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第40話 学園の日常②

ジュリアの抜擢に納得がいかず、エヴァはリンドラが贔屓していると思い込んでいた。


「ありがとう、ミーナお姉ちゃん」


天真爛漫なジュリアは深く考えず、すぐにミーナに礼を言った。


ミーナはふと、遠くから彼女たちを見つめているエヴァに気づいた。


エヴァ。天才クラスの生徒であり、その実力は確か。特に彼女が扱う精神系の魔法は珍しい。


しかし、ミーナはエヴァの野心を見抜いていた。


ジュリアではなく、エヴァを取り込めば将来的に自分の脅威となる。


ミーナは五年生ではなく、三年生であり、一学年だけの生徒会長で終わるつもりはなどなく、生徒会長の座に3年間は居座るつもりた。


そのため、エヴァのようなライバルになり得る生徒を陣営に取り込むことはありえなかった。


(やはりジュリアが最適ね)


その同じ頃、ミランダ邸でも昼食の席にキャサリンの姿があった。


食後、サウスが彼女を客室へと案内した時、ふと見えた懐かしい自室の扉は固く閉じられていた。

公爵が頑なに使わせないことに、無言の拒絶が色濃く漂っていた。


「ジュリアは非常に優秀だ。彼女を孫娘として認めよう」


食事が終わったその時、公爵は沈黙を破るように言葉を発した。


キャサリンは一瞬だけ目を見開いたものの、すぐに安堵した表情で頷き、柔らかい声で「お父様、ありがとうございます」と感謝を告げた。


 外 孫そとまごという遠い立場だとしても、血の繋がりというものは、決して軽んじられるべきものではない。


ジュリアにはまぎれもないミランダ家の血が流れている。


ひとたびそれが認められれば、周囲の見る目も変わり、彼女はミランダ家の名に守られる存在となるのだ。


「お父上、ルーカスも優秀で、満点を取ったそうですよ」


口を閉ざしたままの公爵に、キャサリンが問いかけた。


「武芸に秀でておったとして、それが家の役に立つとでも言うのか? しかも、所詮は偶然の産物に過ぎぬ。そのうえ、ルーカスとやらはクラスで最も出来が悪いではないか」


公爵は冷たく切り捨てた。


その声にはわずかな迷いもなく、武術への蔑みと魔法への傾倒がはっきりと浮かび上がっていた。


たかが武芸はまぐれ当たり程度の価値でしかない――真に期待を寄せるのは、エヴァとジュリアの二人だけなのだ。


そしてそれが、公爵がジュリアの存在を認める理由の一つでもあった。


キャサリンは深くうつむいたまま黙り込んだ。


父が武術を軽視していることは嫌というほど知っていた。それでも息子ルーカスの成績は、少なくとも彼女にとって誇りに値するものだった。


◇◇◇◇


アルティメア魔法学園。


シグルドは武道クラスの教壇に立ち、生徒たちに向かって授業を行っていた。


彼の格好は相変わらず無頓着で、服は乱れ、髪も伸び放題で、街角の浮浪者と間違われてもおかしくない有様だった。


だが、オスワルドに言わせれば、「ようやく教師らしくなった」というところだろう。


それにしても、あの少年の活躍は目を見張るものがあった。クラス全員を導き、驚くべき成績を叩き出したのだから。


オスワルドがザレカに詳しい事情を話さなかった理由は、ルーカスがテストで魔獣に恐怖を植え付けたのは厳密に言えば「不正行為」にあたるからだ。


すべての魔獣を打ち負かし、クラスの仲間たちが楽に点数を稼げるようにしていたのであった。


魔獣を多く服従させることを禁止するルールはない。


ただテスト成績に影響があり、上限も設けられているだけだった。満点である10体に達した後は、それ以上続ける必要はない。


ザレカは頑固な人物であり、もしこれが露見すれば、生徒たちが自力で勝ち取った成績とは認められず、武道クラスの生徒たち(ルーカスを除く)の成績がすべて取り消される危険があった。


オスワルドが抱いてきた武道復興の願いを考えれば、武道クラスの成績取り消しなど、彼が許すはずはなかった。


「ひとつ、お前たちに伝えておくことがある。今回の成績によって、一か月後にはアランタ塔の試練の参加が与えられるはずだ……」


アランタの参加資格について、学校側から正式的な通達は出ていない。


だが、シグルドはそうした煮え切らない対応を待っていられなかった。

生徒たちには、塔に立つべき資格が十分にある。


その思いがシグルドを突き動かしていた。


彼はすでに布石を打っていた。

生徒たちが再び栄光を掴めるように、その舞台を整えるつもりだった。


「アランタか……。もう長い間、武道家が入ったことはなかったな」


シグルドの言葉を聞き、オスワルド館長は少し目を開き、遠くにそびえ立つ塔の尖端せんたんを見つめた。


アランタ。


それはアルティメア魔法学園にとって秘蔵する至宝とも呼べる施設である。


生徒たちに戦いの感覚を叩き込む場所であり、数々の優秀な魔法使いを生み出してきた。


そのため、帝国三大魔法学園の中で実戦に最も長けているのは、常にアルティメアの卒業生であった。


「ほっほ、小僧。アランタでは存分に腕を振るってみせい。楽しみにしておるぞ」


オスワルド館長がゆっくり腰を上げた。


魔法クラスの教師たちが武道クラスの参加資格を取り消したがっている――そんな話が耳に入った瞬間から、心は決まっていた。


(くだらん。そんなことを許してたまるか)


武道クラスの子たちは絶対にアランタに入る。

そのためならば、どんな障害であろうと押しのける覚悟があった。


――たとえ相手がザレイカだとしても。


武道に関しては、譲れぬ一線があった。それを侵すことは、誰にも許されない。



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