連携の要を掴みきれていないシグルドの指導は、どこか空回りしていた。
無理もないことだった。
かつて、戦場に駆り出された時にはすでに独りで戦う武者として、チームワークを学ぶ機会はなかった。
「稽古場に集合」
シグルドの声が響くと、武道クラスの一同がサッと立ち上がった。
その瞳には決意が宿っていた。
アランタの試練で、魔法クラスの連中に証明してやるのだ――武者は決して魔導士に劣らない、と。
「塔の中で最も多く遭遇する敵は獣人族の半獣人だ。奴らはアランタ内でもかなり数が多く、半分近くを占めている」
半獣人との戦いについてシグルドから説明される。
アランタ内の半獣人は知性に乏しいものの、幻影たちは非常に獰猛で、その点では半獣人にも劣らない。
半獣人たちは、力任せで戦うことを好む。それに加えて、魔法を操る人魚や、巨体で力強いが遅い巨人など、アランタには様々な異族がいる。
異族の幻影たちは単体でこちらに牙を剥くのではなく、連携を取ることが多い。
もちろん、挑戦者たちの連携の真価が問われる。
説明を終えたシグルドは、幻影との戦を実感させるため、進んで半獣人の役を担って、生徒たちと戦った。
この日は一人ずつ、丁寧に指導を行った。
シグルドの模擬戦闘は見事なもので、武道クラスの生徒たちはそれにより半獣人の戦闘スタイルに馴染み、戦闘に対する自信を徐々に抱いた。
とうとう、試練の日がやって来た。
新入生のアランタ試練には、他学年からの見学者は現れない。
アランタ前の広場に座っているのは参加枠から除外された新入生400名。
その中の20名の新入生は、歯を食いしばり、鋭い怒りの視線を武道クラスに向けていた――彼らは参加枠を奪われた20名。
「なぜ武道のクラスが設立されたんだ?」
「クソが。俺が参加する筈なのに。武道クラスさえいなければ」
武道クラスに対して強い不満と憎悪を感じていた20名だが、その一方で元々100位圏外だった生徒たちは心の中でほくそ笑んでいた。
試練に参加できなかったことには少しの悔しさがあったが、20人の不運な新入生が武道クラスに枠を奪われたことで、不平不満が少しだけ解消されたように感じた。
「塔の中に入ったら、まずは中央の階段口に集まるんだ。道中、しっかりと自分の身を守れよ」
「内部は広い。方向を確認してから進め。幻影に出会ったら、なるべき戦わずに、皆が集まってから協力して倒せ」
「もし逃げられない場面に出くわしたら、死に物狂いで一体くらいは倒せ」
学生たちへ注意を促した。アランタに何度も足を踏み入れているシグルドには、押さえるべきポイントが明白であった。
「必ず先生の指示通りに動きます!」
エレオノーラが最初に応えると、シグルドは頷いた。
伝えたいことはすべて言い終えた。
どう転がるかは、すべてこの子たちの運に委ねるしかない。
ゴゴゴと重厚な音が響き、アランタが再び開かれる。
その瞬間、尋常ならざる武者の気配を感じたルーカスは確信した、アランタは武者の力によって起動する必要があると。
「君たち。入りなさい」
監督教師は指をさして、武道クラスの第一グループの入場を促した。
今回は武道クラスがアランタ試練に参加できる資格を得たが、手懐けテストの不正の疑いで、武道が一番最初に試練を受けることになった。
ザレカはその理由をオスワルドに事情を細かく説明した。
武者の戦闘スタイルは魔導士とは異なり、戦場では防衛が主な役割だ。
だが、前回のテストでは武道クラスの満点が多すぎたため、成績順のグループ分けだと最後のグループには魔導士3人につき武者が7人もいるグループになってしまう。
この組み合わせでは、連携が上手く取れずに生徒たちの力が十分に発揮されることは難しくなる。魔導士3人にこれほど多くの武者は必要ないのだ。
さらに、前回のテストでは、武道クラスが最後に入場したため、それが有利に働いたのではと疑われた。
アランタの試練では、武道クラスが真っ先に参加することで再発を防ぐ目的があった。
オスワルドは提案に反対しなかった。
彼にとって重要なのは、武道クラスがアランタに参加することだけで、誰と一緒に、またいつ入るかにはこだわらない。
近接攻撃が得意である武道クラスに有利ではないかという懸念も、アランタでは不要な心配であった。
アランタ内の異族の幻影は魔獣とは異なり、生命を持たず、倒されてもすぐに再出現するからだ。
再び現れる異族の幻影は、完全な状態の力を持つ。
ルーカスと仲間たちは門をくぐり、塔の中に足を踏み入れた。
武道クラスの中で最下位だったルーカスは、シグルドによって成績順にグループ分けされた。
実際、この順位は武道クラスにとっては何の意味も持たない。
ランキングはテストにかかった時間順で決められたもので、大胆かつ果敢に攻めた生徒の順位が上になる。
ルーカスがすべての魔獣に手をかけていなければ、1分経たないうちに出てこれたはずだ。
その成績は、新入生の中で堂々の首位。まさに常識を覆す驚異の数字になっただろう。
「目を閉じて、静かに念じなさい」
教師が指示を出した。
武者たちが塔に入ると、その教師は首を横に振った。
魔法クラスの生徒たちに申し訳ない――どうせ武道クラスの生徒たちは、すぐに全員が淘汰されるだろう。
「賭けようぜ。1分もしないうちに、一人目の脱落者が出るな」
「ハハッ、それはさすがにない。5分だ。第一グループは5分で全員アウト。そして幻影を一体倒すことすらできない」
「いや、せいぜい3分だな。それ以上耐えるの、あいつらには無理だろ」