アタシたちは順調に洞窟内を進んで行く。
古代遺跡といっても、中は土壁ばかりで、たまにボロボロの人工物っぽい柱や、部屋だったものらしき空間があるだけで、期待していた宝箱なんて1個も出てこない。
モンスターはそこそこ出てきたけれど、さっきのスケルトンや、大きなイモムシやダンゴムシ、それとギャアギャアうるさいコウモリみたいなの……名前を聞く前に、誰かが反応して先に倒してしまう。
「いやー、フィーリー“師匠”! お疲れじゃないですか? 水どうぞ!」
小休憩時、少し開けた場所、岩に腰掛けたフィーリーに、マイザーが自分の水筒を差し出す。しかも直角にお辞儀してまで。
「……いえ、大丈夫です」
「そうっすか! なら、師匠! 肩もみでもしましょうか!」
「……結構です。それと」
「はい! なんでしょう!? 師匠!?」
「……その“師匠”というのは止めて貰えませんか?」
「えー? いや、もう“師匠”は“師匠”ですから!」
「私は弟子を取るつもりは…」
「はい! 勝手に見て、勝手に学ばさせて貰ってます! “師匠”呼びは、俺が勝手にやらせて貰ってます! 師匠!」
「……」
入口の近くでフィーリーがスケルトンを一掃してから、マイザーはずっとこの調子だ。
「……ねえ、これも“裏をかく”って作戦なの?」
アタシが小声でウィルテに尋ねると、彼女はフレーメン反応してる猫みたいな顔をしていた。
「買いかぶってたにゃ。マイザーがあそこまでアホだったとは思わなかったにゃ」
結構、声が大きかったけど、側にいたトレーナさんもシェイミも呆れ顔のまま頷いた。
「……まあ、あれだけ実力差を見せつけられてはな」
周囲の見回りに出ていたダルハイドさんが戻ってきて、「どっこらしょ」と地面に腰を下ろす。
「お願いします! 1つだけ! 1つだけ質問させて下さい!」
今度はマイザーは土下座して両手を合わせてる。フィーリーは眉間にシワを寄せて迷惑そうにしていた。
「もうやめなよ。リーダー。休憩が休憩じゃなくなるってば」
見かねたシェイミが声を掛けるが、マイザーは土下座から姿勢を戻さない。
「どうやったら、剣に魔力を流せるようになるんですか!? それだけ! お願いします! 教えて下さい! ヒントだけでも! 師匠!」
フィーリーはため息をついて髪を掻き上げる。
「あなたのレベル帯は?」
「レベルは24です!」
マイザーがそう言うと、シェイミ、トレーナさん、ダルハイドさんまでもが「ああー」と顔を覆った。
「なんなの?」
「普通、レベルはライバルのレンジャーには正直に教えないにゃ。フィーリー様がわざわざ“レベル
ウィルテも呆れかえった顔で言う。
この世界ではレベルとか数値化できるものが多くあるんだけれど、エアプレイスでは誕生日を迎えると、神官さんが両親に教えてくれるって感じだった。
アタシも15歳になったら、直接、自分のパラメーターとか教えて貰える予定だったんだけど……。
「ねえ、ウィルテ」
「ん?」
「アタシのレベルっていくつか分かる?」
「は? レディー自身に分からないのに、なんでウィルテに分かるんにゃ?」
そりゃそうか。
フィーリーなら……いや、お父さんがアタシのレベルとかわざわざ伝えたりするかな? しないよな。フィーリーはアタシに才能ないってたし。興味すら抱きそうにない。
ん? なんか、トレーナさんがこっちを見て不思議そうな顔を浮かべてるけど……あれ? アタシが見返したら視線を逸らしちゃった。
「レベルは単なる経験の指標じゃからな。昔ほど重要視されなんだ。ギルドランクも、レッドランク以下ならレベルそのものは問われんしな」
「あー、なんか魔物倒した時の経験値だけ得てレベルアップだけして、ろくにスキルも持ってないで死んだレンジャーが昔にいたんだっけ?」
「強さには直結せんからな。本人の能力を高く見せ、金儲けだけに利用する
へー。レベルが高いから強いってわけじゃないのね。
アタシらとは別に、マイザーはフィーリーの話を真剣になって聞いている。
「流派は?」
「一応、剛剣派のつもりなんですが……その、倣ったのは普通の“双剣術”なんです」
「なるほど。“常剣”ということですね」
「“ジョウケン”?」
「魔力を纏わない、普遍的な剣術…“誰でも使える常なる剣”をそう呼んでいます」
「あ。いや、でも、道場は剛剣って…」
フィーリーは首を横に振る。
「剛剣は“ただ力を込めた剣撃”と勘違いされやすく、常剣派の中には剛剣流を名乗る者も多いのですが、その殆どが偽物です」
「に、偽物?」
マイザーは目を丸くして驚く。
「実のところ、剛剣も魔力を使っています。武術によっては“
慌ててマイザーは懐から紙を取り出すと、細い木炭でメモを取り始める。
「魔法は使えますか?」
「え? あ、ああ。多少…なら」
「それであれば、魔法のセンスはあるということ。レベルが20台で普通に経験を積んでいるのなら、流剣に目覚める可能性も高いでしょう」
「な、なにかコツみたいなものは……」
「ありませんね。魔法と同じく、魔力を剣に流すというのは感覚的なものが要求されます。言葉で言ってどうにかなるものでもありません。才能がない人間はいつまで経っても会得はできません」
マイザーはガッカリしたように肩を落とす。
フィーリーやモンドに「才能がない!」と揃って言われたことをアタシは思い出す。
「才能は関係ないよ」
「え? ユーデス?」
アタシは周囲を見回すけど、マイザーたちの話に集中しているおかげで誰にも気づかれなかった。
「才能が関係ないって…どういうこと?」
「魔力そのものは才能じゃない。誰しもが持ってるものなんだよ。力を引き出す“方法”と“手順”さえ踏めば、魔力の多寡そのものは個人差があったとしても誰しもが扱える。本来はそういうものさ」
「……そうなの?」
「魔剣の私がそう言っている」
んー。そう言われると説得力がある気もする。
みんなはフィーリーの話を感心したように聞いているけど……
「彼はレディーの剣の師匠なんだろう?」
「え? うん」
「君に剣の才能がないって言ったのは彼?」
「うん」
「ふーん。なら“見る目”がないね、彼は」
うあー。ユーデス、冷たく言うなぁ。
「……次に魔物が出たら私に任せて」
「でも、戦うなって言われてるし…」
「大丈夫だよ。言われたのは“魔剣の力を使うな”でしょ?」
「そうだったかな?」
「まあ、任せて」
「レディー。またブツブツなに言ってるにゃ?」
「あ! いや、なんでもないよ!」
危ない。ウィルテに気づかれるところだった。
アタシが顔を上げると、みんな立ち上がっていた。
「レディー。休憩は終わりだよ。さぁ、さっさと目的の地下3階目指してレッツゴー!」