大きく開かれた通路。それは広間のようになっていた。
そして、先に進む道、戻る道の方に鉄格子が降りて来る。
「走っても間に合わないにゃ。ここで始末するための罠にゃ」
全員がマイザーを恨みがましい目で見る。
「だ、だってよ! しょうがねぇじゃん! “B-6”は念入りに調べろって…」
「「マイザー!」」「リーダー!」
シェイミ、ダルハイドさん、トレーナさんがなぜか急に怒った。
ウィルテとフィーリーは何か冷めた目をしている。
ユーデスが「なるほどね」とか言ってるけど、もしかして理解してないのアタシだけ?
「敵の出方を口を開けて見る阿呆はおらん。何が起きてもいいように動くぞ」
ダルハイドさんがそう言うと、みんなが動き出すけど、こういう時ってどうするのが正解なんだろう?
そう。数合わせ、引き立て役のために呼ばれた合コンと同じ。
アタシはいてもいなくても同じ……
だから、目立たず、騒がず、邪魔をせず……
「レディー! サポート魔法使える範囲にいて!」
トレーナさんに怒られる。
そうだ。“参加はしてる風”じゃないとマズイ。
「なんで笑ってるのよ? 笑ってる場面じゃないでしょ!」
愛想笑いしただけ。でも、そうだ。“気持ち悪いから笑うな”だった……
「うるさいにゃ! トレーナ! レディーが笑ってるのは、“狂犬”だからにゃ! こんな『危機、屁でもねぇぜ!』ってアピールにゃ!」
「マジか! ルーキーなのにそこまで肝っ玉据わってんのか!」
「ま、マイザー。マジに受け取るなよな」
「冗談はよさんかい!」「来ますよ!」
ダルハイドさんとフィーリーが揃って言う。
中央のタイルがパタパタとめくれ上がり、下から台座のようなものが迫り上がって来た。
そこに座っていたのは、閉じた目をした綺麗な女性の顔。だけれど、身体はライオンの上半身、下半身は蛇といった魔物だ。しかも大きい。ダルハイドさんを抱えられるぐらいのサイズはある。
「おいおい。冗談だろ。
「違うわ。あれは…」
「
ウィルテが難しい顔をして言う。
「“エキドナ”? そんな魔物は聞いたことねぇぞ」
「キマイラは、魔術師が宝物を守らせるために造った人工魔獣にゃ。あれはそれの改良版。命令を聞くに足りない知性を追加するために造った魔獣にゃ」
「つまり“番人”というわけかいのぅ」
「そうにゃ。こんなものまで置くぐらいにゃから、さぞかしとんでもないお宝が……?」
途中でウィルテは首を傾げる。
「……なんか変にゃ?」
「変? 変って何が…」
ガシャン!
なにか金属音がしたかと思うと、エキドナの首が前後に揺れ、首が少し伸び、伸びたところの隙間からプシューと蒸気のようなものが噴き出された。
「は?」
その生物っぽくない動きに、アタシたちは固まる。
そしてエキドナの首が元に戻ると、ゆっくりと目を開く。
その瞳は照準線のようで、目の中で光がリレーでもするように往復している。
え? これ、なんかロボットっぽくない? これが魔物なの?
『……ヨウコソ、オイデクダサイマシタ。コノ“館”ヘノ立チ入ルニハ、ソノ“資格ノ確認”ヲサセテ頂キマス』
合成された機械音声っぽい。ウィルテも怪訝そうにしているし、魔物ならこんな感じではなさそうだ。
「……魔力で動かしている
ユーデスがそう言う。
「資格って…なんだ?」
マイザーの問いに、全員が「知らない」と首を横に振る。
『デハ、ハジメマス。問①……“商人”ガ 取引二オイテ 最モ重視スルモノハ ナニカ?』
「? 商人? なんだこの質問はよ…」
「答えを知る者しか通さぬということじゃろ。早く答えんとマズイぞ」
ダルハイドさんが言う通り、エキドナ…いや、メカ・エキドナからはタイマーみたいなチッチッチという音がしている。
「早く! マイザー!」
「なんで俺なんだよ! あー、でも、商人? 商人が重視するモノ? 分かんねぇよ! 俺は剣士だぞ!」
「なんでもいいから答えるにゃ! なんか音がするペースが速まってるのにゃ!」
マイザーは頭を掻きむしってヘッドバンキングする。
「……あ! 分かった! 分かっちったぞ! 俺!」
「ホントでしょうね?」
トレーナさんが胡散臭そうにするけど、マイザーは自信たっぷりに鼻の下を擦る。
「この窮地にあって、俺の冴え渡る頭脳が……」
「そんなんどーでもいいから! さっさと答えろよ!」
シェイミの蹴りが、マイザーの尻を押し出す。
「答えは! “金”! “金”だ!!」
メカ・エキドナのタイマー音がピタッと止まる。
「商人が商売する目的って言えばそれだろ!」
みんな感心するように「おおー」と頷く。
「確かに当たり前だからこそ気づかなんだ盲点じゃな」
「マイザーもたまにはやるじゃん」
褒められるのに、マイザーが喜んでいる中……
メカ・エキドナから、ブッブー! と、ピープ音みたいなのがする。
『不正解! 正解ハ……“愛”デス!』
「……は?」
『“愛”ガアルカラ、誰カノタメニ働ケル。“愛”ガアルカラ、商売ヲスル。“愛”ガアルカラ、ソノ稼ギデ貢ゲル。……コレガ、“欠如なき魔商”ノ生キ様デス!』
「な、なんじゃそりゃー!?」
マイザーが叫ぶが、メカ・エキドナは問題無用とばかりに隠されていた鋼鉄の翼を拡げる!
『“愛”ニ値シナイ愚者ニ、“愛”ノ裁キヲ!!!』
メカ・エキドナの表情が、怒りに満ちた般若の顔に切り替わり、アタシらに襲いかかってきたのだった──