時の川は音もなく流れ、武道クラスは日々汗を流し、己を磨くことに余念がなかった。
シグルドは依然として時折姿を消すが、ひょっこりと顔を出す回数が増え、教え子たちの連携の粗を容赦なく指摘していた。
アランタに入る順番は、前回のテスト成績による。武道クラスの中で下位の方だったルーカスとカイは同じグループになった。
新入生たち待ち受けるまで、刻はわずか三日を残すのみとなった。
ついに、名簿が公開され、武道クラス全員が選ばれた。
テスト成績が有効だと判断されたため、規定に従って武道クラスの参加が認められることとなった。
学長ザレカはルールを何よりも重視し、一度決めた制度を変更することは決してしない。さらに、オスワルドは武道クラスの参加を強く推し進めており、その意向に逆らう余地は全くなかった。
参加人数は100人に変わりはないが、進行順が変わった。
武道クラスの生徒20名が先に入り、魔法クラスはその後に続く。
アランタの塔には一度に100人しか入れないため、少なくなったとしても問題はないが、決して増えることはない。
そのため、武道クラスが資格を手に入れたということは、魔法クラスから20名分の参加者が減ってしまうのだ。
学園のアランタ試練参加名簿に、ウォーレンは複雑な表情をしていた。
天才クラスを除いた9つの魔法クラス。
ウォーレンのクラスが手懐けテスト成績80位~100位を最多で占めていたのだ。
なぜ学園が貴重な試練の枠を、武道クラスのような役に立たない生徒たちに与えるのか、ウォーレンには全く理解できなかった。
たとえ武者を試練に参加させたとして、帝国にどんな利益があるのだろうか?
武者たちは、才能に関係なく、いずれどこかの境地で停滞し、永遠に進歩することなく終わる可能性が高いのだ。
彼らの成長は魔導士とはまったく異なり、運が良ければ次の境地に進むことができ、運が悪ければそのまま一生同じ場所で足踏みする。
武者が一つの境地に数年も留まるのは、珍しいことではない。
武者も魔導士も、両者とも9つの階級を持つ。
魔導士は順調に昇進することができるが、武者は時にある境地で数年も停滞してしまうことがある。
仮に早々に3級や4級に昇進したとしても、その後に進展がなければ、多くの者はその時点で終わりを迎えてしまうであろう。
武道クラスがアランタの試練に参加することは、資源の無駄だとウォーレンの目に映っていた。
そして、このような考えを抱く者は彼一人ではなく、9つの魔法クラスの教師たちも同様にザレカに掛け合った。だが、返ってきた言葉は、この一言だった。
「生徒たちをなだめ、精進するよう励ますのだ。規則を破ることだけは、いかなる理由があろうと容認できぬ」
「先生、もうチャンスはないのでしょうか?」
ウォーレンが教室に入ると、4人の学生がすぐに近寄って尋ねた。
苦虫を嚙み潰したような表情でウォーレンが答えた。
「励みなさい。来年またチャンスがある。今年は彼らの運が良かったが、来年もこんな幸運が訪れることはない」
アランタ試練に参加できないことを告げる言葉に、たちまち失望の色が4人の顔に広がり、その内一人の少女が涙をこぼし始める。
アランタの試練は極めて重要であり、生徒の未来を左右するものなのだ。
毎年チャンスは与えられるとはいえ、今年こそは確実に参加できるはずだったのに、武道クラスに枠を奪われるのは、辛いことだった。
「授業を始める」
淡々と言い放つウォーレンの胸の中で負の感情が押し寄せていたが、なんとか抑えて生徒たちに見せないように心掛けた。
授業を始めることで、気持ちを落ち着かせようとした。
◇◇◇◇
「お前たち全員、アランタ試練に参加できる。学園の決定事項だ」
教室に入るや否や、シグルドが笑顔で生徒たちに宣言した。
「やった!」
「イエーイ!」
「アランタで大暴れして、俺、トロイ・カイの名を世間に轟かせてやる!」
カイは声を上げて興奮を露わにしたが、実際には発表までの間、武道クラスの生徒たちには確固たる自信はなかった。
食堂や他の場所で、魔法クラスの嫌みや妬みが囁きが聞こえて。
「お前たちにアランタ試練に参加資格なんてない」
貴重な機会を、役立たずの武者たちに与えるのはあり得ない、と。
シグルドはその都度彼らを励まし続けていたが、武道クラスの自信は徐々に揺らぎ始めていた——ルーカスを除いて。
3年生が試練に参加した日、塔が開いた瞬間、ルーカスは上級武者を目撃し、アランタには間違いなく武者の力が関与していることに気づく——おそらく、アランタの起動には武者の力が不可欠。
そうでなければ、あの日、武者があれほどの膨大な力を放つことは解せないのだ。
そしてこれが真実なら、魔法クラスの生徒たちが参加枠を武道クラスから奪うのは到底不可能だろう。
あの武者が賛同しなければ、誰一人として資格を奪うことなどできない。
ルーカスの眼差しは、混沌の只中に潜む真実を鋭く射抜いていた。
「浮かれて歓を顔に出すなよ。貴重なチャンスなんだ。
この貴重な試練の参加枠、決して粗末にするな。
この中の誰かが何もできないうちに、幻影に叩き出されるような失敗を、俺は望んでいない」
言葉よりも早く、シグルドの拳が机を鳴らした。。
その日は珍しく、カイの額にチョークを投げつけることはなかった。
カイはしばしば誇張した言葉を口にするが、シグルドはその意気込みを評価していた——どんな時でも、武者は前へ進む勇気と、困難に立ち向かう心を持たなければならない。
武者にとって戦いは避けられぬものであり、命が尽きるその時まで戦いは続く。
「先生、安心してください。決してそのようなことにはなりません」
毅然と答えたのはエレオノーラだった。
ここ数日間、仲間たちと共に練習を重ね、連携を磨いてきた。
異族の幻影を相手に、迷いなく戦う強い心を、生徒たちは幾度もの鍛錬の中から得た——近接戦の場で自分たちの方が有利、そう確信していた。
わずか三日。
これまでの訓練ではもはや不十分であった。
「三日間、俺が稽古をつけてやる」
その言葉と共にシグルドの顔から猛々しさが滲み出した。
圧力の波が空気を震わせる中、誰一人として視線を逸らさず、静かに息を呑んだ——幾度もの修羅場を超えてきた武者にしか宿らぬ光、それがシグルドの瞳の奥で燃えていた。