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042 罠だらけの遺跡

 3階部分は今までと違い、ちゃんとした人工物に見えた。


 今までのような掘ったばかりの土壁などではなく、定規で測ったかのようにブロックを並べて造られた壁だ。


 3階部分だけで吹き抜けみたいに上下階層に分かれてるみたいで、大きく湾曲して繋がる柱と手すりが、暗闇の先にもずっと続いているみたい。


 床板も真っ平らな石畳だ。土汚れの着いた足で踏むのが躊躇われるくらい立派だ。


 所々で壊れていて、さすがに古さは感じるけれど、埃まみれだとか汚いという感じはしない。誰かが手入れをしているわけでもないだろうに、不思議だった。


 魔物はダルハイドさんが言ってた通り、上の階とはまた種類が違って、開けたら襲い掛かってくる宝箱や、天井からいきなり舌を伸ばしてくる河童みたいなのが出てくる。


 たぶん強いんだろうけど、ユーデスかシェイミが向こうより先に気づくから、こっちが先制攻撃して倒してしまう。名前も強さもやっぱり分からずじまいだ。


「強さも数も思ってたほどじゃないな」


「ワシらだけなら苦戦しておったわい。“ダブルパイパイ”がいてこそじゃ」


「ああ、それはもちろんだけどよ。それにしたって、“クアトロアックス”…ローガン兄弟あたりなら、余裕で探索してそうだけどな」


 マイザーがそう言うと、なぜかダルハイドさんは一瞬だけ唇を開いて牙を出した。


「おい。マイザーってば」


「あ……悪い。ダルハイド」


「……別に気にしておらん」


 マイザーが、シェイミとトレーナさんに睨まれてる。なにかマズイことでも言ったのかな。


「魔物よりも、この迷路が厄介ですね」


「そうにゃ。今までの階よりも複雑に入り組んでるし…」


 フィーリーとウィルテはマップを拡げて、現在位置を常に確認している。


「奥に行けば行くほど、引き返すための分岐が増えるのは当然ですが、問題は行きは2叉路でも、戻る時には3叉路に見える…」


 フィーリーは行く先を示し、後ろを指差す。確かにさっきは2つあった道の右を進んで来たはずなのに、戻る道はなぜかもう1本横に道がある。


「視覚的なトリックです。向こうは戻る時にしか気づかない角度で造られたダミーの側路でしょう。先は袋小路かさもなくば…」


「とんでもない罠が仕掛けられてるにゃ」


 なぜかみんながマイザーを見やる。


「だそうよ、リーダー。いくら腕っ節が強くても、脳筋じゃ攻略できないんですって」


「んだよ。トレーナまで。俺だって少しは頭使ってるぜ。分かれ道の度に、目印になるよう錫貨をこうやって…」


 マイザーはポケットからコインを取り出すと、指で弾いて来た道の方へ落とした。


「いくら道が分かれてたとしても、これを辿って戻ればいいだろ。俺って頭よくね?」


「さっきから、なんで金を飛ばしてるのかと思えばさ…」


 シェイミが頭を左右に振る。


「ほら、あれ見なよ」


「え?」


 シェイミが指差す方を見やると、暗がりから小さな真っ黒いものが出てきた。

 それは目玉を冗談みたいに大きくしたキツネリスっぽい生き物で、トコトコと走ってきて、さっきマイザーが飛ばしたコインを掴む。


「あ! やめろ! そこに置いとけ! コラ!」


 掴んだと思いきや、物凄い勢いでダッシュしてどっかに行ってしまった。


「ああ! 泥棒! 俺の1Eがぁ!」


 走って追いかけようとしたマイザーを、ダルハイドさんが大きな手で止める。


「やめんか」


「離してくれ! 今なら捕まえられる! 後で全部回収するつもりだったんだ!」


「小銭惜しさに、命まで失ってもいいなら止めんがな」


「は?」


物喰猿アイテムイーターです。ああやって冒険者の持ち物を取っては、追い掛けて来たのを巧妙に罠へと誘導する習性があります」


 フィーリーは、さっき袋小路か罠があると言っていた道を指差す。


「ダンジョンには付き物の魔物じゃんか。どうせやるなら壁にこうやって…」


 シェイミが、ナイフで壁に小さなキズをつける。


「それも無駄じゃな。“地霊の加護”が掛かっとる」


「地霊だって?」


「こういう古い建築物は、保全のために精霊を使う場合があるにゃ」


 ウィルテが何かをブツブツと言って魔法を使うと、壁のところで何かが光る。


 そして、今さっきシェイミがつけたキズのところに光が集まると、以前のキズがない状態に戻った。元通りになると、光は溶けるように消える。


「経年劣化そのものは避けられんが、ちょっとしたキズやヨゴレはいま見た通りすぐじゃ。修復されんよう、大きなキズをつける方法もあるが、それを分岐路が出る度にやるのは賢いとは言えんだろうな」


 武器を持って大きく振りかぶろうとしていたマイザーとシェイミは、壁を殴る前に止まって「アハハ」なんて苦笑いする。


「……まあ、ワシとシェイミの鼻。それにトレーナとウィルテの補助魔法があれば、仮に迷う事はあっても脱出は可能じゃろう」


 「それに…」と言いながら、ダルハイドさんがアタシを見やると、ユーデスが鍔鳴りをする。


 ダルハイドさんはアタシを見てニイッと笑う。


 違うし。これやってるのユーデスだし……。


「引き際は間違えぬように注意せねばなりませんがね」


「うむ。遺跡の構造を鑑みるに、よほどここの持ち主は深奥には立ち入れられたくなかったと見える。どんな罠があるか分からん。さらに用心して行くぞ」


「おう! 任せ…」


 ガチャン!


「「「「「え?」」」」」


 変な音がした。


 なんかマイザーの足元のタイルが下に落ち込んでいる。


 そういや、そのタイルだけ周りと微妙に色が違う気がする……



「罠だよ。見れば分かるかと思ってたんだけど……」


 ユーデスが申し訳なさそうに小声でアタシに教えてくれる。


 なんだか当たりが振動し始めて……


 天井からパラパラと砂が落ちてくる!


「マイザー!」「リーダー!」「バカにゃ!」


「い、いや、だってよぉ〜」


 シェイミ、トレーナ、ウィルテに囲まれて、マイザーは泣きそうになっている。


「え? 壁が動いてる!」


 アタシたちが居たのは通路だったのに、振動に合わせて少しずつ幅が拡がっていく。


「何か来ますね」


「頭を切り替えんか」


 フィーリー、ダルハイドさんが武器を構える。


 やがて、通路全体が大きく拡がって──

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