私はいつ何をやってもダメな女だった。
「ゴブリン討伐依頼達成ね。……あれ、確か“マイザー・チーム”は他の依頼も残っていましたね」
「あれ? そうだっけ?」
「ええ。ギムジナル薬草の採取が…」
「この前、採ってきたのは?」
「ランザ。右から5番目の棚にファイルがあるから、取ってちょうだい」
私は言われたまま、ファイルを取って姉に手渡そうとして床に散らばしてしまう。
「もう。何やってるの!」
ローラは立ち上がり、私が屈む前に書類をサッとまとめて取ると、あっという間に揃え直す。
「……この前、持って来られたのはメールヌ草ですね。香材料です。見た目が似てるから、お間違えになったのでは?」
「あー。確かにそうだったわ。やっちまったな。よーし、そんなに手間かからんやつだし。さっさと片付けちまうか。また行ってくるわ」
周囲から「えー」という不満の声が上がるが、リーダーのマイザーさんは気にした様子もない。
「報酬はその時で?」
「ああ。よろしく頼むわ。
おら、いつまで不貞腐れてやがるッ! もう一度、森に行くぞ!」
「かしこまりました。お気をつけて」
姉はフーと小さく息を吐くと、書類に目を落とす。
「ランザ。この薬草の依頼達成分の報酬合計を用意しておいて。1割増しでね」
「え? 依頼達成してからじゃ…」
「あのチームは大丈夫よ」
「1割増なのは…?」
「いつも追加依頼も達成してくるからその分よ」
姉ローラはこんなに優秀なんだ。
ギルドの仕事を殆ど独りでこなしてしまうくらいに……。
ある日、町長のご子息マルカトニー様がギルドに来られた。
「これはようこそお越し下さいました。マルカトニー様。言って頂ければ、こちらから赴きましたのに」
ローラもいつもより堅い口調だ。
変な依頼は多いが、彼はお得意様だ。個人的な好き嫌いで姉は態度を変えたりはしない。
……ウィルテとかいうレンジャーにだけは別だけど。
「フン。ランザと話をさせろ」
マルカトニー様が私を指差す。
そうだろうなぁと思っていたけれども、こうやって選ばれる瞬間はいつも一番気持ちがいい。
ローラやギルドのスタッフ皆の視線が、私にと集まる。ゾクッと私の背中を何かが走る。
「……マルカトニー様。妹……いえ、ランザでなくとも、他のスタッフでもご依頼は承れるかと思いますが」
「いや、その女がいい」
ダメだ。ついニヤけてしまいそうになる……」
「……かしこまりました。仰せの通りに」
「2階の応接室だな。お前たちは入口で待機していろ」
使用人たちにそう命じると、誰の許可を得るでもなく、マルカトニー様は奥の階段へと向かう。
「……これだからボンボンってやつはッ」
ローラが小さく悪態をつく。なにも自分が
「……ねえ、ランザ。なにか変なことされてるようなら私がマスターに言いなさい」
「お客様に失礼になるから……。行ってくるね」
皆の羨望の眼差しを背に受けながら、私はマルカトニー様を追いかけて2階へと向かった……。