メカ・エキドナの居た部屋をくまなく調べる。
まだ先に進む道はあったけど、シェイミが言うには“わざとらしい作り”をしてるらしい。
「だいたいさ。罠を張るなら、全員を一網打尽にするものの方が効率いいわけ。マイザーが踏んでからわざわざ仕掛けが動き出したって点から見ても、何か知られたくないものが隠されてるって思うのよ」
シェイミは四つん這いになって、お尻や尻尾をフリフリさせて言う。
ユーデスが興奮しそうな光景だけど……何の反応も示さない。
「ちょっと、マイザー。ジャマ!」
「イテッ! ひどくね!?」
シェイミは、同じように壁の隙間をのぞき込んでいたマイザーの尻を叩いた。
「……あー。これっぽいな。ここだけ石の組み方が変」
壁の模様を見て、「ちょっと時間かかりそうだから他を探してて」とシェイミは言う。
マイザーはシェイミの周りでウロウロしたけど、また「ジャマ!」と怒られていた。
「む? これではないか。マイザー」
「え? 何かあったのか?」
ダルハイドさんに呼ばれて、マイザーは走って行く。
「アタシらも探さないと…」
そう言ったけど、やっぱりユーデスは返事をしなかった。
「にゃー。にゃんか、この遺跡は変にゃ」
「変て何が?」
「遺跡そのものはかなり古いものにゃ。洞窟は後から掘られたから、それより前のモノってのは分かるにゃ。けど…」
ウィルテは、メカ・エキドナがいた台座に触れる。
「これだけ真新しいにゃ。たぶん、100年も経ってないにゃ」
「それが?」
「それがって……つまり、誰かが遺跡に後付けでこんなモンを作ったってことにゃ」
「誰が?」
「んだから、それを考えてるにゃ」
ウィルテはアタシをジロリと見やる。
アタシらがそんな話をしていると、何か後ろで歓声が上がった。
振り返ると、マイザーの頭にダルハイドさんの拳骨が落ちていた。
「どうしたの?」
「あ。いや、なんでもないわ! マイザーが……そう! 小銭を拾って、大げさに驚いたのよ!」
どうしてか、トレーナさんが来てそんな事を言う。
「なんにゃ?」
「あー、気にしなくていいから」
「そう言われると気になるにゃ」
ウィルテが、トレーナさんの肩越しに背伸びして目を細める。
「なんにゃ? スケルトン?」
アタシの目にも、瓦礫に挟まったらしい白骨…たぶん、大腿骨らへんが見えた。
「ん? それ魔物じゃないにゃ。服装から言ってレンジャーかにゃ」
服装は今風だ。スケルトンは何も着てないか、年代物の古びた鎧を着ていたから違和感がある。
「そうじゃ。ここであのカラクリ仕掛けのエキドナにやられたんじゃろう」
焦げた服の一部を取り、ダルハイドさんが言う。
「なんにゃ。そいつの懐から転がり出た金を拾って喜んでんのか。とんだ“ピルファラー”にゃ」
「ピルファラーって?」
「別名、“死体漁り”にゃ。レンジャーの中でも最も軽蔑されてるにゃ。冒険者の死体や、戦争後の空き家に忍び込んで、金目の物モンだけかっぱぐ非合法なヤツらにゃ」
「あんなのと一緒にすんなよ!」
マイザーは怒りながらも、なんかリュックサックの中に入れてた。
まさか本当に死体から金を……
「注意したからもうやらん。安心してくれ」
? そうだよ。ダルハイドさんがいるからそんな事は……
でも、そうなるといま、入れたのはなんだったって話に……
「解けたよ!」
壁の方からシェイミの声が上がる。
アタシたちがそっちに向かうと、フィーリーが珍しく驚いた顔をしていた。
「これは…」
シェイミが調べていた壁が奥に引っ込み、残った四隅についていた四角い燭台みたいなものから、黒い稲妻みたいなものが奔ったかと思うと、そのエネルギーがうねり合わさって渦みたいなものが真ん中にできる。
「「【トランジション・ゲート】!?」」
ウィルテとトレーナさんが同時に叫んだ。
「なんじゃそれは?」
「高位の移動魔法にゃ! でも、術者もなしにどうやって発動したにゃ?」
「移動魔法? トレーナやウィルテは使えないのか?」
「バカ言わないでよ、リーダー! レッドランクの魔法使いでも使える人はまずいないわよ!」
魔法にそこまで詳しくないらしいマイザーは「へー」などと言って、渦をしげしげと見やる。
「近づくな! どこに飛ばされるか分からないにゃ!」
「え?」
「はいはい。マイザー、離れて離れて。トレーナたちが使えないほどの魔法を使う魔術師、しかもさっきのエキドナの主人がいるんだとしたら絶対にヤベーヤツでしょ」
シェイミに襟首を掴まれて、マイザーは引きずられる。
「……どうじゃ? トレーナ」
「……先は普通。屋外。でも、敵はいそうにないわ。待ち伏せはない。絶対とは言わないけど」
眼を凝らして渦を見ていたトレーナさんがそう言う。
「は? なんでそんなこと言えるにゃ?」
ウィルテが疑問に思うのも当然で、アタシの目にも真っ黒な塊にしか見えない。
「まあ、いいじゃろ。ワシらはトレーナを信じるだけよ」
ウィルテとフィーリーを見やるけど、2人ともなんとも言えないって顔をしていた。
「絶対、他の連中は見つけてないから、この先にあるお宝はウチらのモンだね。ニヒヒ♪」
シェイミが「おっさきー」と言って渦の中に入って消える。マイザーが慌てて「俺より先に行くな!」ってそれを追い掛ける。
「……だから、絶対って言ってないのに。まったくもう」
トレーナさんはブツブツと言いながらも続く。
「それではな。ここで待つならそれもよしじゃ」
ダルハイドさんも行ってしまうと、ウィルテが「あー、もう!」と帽子をギュッと被り直した。
「……レディーが、あのエキドナを倒したにゃ。だから、ウィルテたちが一番の功労者にゃ。それなのに美味いところを吸わないのは納得がいかにゃい!」
「……そうですね。“レンジャー”ならそうあるべきでしょう。私はリーダーの決定に従います」
フィーリーがそう言うけど、それってただ単にアタシへのプレッシャーだから。
「……行くよ。この依頼、受けたのはアタシなんだからさ」
「それでこそレディーにゃ! マイザーなんかに先を越されてなるものかにゃ!」
アタシの肩をバシバシ叩いて、ウィルテはゴクッと息を呑み込む。
「さあ、行こう!」
アタシは目をつむって、勢いよく渦の中に飛び込んだ──