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058 仲直り

「……ッ! アタシは…」


 目を開くと、見慣れない風景……


 今にも崩れそうなボロボロの天井……


 ここは……どこ?


 ……そうだ。思い出した。


 依頼を受けて、この廃墟に来て……


「あ! 敵! 戦っている最中に……あれ?」


 アタシたちはハイ・リッチーと戦っている……そう慌てて身構えたけれども、どこにも敵の姿は見えない。


 でも、戦っていたのは間違いない。


 なぜなら、ウィルテやフィーリィーが側で気絶していたからだ。


「いったい、何があったの……?」


 起き上がって、すぐ目の前の床に刺さっていたユーデス。


 答えてくれないんじゃないかと不安になりながら、アタシはその柄にそっと触れる……


「ユーデス?」


「……やあ、レディー」


「ユーデス! よかった……もう、口をきいてくれないんじゃないかとばかり!」


「……ゴメン」


 なんだか落ち込んでいる?


「……実は、波長が一致しなかったのは私のせいなんだ」


「え? それって……ええっと、もしかしてトレントの時の暴走のことを言ってる?」


「ああ。君に原因があったわけじゃない。私が……君に合わせなかったんだ」


「……わざと?」


「……そう思われても仕方ない」


 アタシは顔を上げて周囲を見る。


 敵の気配はたぶんない。


「ハイ・リッチーは…」


「……私が倒した。君から掠め取った集めていた魔力を使ってね」


 ユーデスの声は抑揚がない。


「私は自分勝手だ。君の許可なく戦った。レディーの気持ちも考えず、結果さえ出せればいいって、この前も望まない戦いを強いたりして……」


「……ありがとう」


「……え?」


「助けてくれたことへの御礼だよ」


「え? あ、いや……別に……御礼なんて……」


「それにさ、アタシ、頭悪いからよく分からないんだけど……ずっと、ユーデスはアタシの事を心配してくれていたんだよね」


「……それは、うん」


「で、今もアタシたちを守ってくれた?」


「……守ったのかな。ただ感情のままに敵を倒しただけだよ」


「それでも、そのお陰でアタシは生きている」


 アタシがそう言うと、ユーデスは何か言いかけて口ごもった。


 表情は読めないけれど、たぶん戸惑っているんだろう。いつもの彼らしくない。


 なんだか、もどかしい。


「アタシもゴメン。ユーデスのこと、“アンタは剣”だって……そんな“道具”みたいな言い方しちゃった」


「……それは、本当のことだし……」


「ホントはそんなこと思ってない。だから、謝らせて。ユーデス。本当にゴメン」


「……レディー」


 ユーデスの表情は分からない。けど、もう怒ってないだろうことが分かる。


「お互い謝ったところで、ちょっと提案していい?」 


「提案?」


「そろそろ仲直りできない……かな?」


 握手ってわけじゃないけど、私はユーデスの柄の部分を撫でる。


「……私だって仲直りしたい。けど」


「けど?」


「……僕は、君に……まだ打ち明けていない秘密もあるんだ」


「それは今は言えないこと?」


「……」


「いつか話せる時が来たら話してくれる?」


「それは、もちろん……」


「なら、いいよ。それは話せる時が来たらで」


「え?」


「前に聞いたよね。“私はレディーの仲間?”って」


「……ああ」


「最初、アタシはユーデスのこと“強い武器”としか思ってなかったんだ。もちろん今は違う。けど、デモスソードを倒すためだけの力なんだって……そんな風に考えてたってのはホント」


 その言葉にユーデスが怒った気配はない。彼もそんなことには気づいていたんだろう。


「でも、さっき言ったようにもうそんな風には思っていない。ユーデスは仲間以上に大切なんだ。アタシにとって、欠かせない存在だよ」


「レディー…」


 そう。ユーデスが励ましてくれて、側にいてくれたから、アタシは生きてここまでやって来れたんだ。


 これが単なる武器だったなら……きっと今頃、アタシは野垂れ死にしている。


「ユーデスと一緒だからここまでこれたんだ。だから、これからも仲良くしてくれると助かるよ」


「……ありがとう。レディー。私は私の命の続く限り、君を守ると誓うよ」


「んー。それって……結構、クサイ台詞だね」


「そう? 愛の告白と取ってくれてもいいんだよ」


 よかった。なんだかいつものユーデスらしくなってきた。


「! レディー! 後ろだ!」


「え?」


 アタシは慌てて振り返る。


 そこに居たのは……

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