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056 選ばれたランザ

 私はいつ何をやってもダメな女だった。


「ゴブリン討伐依頼達成ね。……あれ、確か“マイザー・チーム”は他の依頼も残っていましたね」


「あれ? そうだっけ?」


「ええ。ギムジナル薬草の採取が…」


「この前、採ってきたのは?」


「ランザ。右から5番目の棚にファイルがあるから、取ってちょうだい」


 私は言われたまま、ファイルを取って姉に手渡そうとして床に散らばしてしまう。


「もう。何やってるの!」


 ローラは立ち上がり、私が屈む前に書類をサッとまとめて取ると、あっという間に揃え直す。


「……この前、持って来られたのはメールヌ草ですね。香材料です。見た目が似てるから、お間違えになったのでは?」


「あー。確かにそうだったわ。やっちまったな。よーし、そんなに手間かからんやつだし。さっさと片付けちまうか。また行ってくるわ」


 周囲から「えー」という不満の声が上がるが、リーダーのマイザーさんは気にした様子もない。


「報酬はその時で?」


「ああ。よろしく頼むわ。

 おら、いつまで不貞腐れてやがるッ! もう一度、森に行くぞ!」


「かしこまりました。お気をつけて」


 姉はフーと小さく息を吐くと、書類に目を落とす。


「ランザ。この薬草の依頼達成分の報酬合計を用意しておいて。1割増しでね」


「え? 依頼達成してからじゃ…」


「あのチームは大丈夫よ」


「1割増なのは…?」


「いつも追加依頼も達成してくるからその分よ」


 姉ローラはこんなに優秀なんだ。


 ギルドの仕事を殆ど独りでこなしてしまうくらいに……。




 ある日、町長のご子息マルカトニー様がギルドに来られた。


「これはようこそお越し下さいました。マルカトニー様。言って頂ければ、こちらから赴きましたのに」


 ローラもいつもより堅い口調だ。


 変な依頼は多いが、彼はお得意様だ。個人的な好き嫌いで姉は態度を変えたりはしない。


 ……ウィルテとかいうレンジャーにだけは別だけど。


「フン。ランザと話をさせろ」


 マルカトニー様が私を指差す。


 そうだろうなぁと思っていたけれども、こうやって選ばれる瞬間はいつも一番気持ちがいい。


 ローラやギルドのスタッフ皆の視線が、私にと集まる。ゾクッと私の背中を何かが走る。


「……マルカトニー様。妹……いえ、ランザでなくとも、他のスタッフでもご依頼は承れるかと思いますが」


「いや、その女がいい」


 ダメだ。ついニヤけてしまいそうになる……」


「……かしこまりました。仰せの通りに」


「2階の応接室だな。お前たちは入口で待機していろ」


 使用人たちにそう命じると、誰の許可を得るでもなく、マルカトニー様は奥の階段へと向かう。


「……これだからボンボンってやつはッ」


 ローラが小さく悪態をつく。なにも自分が選ばれなかったから・・・・・・・といってそんなこと言わなくてもいいのにと思う。


「……ねえ、ランザ。なにか変なことされてるようなら私がマスターに言いなさい」


「お客様に失礼になるから……。行ってくるね」


 皆の羨望の眼差しを背に受けながら、私はマルカトニー様を追いかけて2階へと向かった……。

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