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第2話

 二週間後。僕はアイドルグループ『SWORD』のライブを観るために新宿の街頭を闊歩していた。


「ここかな」


 僕は地下に小さなライブ会場があるというバーに訪れた。

 ひとまず目の前の階段を降りる。すると大音量で何かしらの曲が流れていた。僕は意を決してドアを開けた。

 すると、暗がりとそれを照らす照明の中、ステージで踊る四人組と、うちわとサイリウムで盛り上げる人々がいた。僕は正直舐めていた。どうせ、知名度も無いアイドルだろうと馬鹿にしてもいたが、この会場、五百人は余裕で入っているし、どれも熱狂的なファンたちだらけだ。ファンたちがメンバー一人ひとりの名前を連呼する。

 僕は思った。なんだ、人気あるじゃん。


「え~皆さん、ありがとうございます。続いては新曲です」


 MCを行う綾瀬光。

 そしてそのあと陣形を変え始める。そしたら曲が再度かかった。

 ダンスを一心不乱に踊りながら、歌唱をする。息が乱れているにもかかわらず、声の芯はぶれない。

 アイドルの生歌唱なんて初めて聴いたが、ファンになってしまう人の気持ちは分かるような気がする。一人ひとりの歌唱が共鳴しているしメンバー同士の個性も合わさっている。

 そして一人だけ、明らかに圧倒的なアイドルがいた。

 綾瀬光だ。

 ステップを踏み、華麗に踊り舞いながら唄う。

 ――なんて、神々しいんだろう。


 ライブが終わり、チェキ会や握手会が始まる。

 僕は綾瀬光の列に並んだ。

 列が動き、先頭に立つと綾瀬はにこやかに笑って僕の手を取った。


「来てくれたんだ。嬉しいなあ」


「暇だったから」


「そんなこと言って、本当は楽しかったんでしょ?」


「まあ、否定はしない」


 また笑う綾瀬。そんな姿が可憐だった。でもそんなこといちいち言ったりしない。どうせ僕に言われても、きっと迷惑だろうから。気持ち悪い、だろうから。


「あなたはひねくれてるなあ。まあいいや。この後付き合ってよ」


「えっ」


 とっくにアイドルと交流する時間は過ぎて、僕は黒づくめの男に誘導され隅に追いやられた。


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