武道クラスの第一陣が、一人として脱落者を出すことなく、堂々と階段の前に揃っているのが感知されたとき、教師たちに驚愕と疑念が走った――半月前、3年生ですら第一層で脱落者を出していたというのに。
動揺は波紋のように広がっていた。
天才クラス担任のリンドラも、静かに目を見開いていた――この成果は、全教師の予想を軽々と超えていた。
シグルドですら、少しの間言葉を失ったほどだ。
アランタの試練を知り尽くし、彼らの実力も把握していたはずの彼にとって、それは想定外の出来事だった――第一層で5人が残れば上々。それが彼の予想だった。
だが、誰一人欠けることなく、全員が第二層へ駒を進めた。教え子を見誤ったのか?
疑問に対し、シグルドは心の中で首を横に振る――そんなはずはない、と。
「ほらほら!お兄ちゃんが第一層の幻影に負けるわけないんだから」
ジュリアは誇らしく胸を張って見せた。
彼女は塔内を感知できる生徒のひとりで、教師の説明がなくても、アランタ内部をある程度知ることができる。
一方、リンドラの眉がわずかに動いた。
「階段から離れていく……?」
戸惑いと驚きが顔に浮かんだ。他の教師たちもまた、異変に気づく。
武道クラスの10人が、階段を登らず、別方向へと動いている。
「あいつら……幻影狩りをする気か!」
ウォーレンが歯を食いしばり、怒りを含んだ声で言い放つ――ポイントを稼ごうってわけだな。
ルーカスたちは陣形を整え、見違えるような連携で戦いに臨んだ。
幻影たちは次々と討たれ、討伐数は勢いよく増えていく。
その様子を見つめるシグルドの口元に、ふと笑みが浮かんだ――よく考えたじゃないか。
この試練では生徒一人につき、最大で100ポイントまで稼げる。
武道クラスにとって、第二層に到達すれば目的は達成されたも同然。
それなら、第一層でできるだけ鍛え、幻影を狩ってポイントを得るのは理にかなっている。魔法クラスに比べて入手手段が少ない武者にとっては、ポイントは何よりも貴重なのだ。
オスワルドの口元にも、笑みが浮かんでいた。
――やれやれ、本当に愉快な子だ。
アランタを最もよく知るオスワルドは、すべてを見通していた。
一見、仲間10人で必死に戦っているように映る。
だが実は、かなり余裕があるのだ。
ルーカスの分身が、常に影の中から援護していた。分身は、異族の幻影にそっくり。たとえ目の前で見られたとしても、仲間であるとは気づかれない。
分身の支援が続く限り、満額のポイントを得ることなど、むしろ当然の結果だった。
「20体倒したぞ!」
カイは息を切らしながら言った。
彼だけではない、何人もの武道クラスの生徒たちがすでに最高報酬の条件を満たしていた。
異族の幻影を1体倒すごとに5ポイントの報酬があり、20体でちょうど100となる。
塔の外では、魔法クラスの教師たちが苛立ちを隠せずにいた。
彼らの目には、武道クラスの生徒たちがただ時間を浪費しているように映っていたのだ。
第二層へ進むか、大きな脱落者を出さなければ、塔の扉は開かれない。
仮に開かれたとしても、次に進むのはまたしても武道クラスの者たち――それが、シグルド以外の教師にとって面白くないのだった。
最後にルーカスが20体目の幻影を倒すと、10人が再び階段の前にやって来る。
「さあ、第二層へ行こう」
すでにポイントを最大手にした彼らに、もはや迷いはなかった。
第二層へと向かい、さらに手強い幻影との戦いに安心して臨める。
たとえ、この先で淘汰されようと、彼らに悔いはない――参加前はせいぜい1体か2体倒せれば御の字だと思っていたのだ。
驚くほどに、異族の幻影たちは相手にならなかった。
だが、決して相手が弱すぎたからではない。10人の見事な連携が、勝利を支えていたのだ。
塔の外、待機していた第二陣の生徒に向けて、シグルドが言葉を投げかける。
「チャンスがあれば、できるだけ多くポイントを稼げ」
その先頭にエレオノーラの姿があった。
「ええ、先生。期待に応えてみせます!」
仲間たちと共に、エレオノーラはまっすぐにそう言い切った。
先に進んだ仲間たちができたのなら、自分たちもできるはずだ。
仲間たちと稽古で汗を流してきたエレオノーラには、その自信があった。
アランタ入場時に注意を払い、シグルドの指示通りに動けば、第一陣に劣ることはない――そう信じるだけの経験と自負が、彼らにはあった。
その頃、ルーカスたちは第二層へたどり着いた。
階段口は静まり返った安全エリア。敵の気配は一切なく、わずかな安堵がそこに漂う。
だが、束の間の休息には制限がある。10分という時間を過ぎれば、塔のシステムによって強制的に散り散りにされてしまう。
そうなっては再び集結するのは不可能に等しい――事前にシグルドから知らされていたアランタの常識だ。
生徒たちは言葉少なにその場に座り込み、与えられた時間を最大限活かし、疲れた体を休める。
幻影とはいえ、ここは戦場。拳を振れば筋肉は軋み、走れば息が切れる。
階段前で膝をつく十人の顔に、疲労の色がにじんでいた。
その中に身を置いていたルーカスは疲れていないが、無理にでも疲れたふりをせねばならない――周りに違和感を抱かせないために。