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064 すぐに服を脱げ!

 イークルに戻って来たアタシたちは、すぐに冒険者ギルドに直行する。  


 他の応対をしていたローラさんに、緊急事態だと途中で割って入って、アタシたちが見た状況を手短に伝えた。


「そんな……ランザが……」


 いつもは事務的で淡々としているローラさんが、青白い顔になって唇を震わす。


「大丈夫にゃ、ローラ。レディーがきっと何とかするにゃ」


「え?」 


 ウィルテの勝手な約束を訂正したかったけれど、深刻そうな顔をしているローラさんを見ちゃうと「ムリ」だなんてとても言えない……


「しかし、人間が魔物化だなんて…それを解除する手立ては…」


「……私に心当たりがあります。しかし、その為にはレディーの力と、時間を稼ぐ必要がある」


 フィーリーがそう言うと、ローラさんは不安を消し去ろうとするかのように何度も頷く。


「ギルドマスターに話を通し、すぐに動けるレンジャー全員に通達を出します。

 町長にも衛兵の派遣を依頼して、民間人の避難誘導をして貰わねば……」


 やるべきことが決まると、ローラさんはテキパキと他の職員へと指示を出す。


 このわずかな間に、妹を助け出すのにそれが最善だと判断したんだろう。やっぱり、スゴイ人だ。


「ここは任せていいでしょう。レディーは今から私の部屋に…」


「待って。フィーリー。いったい何をしようとしてるの?」


「説明している暇はありません。ついて来れば分かります」




──




 まだリビングアーマーは街には到着していない。


 だけど、それも時間の問題だ。あの感じだと、ここまで来るのには1時間はかからないだろう。


 町で買い物をしている親子連れを見て、思わず「早く逃げて」と言いたくなるけれど、フィーリーもウィルテも「ひとりひとりに声をかけていてもキリがない」、「余計に混乱するだけだ」と止める。


 頭じゃ、それが正しいって分かる。


 けれど……


 ユーデスは何も言わない。ふたりが側にいるからってのもあるだろうけれど、なんだかずっとフィーリーの動きを見ている感じがする。



「ここです。さあ、中へ」


「にゃ! ここって町でも最も高級な宿にゃ!」


 ウィルテが驚く通り、金持ち連中が住んでそうな地域の一等地にあるホテルだ。


「一時的とはいえ、こんなところに住んでて、お金は……」


「そんな感想はいりません。3階の奥の部屋です。行きましょう」


 受付からボーイさんがやってきてアタシたちの荷物を持とうとしたけれど、フィーリーは片手を挙げて断る。


 アタシが泊まってるとこなんて、店主がルームキー放り投げてくるような安宿だ。



「はわわッ! ここがフィーリー様のお部屋……」


 ウィルテは何だか感極まっているけど、たぶんどこの部屋も同じ形だと思うけど。


 フィーリーもエアプレイスにいる時から知ってるけど、あまり物とか持つ人じゃないし、あると言ってもせいぜいマグカップぐらいだ。いわゆるミニマリストってやつなんだろう。


「ねぇ! フィーリー、いい加減に何をするのか教えて! 説明する時間がないのは分かるけど!」


「説明するより、やりながら話した方が早いのです」


 フィーリーは戸棚から、瓶を何本か取ってトレーに載せてやって来る。


 あと、すり鉢みたいな物も載って…なにこれ?


 え? 他にはコウモリの羽みたいなのとか、ミミズの干からびた物とか……物凄くイヤな予感しかしないんだけど。


「まさか、これを……」


「さあ、レディー。すぐに服を脱いで下さい」

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