イークルに戻って来たアタシたちは、すぐに冒険者ギルドに直行する。
他の応対をしていたローラさんに、緊急事態だと途中で割って入って、アタシたちが見た状況を手短に伝えた。
「そんな……ランザが……」
いつもは事務的で淡々としているローラさんが、青白い顔になって唇を震わす。
「大丈夫にゃ、ローラ。レディーがきっと何とかするにゃ」
「え?」
ウィルテの勝手な約束を訂正したかったけれど、深刻そうな顔をしているローラさんを見ちゃうと「ムリ」だなんてとても言えない……
「しかし、人間が魔物化だなんて…それを解除する手立ては…」
「……私に心当たりがあります。しかし、その為にはレディーの力と、時間を稼ぐ必要がある」
フィーリーがそう言うと、ローラさんは不安を消し去ろうとするかのように何度も頷く。
「ギルドマスターに話を通し、すぐに動けるレンジャー全員に通達を出します。
町長にも衛兵の派遣を依頼して、民間人の避難誘導をして貰わねば……」
やるべきことが決まると、ローラさんはテキパキと他の職員へと指示を出す。
このわずかな間に、妹を助け出すのにそれが最善だと判断したんだろう。やっぱり、スゴイ人だ。
「ここは任せていいでしょう。レディーは今から私の部屋に…」
「待って。フィーリー。いったい何をしようとしてるの?」
「説明している暇はありません。ついて来れば分かります」
──
まだリビングアーマーは街には到着していない。
だけど、それも時間の問題だ。あの感じだと、ここまで来るのには1時間はかからないだろう。
町で買い物をしている親子連れを見て、思わず「早く逃げて」と言いたくなるけれど、フィーリーもウィルテも「ひとりひとりに声をかけていてもキリがない」、「余計に混乱するだけだ」と止める。
頭じゃ、それが正しいって分かる。
けれど……
ユーデスは何も言わない。ふたりが側にいるからってのもあるだろうけれど、なんだかずっとフィーリーの動きを見ている感じがする。
「ここです。さあ、中へ」
「にゃ! ここって町でも最も高級な宿にゃ!」
ウィルテが驚く通り、金持ち連中が住んでそうな地域の一等地にあるホテルだ。
「一時的とはいえ、こんなところに住んでて、お金は……」
「そんな感想はいりません。3階の奥の部屋です。行きましょう」
受付からボーイさんがやってきてアタシたちの荷物を持とうとしたけれど、フィーリーは片手を挙げて断る。
アタシが泊まってるとこなんて、店主がルームキー放り投げてくるような安宿だ。
「はわわッ! ここがフィーリー様のお部屋……」
ウィルテは何だか感極まっているけど、たぶんどこの部屋も同じ形だと思うけど。
フィーリーもエアプレイスにいる時から知ってるけど、あまり物とか持つ人じゃないし、あると言ってもせいぜいマグカップぐらいだ。いわゆるミニマリストってやつなんだろう。
「ねぇ! フィーリー、いい加減に何をするのか教えて! 説明する時間がないのは分かるけど!」
「説明するより、やりながら話した方が早いのです」
フィーリーは戸棚から、瓶を何本か取ってトレーに載せてやって来る。
あと、すり鉢みたいな物も載って…なにこれ?
え? 他にはコウモリの羽みたいなのとか、ミミズの干からびた物とか……物凄くイヤな予感しかしないんだけど。
「まさか、これを……」
「さあ、レディー。すぐに服を脱いで下さい」