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第50話 アランタ塔⑥


第五層に至り、足取りは鈍り、呼吸は荒くなっていた、それでもミーナは進む。


だが、その心は折れなかった。幻影たちを打ち倒しながら、第六層の階段へと歩を進めた。


3年前、生徒会長のジントウ・ソウゴが届かなかった第六層の階段。


――証明しなければ。ソウゴよりも優秀で、次期生徒会長にふさわしい存在であることを。


霞む視界の先に、6層へ続く階段が見えた。


だが、ミーナの足は重く、仲間の影はない。


階段まであと3メートルだった所で、ミーナは目を閉じた――無念であった。3年生で初めて第六層に到達する者にはなれなかった。


だが、彼女はジントウ・ソウゴに並んだのだ。


シグルドは椅子から立ち上がった。


「終わったな。戻るか」


まだ陽は高い。まだ時間もある、ここで感じ取った3年生のアランタ塔の奮闘を振り返ることができる。


半月後、武道クラスがアランタへ踏み込む時には、今より遥かに強くなっていなければならない。


武道クラスの生徒は20名、10組に分かれて模擬戦を重ねる。


「ミーナ先輩、かっこよかったです!」


ジュリアが目を輝かせて塔から出てきたミーナを迎えた。


だが、ミーナは唇を噛み締めていた。


「悔しいわ……第六層には、届かなかった」


無念を押し隠すようにぎこちなくミーナは笑った。


第六層への到達、それが今回の目標だった。


4年では第六層を制し、5年生に上がったら第七層へ、6年のうちに伝説の第八層を踏破する。


しかし、その道のりの第一歩で、つまずいてしまった。


「ミーナ先輩、本当にすごいです。他の先輩たちより、ずっと強い」


ジュリアは微笑みながら、屈託なくそう言った。


いろいろとリンドラに教わったジュリアの目標は第四層到達である。


軽く言葉を返したミーナは、どこか浮かない足取りで、その場を立ち去った。



塔前の広場の中心に陣取っていた天才クラスは、最後にその場を後にした。


「教室へ戻りましょう」


リンドラの声が柔らかく響く。


3年生のアランタ試練を見届けた今こそ、教室に戻って他の学年の経験を消化するのに一番のタイミング。


他のクラスには目もくれず、リンドラは天才クラスの子たちに目を向ける。


天才クラスにとって、第三層は当たり前だが、第四層は狭き門。


とはいえ、2年おきに、第四層に到達する新入生が現れる。


昨年の新入生たちは第三層が限界だったが、一昨年、ミーナが第四層を踏破してみせたのだ。


彼女は2年生の時点ですでに第五層に到達しており、だからこそ今年、第六層突破への執念はひときわ強かった。


それが、第八層へ挑むための確かな礎になると信じていたからだ。


武道クラスの簡素な教室とは異なり、天才クラスの教室には、特別な空気が流れていた。


リンドラは、教室に集った生徒たちを見回し、ジュリアに声をかけた。


「まずは、クラスのリーダーであるジュリアに聞こうかしら。仲間と合流したら、あなたなら異族の幻影とどう戦う?」


しばし考えた後、ジュリアは真剣な眼差しで言葉を紡いだ。


「クラスの皆を守る!それぞれの強みを活かして戦います。アランタには異族の幻影しかいません。だから、精神魔法を得意とするエヴァは不利になります、まず彼女を守ります」


そして、ジュリアは続けた。


「ミカは土の魔法が得意なので防御に秀でています。彼女にそばで護衛にしてもらい、私が先頭に立って、雷魔法でみんなが進む道を切り開きます」


それを聞いたリンドラは微笑んだ――十歳にしてこれほどまでに考えを巡らせるジュリアを、内心で誇らしく思った。


一方、エヴァは心の中で冷たく鼻を鳴らす――ふん、守りなんか不要ね、と。


だが、ジュリアの言葉は理にかなっていた。


エヴァの精神魔法は、異族には強力だが、塔にいるのは意志なき幻影――ただ戦闘能力だけを宿すエネルギー体。思考も、知恵も存在しない。


エヴァの力は、そんな存在には届かない。


「ジュリアさん、素晴らしい回答です。これから半月間、皆さんはジュリアを中心に連携の練習を進めてください」


リンドラは穏やかに生徒たちに指示を出した。


天才クラスには12名。例年通りなら、アランタの試練では最後のグループに回される運命だった。



本来、最後から2番目のグループに天才クラスから2名の生徒が配置される予定だった。


だが、今年は前例を覆す事態が起こった。


武道クラス全員が、満点という偉業を成し遂げたのだ。


成績に則れば、天才クラス3名と武道クラス7名が一つのグループに。


残る天才たちも、武道クラスの生徒たちと同じグループに配属され、連携が問われる。


考えが絡み合う中、リンドラは深く椅子に身を沈め、瞼を閉じた。


深く、ゆっくりと息を吸い込み、そして吐き出す――ザレカに相談し、他の道を探らないと。


武道クラスの奮闘、称賛すべきものなり。然れども、試練にて同列となすは、断じて許すべからず。


天才クラスの矜持を守らずして、何を誇れるというのだろうか?


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