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047 トランジション・ゲート

 メカ・エキドナの居た部屋をくまなく調べる。


 まだ先に進む道はあったけど、シェイミが言うには“わざとらしい作り”をしてるらしい。


「だいたいさ。罠を張るなら、全員を一網打尽にするものの方が効率いいわけ。マイザーが踏んでからわざわざ仕掛けが動き出したって点から見ても、何か知られたくないものが隠されてるって思うのよ」


 シェイミは四つん這いになって、お尻や尻尾をフリフリさせて言う。


 ユーデスが興奮しそうな光景だけど……何の反応も示さない。


「ちょっと、マイザー。ジャマ!」


「イテッ! ひどくね!?」


 シェイミは、同じように壁の隙間をのぞき込んでいたマイザーの尻を叩いた。


「……あー。これっぽいな。ここだけ石の組み方が変」


 壁の模様を見て、「ちょっと時間かかりそうだから他を探してて」とシェイミは言う。


 マイザーはシェイミの周りでウロウロしたけど、また「ジャマ!」と怒られていた。


「む? これではないか。マイザー」


「え? 何かあったのか?」


 ダルハイドさんに呼ばれて、マイザーは走って行く。


「アタシらも探さないと…」


 そう言ったけど、やっぱりユーデスは返事をしなかった。



「にゃー。にゃんか、この遺跡は変にゃ」


「変て何が?」


「遺跡そのものはかなり古いものにゃ。洞窟は後から掘られたから、それより前のモノってのは分かるにゃ。けど…」


 ウィルテは、メカ・エキドナがいた台座に触れる。


「これだけ真新しいにゃ。たぶん、100年も経ってないにゃ」


「それが?」


「それがって……つまり、誰かが遺跡に後付けでこんなモンを作ったってことにゃ」


「誰が?」


「んだから、それを考えてるにゃ」


 ウィルテはアタシをジロリと見やる。


 アタシらがそんな話をしていると、何か後ろで歓声が上がった。


 振り返ると、マイザーの頭にダルハイドさんの拳骨が落ちていた。


「どうしたの?」


「あ。いや、なんでもないわ! マイザーが……そう! 小銭を拾って、大げさに驚いたのよ!」


 どうしてか、トレーナさんが来てそんな事を言う。


「なんにゃ?」


「あー、気にしなくていいから」


「そう言われると気になるにゃ」


 ウィルテが、トレーナさんの肩越しに背伸びして目を細める。


「なんにゃ? スケルトン?」


 アタシの目にも、瓦礫に挟まったらしい白骨…たぶん、大腿骨らへんが見えた。


「ん? それ魔物じゃないにゃ。服装から言ってレンジャーかにゃ」


 服装は今風だ。スケルトンは何も着てないか、年代物の古びた鎧を着ていたから違和感がある。


「そうじゃ。ここであのカラクリ仕掛けのエキドナにやられたんじゃろう」


 焦げた服の一部を取り、ダルハイドさんが言う。


「なんにゃ。そいつの懐から転がり出た金を拾って喜んでんのか。とんだ“ピルファラー”にゃ」


「ピルファラーって?」


「別名、“死体漁り”にゃ。レンジャーの中でも最も軽蔑されてるにゃ。冒険者の死体や、戦争後の空き家に忍び込んで、金目の物モンだけかっぱぐ非合法なヤツらにゃ」


「あんなのと一緒にすんなよ!」


 マイザーは怒りながらも、なんかリュックサックの中に入れてた。


 まさか本当に死体から金を……


「注意したからもうやらん。安心してくれ」


 ? そうだよ。ダルハイドさんがいるからそんな事は……


 でも、そうなるといま、入れたのはなんだったって話に……



「解けたよ!」


 壁の方からシェイミの声が上がる。



 アタシたちがそっちに向かうと、フィーリーが珍しく驚いた顔をしていた。


「これは…」


 シェイミが調べていた壁が奥に引っ込み、残った四隅についていた四角い燭台みたいなものから、黒い稲妻みたいなものが奔ったかと思うと、そのエネルギーがうねり合わさって渦みたいなものが真ん中にできる。


「「【トランジション・ゲート】!?」」


 ウィルテとトレーナさんが同時に叫んだ。


「なんじゃそれは?」


「高位の移動魔法にゃ! でも、術者もなしにどうやって発動したにゃ?」


「移動魔法? トレーナやウィルテは使えないのか?」


「バカ言わないでよ、リーダー! レッドランクの魔法使いでも使える人はまずいないわよ!」


 魔法にそこまで詳しくないらしいマイザーは「へー」などと言って、渦をしげしげと見やる。


「近づくな! どこに飛ばされるか分からないにゃ!」


「え?」


「はいはい。マイザー、離れて離れて。トレーナたちが使えないほどの魔法を使う魔術師、しかもさっきのエキドナの主人がいるんだとしたら絶対にヤベーヤツでしょ」


 シェイミに襟首を掴まれて、マイザーは引きずられる。


「……どうじゃ? トレーナ」


「……先は普通。屋外。でも、敵はいそうにないわ。待ち伏せはない。絶対とは言わないけど」


 眼を凝らして渦を見ていたトレーナさんがそう言う。


「は? なんでそんなこと言えるにゃ?」


 ウィルテが疑問に思うのも当然で、アタシの目にも真っ黒な塊にしか見えない。


「まあ、いいじゃろ。ワシらはトレーナを信じるだけよ」


 ウィルテとフィーリーを見やるけど、2人ともなんとも言えないって顔をしていた。


「絶対、他の連中は見つけてないから、この先にあるお宝はウチらのモンだね。ニヒヒ♪」


 シェイミが「おっさきー」と言って渦の中に入って消える。マイザーが慌てて「俺より先に行くな!」ってそれを追い掛ける。


「……だから、絶対って言ってないのに。まったくもう」


 トレーナさんはブツブツと言いながらも続く。


「それではな。ここで待つならそれもよしじゃ」


 ダルハイドさんも行ってしまうと、ウィルテが「あー、もう!」と帽子をギュッと被り直した。


「……レディーが、あのエキドナを倒したにゃ。だから、ウィルテたちが一番の功労者にゃ。それなのに美味いところを吸わないのは納得がいかにゃい!」


「……そうですね。“レンジャー”ならそうあるべきでしょう。私はリーダーの決定に従います」


 フィーリーがそう言うけど、それってただ単にアタシへのプレッシャーだから。


「……行くよ。この依頼、受けたのはアタシなんだからさ」


「それでこそレディーにゃ! マイザーなんかに先を越されてなるものかにゃ!」


 アタシの肩をバシバシ叩いて、ウィルテはゴクッと息を呑み込む。


「さあ、行こう!」


 アタシは目をつむって、勢いよく渦の中に飛び込んだ──

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