「【フレイム・ボール・ネスティング】!」
ウィルテが中級魔法を放つ!
人よりも大きな炎の球が当たると、何度も繰り返し爆発する!
それでも、リビングアーマーの動きは止まらない。
「あまり強い魔法を使わないで! ランザまで傷つけちゃう!」
「そんなこと言われてもにゃ! うひぃにゃッ! 手を抜いてたらコッチがやられるにゃ!」
リビングアーマーが思いっきり振りかぶって殴ってくるのを見て、ウィルテは慌てて屈む。
物凄い風圧で、アタシのマントまで翻る。
「【月影歩】、【剃雷挙切】!」
フィーリーがまるで空を駆けるかのように走り、ウィルテを庇いつつ、連続で迫る拳を斬り上げる!
「フィーリー様♡ あ、ありがとうにゃ♡」
手や腕に攻撃は当たったけれど、見た目以上に頑丈そうな鎧には傷ひとつ付かない。
「クッ! 私の流剣ではパワーが足りない。ダメージにならないか…。ウィルテ。貴女の魔法では?」
「ダメにゃ。最高火力の魔法を使ったとしても、アレ系統の死霊族には効果薄いにゃ」
「やっぱりここはアタシが…」
「しかし…」
フィーリーは、アタシが暴走することを心配している。もうその心配はないけど、説明してる暇はない。
メカ・エキドナを倒した時みたいに、ユーデスに全部を任せればいいのかも知れない。でも、それもなんか違う。
ユーデスが今黙っているのは、アタシを信用してくれてるからだ。一緒に戦わなきゃダメなんだ。
「あ!」
アタシはふと、神殿で言われた事を思い出す。
「……そうだ。身体の薬物さえ抜ければ」
「薬物? なんにゃ? レディーは何か薬でもやってるのかにゃ?」
しまった。つい口走っちゃった…
「ううん。そういうわけじゃない。なんか食事とか不摂生してたからダメだったって神殿で言われたの」
「不摂生でそんなんにゃるのか?」
ウィルテは暴走の原因と思った様だけど、本当のところはアタシが剣を上手く振れない理由だ。
「……薬物さえ抜ければ、レディーはその魔剣の力を引き出せるのですか?」
「え? それは…」
正直、それは分からない。
でも、手に持つユーデスが熱を帯びた感じがした。もしかしたら肯定してくれているのかも……。
「可能性はあると思う。けど、今すぐにどうこうのとは…」
毒か何か知らないけれど、すべて抜け出るのは時間がかかると言っていた。今ここでどうにかなるもんじゃない。
「そうですか……」
フィーリーは何やら考え込んでいる。
「うん! だから、もうイチかバチかで…」
「待って下さい。……私に一計があります」
「一計? それは…」
「そのためには時間を稼ぐ必要がある。一旦、町に戻りましょう」
「え!? だって、アタシたちを追ってくるでしょ? このままコイツを町に行かせちゃ…」
「自我はありません。目に付く命あるものをすべて殺し尽くすまで、この魔物は破壊の限りを行うでしょう。どのみち町に来る結果になります」
「だからって…」
「ならば、被害は最小限にした方がいい。
町には警備兵もレンジャーもいる。足止め役としてはもってこいです」
フィーリーの言うことは分かる。
けれど、こんなヤツをわざわざ町に連れ帰るだなんて……
「ウィルテも同意見にゃ。敵の足は遅いにゃ。こっちが先に街に辿り着ければ、迎え撃つ戦力を整えることができるということにゃ」
「ええ。こういう手合いには、数をもって当たるのがいい。ここで無駄に戦って体力や魔力を消耗するよりはるかにいいです」
うーん。2人はそう言うけれど、でも、どうなんだろう。町には普通の人だっているんだし……
「ランザを助ける手立てを持つ方法も見つかるかもしれません。レディー。ここは一時撤退しましょう」
アタシはユーデスを見やる。ウィルテとフィーリーが目の前にいる時に返事がもらえるわけない。
けれど、ユーデスは何だか戦闘モードって雰囲気じゃない気がした。
まるで戦う気配がない。
……つまり、ここは逃げるのが正解ってこと?
「……うん。わかった」
アタシがそう言うと、フィーリーも剣を納め、ウィルテもワンドをしまう。
「では、町とは逆方向に逃げて、反対方向に誘導しましょう。そこから迂回すれば、さらに時間が稼げるはずです」
「走るの苦手だけど、フルマラソンにゃー」
「うん。一等賞は狙わなくてもいいんだよね。ならラクショーだよ!」
こうしてアタシたちはリビングアーマーに背を向けて、一気に走り出した……