「さて、お喋りはしまいじゃ。そろそろ目的地じゃぞ」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?