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第48話 アランタ塔④



犠牲者が一人出れば、次が現れるのも時間の問題だ。



ジェレミーは運が悪かった——しかし、それが彼にとって唯一の救いとなった。


合流したものの、連携を乱した仲間は、異族の猛攻に成す術もなく精神を叩き潰された。


ジェレミーはひたすら進み、塔の中で粘り続けていた。



「異族は獣じゃないわ、知性を持った狩人よ。


彼らは協力して襲いかかってくるの。


こちらがバラバラなら、狩られるのは当然。覚えておいて。


命は一つだけ。


連携は、生き残るための術よ」



リンドラの声に込められた警鐘が生徒たちの胸に鋭く突き刺さった。



天才と謳われる生徒たちでさえ、無敵ではなかった。


帝国と獣人たちの戦争は二十年に及び、数多の才ある魔法師が命を散らしてきた。


彼らが挑む異族は、常に群れをなして襲いかかる——一対一の決闘など、幻想に過ぎないのだ。



戦場で油断すれば、その瞬間が終わりだ。


戦場にやり直しなど存在しない。アランタ塔のように転送されることもなく、敗北すればその場で命が絶たれる。


塔の中で、ジェレミーは仲間の足跡を探りながら、静かに歩みを進めていた。


彼は知らなかった――すでに2人の仲間が倒され、外へと弾かれていたことを。


その頃、ジェレミーはすでに異族の虚影を4体討ち果たしていた。


決して最下位ではない戦績だ。むしろ、彼の順位に見合うものだった。


「……また一人、弾き出されたな。今度は単独だった生徒か。残りは7人」


シグルドが呟く。第一層の異族は、それほど強敵というわけでもないのだが――


第一層とはいえ、期待に見合った戦果とは言い難い。


3年生としての意地を見せるべきだった。


「先生、俺たち一匹も倒せなかったら……冗談抜きで赤っ恥ですよね」


ケイの軽口に、場の空気が微かに揺れた。


「大丈夫だ、お前たちは近接戦に長けている。敵が多ければ、一度距離を取れ。合流さえできれば、数の差も覆せる」


シグルドはそう言って笑みを作ったが、その瞳にその言葉を裏付ける確信は宿されていなかった。


異族の数は多く、戦況は決して楽観できるものではない。


3名脱落後、残った者たちはやっと一つにまとまった。連携は冴え、幻影は次々と討たれていく。誰一人として気を抜く者はいなかった。


戦いの中、ジェレミーの脳によぎるのは父の面影だった。


——そうか、父が命を賭けていた相手とは、こういう存在だったのか。


アランタでは命は守られるが、父は本物の戦場で、遥かに凶悪な異族と対峙している。


「第二層に突入したぞ!」


7人の連携は鋭く、第一層の敵を一掃し、ついに次なる層へと進んだ。


目標は、第三層への到達。それこそが、3年生として勝利の証だった。


第二層に入るや否や、激戦が待ち構えていた。


七人は身を寄せ合いながら少しずつ前進し、連携も次第に冴えてきた。


だが、進むたびに人数は減っていき、幻影に飲まれて消える者を、誰も止めることができなかった。


第三層――そこが彼らのアランタの終着点となった。


7人いた仲間も、残っているのは3人だけ。


これ以上の挑戦は、不可能だと誰の目にも明らかだった。


だが、もとより彼らは最下位グループ。


この結果は、胸を張って「合格」と言えるものだった。


ジェレミーの呼吸は荒く、膝はわずかに震えていた。


魔力は底を突きかけている。だが、それでも彼は第三層に辿り着いた。


それは彼にとって、何よりも誇らしい成果だった——初挑戦にして、生き残りのわずか3人になった。


その事実が、何よりの勲章だった。


得点も申し分なく、九十三位以内は確実。ジェレミーは、自分の成長を静かに誇っていた。


「次の10名、入場!」


教師は全員の脱落を待つことなく、すでに次へと試練を進める。



残る3人が第三層で持ちこたえ、次の10名と合流して戦力を補おうなら、それは強運と言えよう。


アルティメア魔法学園ではその“運”さえも実力とみなされる。


新たな十人は、静かに目を閉じ、呼吸を整えながら入場の時を待っていた。


この十人は新参ではない。


過去の試練でアランタの空気を知り、恐ろしさも、誇りも体に刻んでいた。


ジェレミーたち3人組は、惜しくも第二陣が第三層に辿り着くまで耐えきれなかった。


彼らの精神力の虚影は、激戦の末にすべて砕かれた。


とはいえ、ジェレミーは塔の中で10体もの異族を討ち取った。


続いて塔に入った第三陣、第四陣の中から、第四層へ到達した者も現れた。


「彼らは先ほどより手練れだ。すでに第四層に足を踏み入れた者もいる」


シグルドの口調には、わずかに期待がにじんでいた。


最初から十人がまとまっていれば、さらに多くの幻影を討てたかもしれない――そう思わずにはいられなかった。


最も重要なのは、彼らが実戦の中で己の力を試し、経験を積むことだった。


命を賭けた戦いは、訓練では得られないものを教えてくれる。


第四層に至った者ですら、すぐに敗れ、塔から放り出されてしまうのが現実だった。

幻影の力は圧倒的で、第一層でさえ油断はできなかった。


異なる種の壁――それは、肉体の性能差として顕在する。


異族は、生まれながらにして人類を超える存在だ。


カイの表情は引き締まり、軽口も鳴りを潜めていた――魔の理を操る者は距離を詠み、遠くより戦を操る。されど武者は炎の如く踏み込み、命を矛として敵の心臓を貫くのだ。


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