「……ッ! アタシは…」
目を開くと、見慣れない風景……
今にも崩れそうなボロボロの天井……
ここは……どこ?
……そうだ。思い出した。
依頼を受けて、この廃墟に来て……
「あ! 敵! 戦っている最中に……あれ?」
アタシたちはハイ・リッチーと戦っている……そう慌てて身構えたけれども、どこにも敵の姿は見えない。
でも、戦っていたのは間違いない。
なぜなら、ウィルテやフィーリィーが側で気絶していたからだ。
「いったい、何があったの……?」
起き上がって、すぐ目の前の床に刺さっていたユーデス。
答えてくれないんじゃないかと不安になりながら、アタシはその柄にそっと触れる……
「ユーデス?」
「……やあ、レディー」
「ユーデス! よかった……もう、口をきいてくれないんじゃないかとばかり!」
「……ゴメン」
なんだか落ち込んでいる?
「……実は、波長が一致しなかったのは私のせいなんだ」
「え? それって……ええっと、もしかしてトレントの時の暴走のことを言ってる?」
「ああ。君に原因があったわけじゃない。私が……君に合わせなかったんだ」
「……わざと?」
「……そう思われても仕方ない」
アタシは顔を上げて周囲を見る。
敵の気配はたぶんない。
「ハイ・リッチーは…」
「……私が倒した。君から掠め取った集めていた魔力を使ってね」
ユーデスの声は抑揚がない。
「私は自分勝手だ。君の許可なく戦った。レディーの気持ちも考えず、結果さえ出せればいいって、この前も望まない戦いを強いたりして……」
「……ありがとう」
「……え?」
「助けてくれたことへの御礼だよ」
「え? あ、いや……別に……御礼なんて……」
「それにさ、アタシ、頭悪いからよく分からないんだけど……ずっと、ユーデスはアタシの事を心配してくれていたんだよね」
「……それは、うん」
「で、今もアタシたちを守ってくれた?」
「……守ったのかな。ただ感情のままに敵を倒しただけだよ」
「それでも、そのお陰でアタシは生きている」
アタシがそう言うと、ユーデスは何か言いかけて口ごもった。
表情は読めないけれど、たぶん戸惑っているんだろう。いつもの彼らしくない。
なんだか、もどかしい。
「アタシもゴメン。ユーデスのこと、“アンタは剣”だって……そんな“道具”みたいな言い方しちゃった」
「……それは、本当のことだし……」
「ホントはそんなこと思ってない。だから、謝らせて。ユーデス。本当にゴメン」
「……レディー」
ユーデスの表情は分からない。けど、もう怒ってないだろうことが分かる。
「お互い謝ったところで、ちょっと提案していい?」
「提案?」
「そろそろ仲直りできない……かな?」
握手ってわけじゃないけど、私はユーデスの柄の部分を撫でる。
「……私だって仲直りしたい。けど」
「けど?」
「……僕は、君に……まだ打ち明けていない秘密もあるんだ」
「それは今は言えないこと?」
「……」
「いつか話せる時が来たら話してくれる?」
「それは、もちろん……」
「なら、いいよ。それは話せる時が来たらで」
「え?」
「前に聞いたよね。“私はレディーの仲間?”って」
「……ああ」
「最初、アタシはユーデスのこと“強い武器”としか思ってなかったんだ。もちろん今は違う。けど、デモスソードを倒すためだけの力なんだって……そんな風に考えてたってのはホント」
その言葉にユーデスが怒った気配はない。彼もそんなことには気づいていたんだろう。
「でも、さっき言ったようにもうそんな風には思っていない。ユーデスは仲間以上に大切なんだ。アタシにとって、欠かせない存在だよ」
「レディー…」
そう。ユーデスが励ましてくれて、側にいてくれたから、アタシは生きてここまでやって来れたんだ。
これが単なる武器だったなら……きっと今頃、アタシは野垂れ死にしている。
「ユーデスと一緒だからここまでこれたんだ。だから、これからも仲良くしてくれると助かるよ」
「……ありがとう。レディー。私は私の命の続く限り、君を守ると誓うよ」
「んー。それって……結構、クサイ台詞だね」
「そう? 愛の告白と取ってくれてもいいんだよ」
よかった。なんだかいつものユーデスらしくなってきた。
「! レディー! 後ろだ!」
「え?」
アタシは慌てて振り返る。
そこに居たのは……