時は流れ、ざわめく期待とともにアランタ塔の開門の日が近づいた。
3年生たちにとって、これは一年に一度の巡礼のような試練である。
「ジェレミー、アランタの資格、おめでとう!」
3年生誰もが固唾をのんで見守る中、アランタへの参加を許された生徒の名前が公開された。
そのリスト98番目に名を連なるのは——ジェレミーだった。
初のアランタ挑戦——彼の努力が報われた証だった。
「ありがとな。今度こそ、絶対に最高の結果を出してみせる!」
喜びを隠せずに拳を握りしめるジェレミー。その目には、満点と100ポイントという明確な目標が宿っていた。
父が送ってくれた魔獣の核はまだ手元にある——使う気はなかった。学園内のポイントは、自分で稼ぐつもりだったのだ。
「オスワルド、あと半月で1年生がアランタの試練を受ける。まだ手懐けテストの真相を明かさぬつもりか?」
学長ザレカが再び図書館を訪れていた。
連日、教師たちが説得に訪れた——武道クラスは必要ない。アランタ塔に向かうべきは魔法の神の祝福を受けた子たち。
教師たちは分かっていなかった。
その願いは届かないことを。
オスワルドの意志が不動である限り、武道クラスの枠は揺るがぬものだった。
「もう何度も言うたわい。学校に害はないっての。
ほれ、もうそのへんで勘弁せい。3年生の試練を発動するから。
まぁ、安心せい」
オスワルドが無言で手を振ると、ザレカはそれ以上何も言わず、静かに首を振って立ち去った。
その背中には諦めと理解が滲んでいた。——武道クラスがアランタに参加する、それは覆せぬ決定だった。
オスワルドが首を縦に振らなければ、アランタの扉は決して開かない。
たとえザレカが9級の魔法使いであろうと、その事実は変わらなかった。
アランタは誰でも起動できるものではない。
必要なのは、選ばれし武者——それも高位の者に限られていた。
オスワルドが健やかなる今はよし。されど、道理として、備えは常にしておくべきもの。
すべては、学園の未来を守るために。
教室にシグルドの声が響く。
「今からアランタ見学に向かう。今日は外から眺めるだけだ。3年生が試練受ける時に、詳しく説明してやる」
アランタの門は年に6度開かれる。
最初にその門をくぐるのは3年生。そのあと、新入生がその背を追うようにして、門へと歩み寄っていく。
そして、4年・2年・高学年へと試練は連なってゆく。
生徒の力が増すほどに、アランタもまた、それに見合う力の源を求める。
新入生に必要な材料が一つなら、6年生にはその10倍が必要である——それが、この塔の掟だった。
幻影の強さを保つために、学校は日夜、材料の確保に奔走している。
学院の中心に聳え立つアランタ。その威容は、まさにアルティメア魔法学園の魂そのもの。
ダクトの民たちは、代々こう信じてきた。
「アランタの塔が天を貫くかぎり、知の灯火は絶えず燃え続ける。
その火が消えぬ限り、ダクト城は決して陥ちぬ」と。
数多の師と生徒が集うアルティメア魔法学園は、まさにひとつの軍団に等しい。
異族とて軽々しく手を出せぬ地であり、仮に獣の大群が押し寄せても、学園の力で撃退することは可能である。
その象徴とも言えるアランタは、九層からなる高き塔。階を進むたび、強くなった異族の幻影が牙をむく。
たとえ最上級生である六年生とて、多くは五階で力尽きる。
六階に辿り着く者は、すでに頂点の座に手をかける者たち。
そして七階へ至る者は、選ばれし天才のみ。
アルティメアの悠久なる歴史において、八階に到達した者はわずか二名のみ。
だが、九階——その頂には未だ影も踏まれぬ。
それは挑む者を拒む“空白”の頂。
五百名の新入生が塔前の広場に扇状に座り、静かにその時を待っていた。
3年生百名は、魔法ローブの裾を揺らしながら、杖を握る手に力を込め、試練の扉が開かれるその一瞬を息を呑んで待ち構えていた。
塔に入れるのは一度に10名。
十組の隊が組まれ、個の実力と仲間との連携が問われる。
新入生がすぐに臨まぬのは当然。
場を知り、絆を知り、はじめて試練の扉に立てるのだ。
アランタの中では、時の流れに制限はなく、敗北すれば強制送還、自らの意志での離脱も許されている。
だがその本質は、生と死の境を彷徨うような極限の戦闘を体験すること。
戦いの意味を知る者は、若き生徒に限らぬ。
鍛錬を極めし帝国の魔法師たちもまた、この地に歩み寄る。
だが、彼らがその門をくぐることは容易ではない。
帝国の大司祭、国王、そしてザレカ――三者すべての承認が必要とされる。
さらに、アランタの起動には通常の倍の材料を要し、その半分は試練用に、残る半分は“使用料”として吸い上げられる。
その膨大な消耗ゆえ、外部の者がアランタに入る機会は極めて稀で、数年に一度あるかないかの出来事となる。