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第45話 アランタ塔①


時は流れ、ざわめく期待とともにアランタ塔の開門の日が近づいた。

3年生たちにとって、これは一年に一度の巡礼のような試練である。


「ジェレミー、アランタの資格、おめでとう!」


3年生誰もが固唾をのんで見守る中、アランタへの参加を許された生徒の名前が公開された。


そのリスト98番目に名を連なるのは——ジェレミーだった。


初のアランタ挑戦——彼の努力が報われた証だった。


「ありがとな。今度こそ、絶対に最高の結果を出してみせる!」

喜びを隠せずに拳を握りしめるジェレミー。その目には、満点と100ポイントという明確な目標が宿っていた。


父が送ってくれた魔獣の核はまだ手元にある——使う気はなかった。学園内のポイントは、自分で稼ぐつもりだったのだ。


「オスワルド、あと半月で1年生がアランタの試練を受ける。まだ手懐けテストの真相を明かさぬつもりか?」


学長ザレカが再び図書館を訪れていた。


連日、教師たちが説得に訪れた——武道クラスは必要ない。アランタ塔に向かうべきは魔法の神の祝福を受けた子たち。


教師たちは分かっていなかった。

その願いは届かないことを。


オスワルドの意志が不動である限り、武道クラスの枠は揺るがぬものだった。

「もう何度も言うたわい。学校に害はないっての。


ほれ、もうそのへんで勘弁せい。3年生の試練を発動するから。


まぁ、安心せい」


オスワルドが無言で手を振ると、ザレカはそれ以上何も言わず、静かに首を振って立ち去った。


その背中には諦めと理解が滲んでいた。——武道クラスがアランタに参加する、それは覆せぬ決定だった。


オスワルドが首を縦に振らなければ、アランタの扉は決して開かない。


たとえザレカが9級の魔法使いであろうと、その事実は変わらなかった。


アランタは誰でも起動できるものではない。


必要なのは、選ばれし武者——それも高位の者に限られていた。


オスワルドが健やかなる今はよし。されど、道理として、備えは常にしておくべきもの。


すべては、学園の未来を守るために。


教室にシグルドの声が響く。


「今からアランタ見学に向かう。今日は外から眺めるだけだ。3年生が試練受ける時に、詳しく説明してやる」


アランタの門は年に6度開かれる。


最初にその門をくぐるのは3年生。そのあと、新入生がその背を追うようにして、門へと歩み寄っていく。


そして、4年・2年・高学年へと試練は連なってゆく。


生徒の力が増すほどに、アランタもまた、それに見合う力の源を求める。


新入生に必要な材料が一つなら、6年生にはその10倍が必要である——それが、この塔の掟だった。


幻影の強さを保つために、学校は日夜、材料の確保に奔走している。


学院の中心に聳え立つアランタ。その威容は、まさにアルティメア魔法学園の魂そのもの。


ダクトの民たちは、代々こう信じてきた。


「アランタの塔が天を貫くかぎり、知の灯火は絶えず燃え続ける。


その火が消えぬ限り、ダクト城は決して陥ちぬ」と。


数多の師と生徒が集うアルティメア魔法学園は、まさにひとつの軍団に等しい。

異族とて軽々しく手を出せぬ地であり、仮に獣の大群が押し寄せても、学園の力で撃退することは可能である。


その象徴とも言えるアランタは、九層からなる高き塔。階を進むたび、強くなった異族の幻影が牙をむく。


たとえ最上級生である六年生とて、多くは五階で力尽きる。


六階に辿り着く者は、すでに頂点の座に手をかける者たち。


そして七階へ至る者は、選ばれし天才のみ。


アルティメアの悠久なる歴史において、八階に到達した者はわずか二名のみ。


だが、九階——その頂には未だ影も踏まれぬ。


それは挑む者を拒む“空白”の頂。


五百名の新入生が塔前の広場に扇状に座り、静かにその時を待っていた。


3年生百名は、魔法ローブの裾を揺らしながら、杖を握る手に力を込め、試練の扉が開かれるその一瞬を息を呑んで待ち構えていた。


塔に入れるのは一度に10名。


十組の隊が組まれ、個の実力と仲間との連携が問われる。

新入生がすぐに臨まぬのは当然。


場を知り、絆を知り、はじめて試練の扉に立てるのだ。


アランタの中では、時の流れに制限はなく、敗北すれば強制送還、自らの意志での離脱も許されている。


だがその本質は、生と死の境を彷徨うような極限の戦闘を体験すること。


戦いの意味を知る者は、若き生徒に限らぬ。


鍛錬を極めし帝国の魔法師たちもまた、この地に歩み寄る。


だが、彼らがその門をくぐることは容易ではない。


帝国の大司祭、国王、そしてザレカ――三者すべての承認が必要とされる。


さらに、アランタの起動には通常の倍の材料を要し、その半分は試練用に、残る半分は“使用料”として吸い上げられる。



その膨大な消耗ゆえ、外部の者がアランタに入る機会は極めて稀で、数年に一度あるかないかの出来事となる。


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