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043 メカ・エキドナ

  大きく開かれた通路。それは広間のようになっていた。


 そして、先に進む道、戻る道の方に鉄格子が降りて来る。


「走っても間に合わないにゃ。ここで始末するための罠にゃ」 


 全員がマイザーを恨みがましい目で見る。


「だ、だってよ! しょうがねぇじゃん! “B-6”は念入りに調べろって…」


「「マイザー!」」「リーダー!」


 シェイミ、ダルハイドさん、トレーナさんがなぜか急に怒った。


 ウィルテとフィーリーは何か冷めた目をしている。


ユーデスが「なるほどね」とか言ってるけど、もしかして理解してないのアタシだけ?


「敵の出方を口を開けて見る阿呆はおらん。何が起きてもいいように動くぞ」


 ダルハイドさんがそう言うと、みんなが動き出すけど、こういう時ってどうするのが正解なんだろう?


 そう。数合わせ、引き立て役のために呼ばれた合コンと同じ。


 アタシはいてもいなくても同じ……


 だから、目立たず、騒がず、邪魔をせず……


「レディー! サポート魔法使える範囲にいて!」


 トレーナさんに怒られる。


 そうだ。“参加はしてる風”じゃないとマズイ。


「なんで笑ってるのよ? 笑ってる場面じゃないでしょ!」


 愛想笑いしただけ。でも、そうだ。“気持ち悪いから笑うな”だった……


「うるさいにゃ! トレーナ! レディーが笑ってるのは、“狂犬”だからにゃ! こんな『危機、屁でもねぇぜ!』ってアピールにゃ!」


「マジか! ルーキーなのにそこまで肝っ玉据わってんのか!」


「ま、マイザー。マジに受け取るなよな」


「冗談はよさんかい!」「来ますよ!」


 ダルハイドさんとフィーリーが揃って言う。


 中央のタイルがパタパタとめくれ上がり、下から台座のようなものが迫り上がって来た。


 そこに座っていたのは、閉じた目をした綺麗な女性の顔。だけれど、身体はライオンの上半身、下半身は蛇といった魔物だ。しかも大きい。ダルハイドさんを抱えられるぐらいのサイズはある。


「おいおい。冗談だろ。合成獅子キマイラかよ!」


「違うわ。あれは…」


母面獅子エキドナにゃ」


 ウィルテが難しい顔をして言う。


「“エキドナ”? そんな魔物は聞いたことねぇぞ」


「キマイラは、魔術師が宝物を守らせるために造った人工魔獣にゃ。あれはそれの改良版。命令を聞くに足りない知性を追加するために造った魔獣にゃ」


「つまり“番人”というわけかいのぅ」


「そうにゃ。こんなものまで置くぐらいにゃから、さぞかしとんでもないお宝が……?」


 途中でウィルテは首を傾げる。


「……なんか変にゃ?」


「変? 変って何が…」


 ガシャン!


 なにか金属音がしたかと思うと、エキドナの首が前後に揺れ、首が少し伸び、伸びたところの隙間からプシューと蒸気のようなものが噴き出された。


「は?」


 その生物っぽくない動きに、アタシたちは固まる。


 そしてエキドナの首が元に戻ると、ゆっくりと目を開く。

 その瞳は照準線のようで、目の中で光がリレーでもするように往復している。


 え? これ、なんかロボットっぽくない? これが魔物なの?


『……ヨウコソ、オイデクダサイマシタ。コノ“館”ヘノ立チ入ルニハ、ソノ“資格ノ確認”ヲサセテ頂キマス』


 合成された機械音声っぽい。ウィルテも怪訝そうにしているし、魔物ならこんな感じではなさそうだ。


「……魔力で動かしている機械人形オートマターだ」


 ユーデスがそう言う。


「資格って…なんだ?」


 マイザーの問いに、全員が「知らない」と首を横に振る。


『デハ、ハジメマス。問①……“商人”ガ 取引二オイテ 最モ重視スルモノハ ナニカ?』


「? 商人? なんだこの質問はよ…」


「答えを知る者しか通さぬということじゃろ。早く答えんとマズイぞ」


 ダルハイドさんが言う通り、エキドナ…いや、メカ・エキドナからはタイマーみたいなチッチッチという音がしている。


「早く! マイザー!」


「なんで俺なんだよ! あー、でも、商人? 商人が重視するモノ? 分かんねぇよ! 俺は剣士だぞ!」


「なんでもいいから答えるにゃ! なんか音がするペースが速まってるのにゃ!」


 マイザーは頭を掻きむしってヘッドバンキングする。


「……あ! 分かった! 分かっちったぞ! 俺!」


「ホントでしょうね?」


 トレーナさんが胡散臭そうにするけど、マイザーは自信たっぷりに鼻の下を擦る。


「この窮地にあって、俺の冴え渡る頭脳が……」


「そんなんどーでもいいから! さっさと答えろよ!」


 シェイミの蹴りが、マイザーの尻を押し出す。


「答えは! “金”! “金”だ!!」


 メカ・エキドナのタイマー音がピタッと止まる。


「商人が商売する目的って言えばそれだろ!」


 みんな感心するように「おおー」と頷く。


「確かに当たり前だからこそ気づかなんだ盲点じゃな」


「マイザーもたまにはやるじゃん」


 褒められるのに、マイザーが喜んでいる中……


 メカ・エキドナから、ブッブー! と、ピープ音みたいなのがする。


『不正解! 正解ハ……“愛”デス!』


「……は?」


『“愛”ガアルカラ、誰カノタメニ働ケル。“愛”ガアルカラ、商売ヲスル。“愛”ガアルカラ、ソノ稼ギデ貢ゲル。……コレガ、“欠如なき魔商”ノ生キ様デス!』


「な、なんじゃそりゃー!?」


 マイザーが叫ぶが、メカ・エキドナは問題無用とばかりに隠されていた鋼鉄の翼を拡げる!


『“愛”ニ値シナイ愚者ニ、“愛”ノ裁キヲ!!!』


 メカ・エキドナの表情が、怒りに満ちた般若の顔に切り替わり、アタシらに襲いかかってきたのだった──


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