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story,Ⅳ:初めての召喚

「でもボク、子供体型に戻っちゃったら召喚術、使えなくなるんだよね?」


「フン。それは俺も同じこと。主人格に戻ったら召喚術は使えん。と、言うよりも“こいつ”が積極的に使おうとはしなくなる」


 宿屋の食堂で、フェリオ・ジェラルディンの疑問をフィリップ・ジェラルディンが答える。


「使おうと思えば、主人格のフィルも使えるんだろう?」


 今度は、レオノール・クインが尋ねてきた。


「ああ」


 フィリップは、短く答える。


「この世の中では、大変貴重な能力ですのに、勿体無いですね……」


「ハッ! こんな腰抜け・・・・・・には、使う価値もありはしない!!」


 ショーン・ギルフォードの発言に、フィリップは主人格を貶す。


「ところでさぁ、あのご神木の中では一体、何が行われていたんだ?」


「それが……ボクも記憶がないんだよね……」


 レオノールから問われて、フェリオはそう答える。

 兄からの、助言を守る為だ。

 このミント村は、ありがたいご神木を祈りへやって来る観光客が多いので、村とは思えないくらい活気付いている。

 なので、この宿屋も旅館と呼ぶべきくらい、大きい。


「どんな召喚霊なのかは、聞いても良いですか?」


 ショーンが、葡萄酒の入ったゴブレットを片手に、尋ねる。


「うん。ドリアードだよ」


 答えるとフェリオは、骨付き特大ウインナーに齧り付く。


「ドリアード! 確か樹木の精霊でしたね。どのような技を使うのでしょう?」


「それが……ボクもいざ、召喚してみないと分からないんだよね……」


 フェリオは、口をモグモグさせながら、ショーンに答える。

 すると、ショーンの隣で麦酒エールを豪快に飲んでいたレオノールが、木製のジョッキを片手に大きく息を吐いた。


「──ッカハーッ!! 俺は生きてるって感じするーっ!!」


「18歳でそれだけの飲みっぷり……恐れ入ります……」


「何言ってんだ! ショーンこそこんな風に飲んでみろ! 更に酒が美味く感じるぞ!!」


 レオノールは言うと、従業員へおかわりを頼む。


「ったく。うちの女どもは、女らしさに欠ける……」


 大食いの妹であるフェリオと、大酒飲みのレオノールを前に、フィリップは呆れながら言う。

 その時だった。


「キャアアァァァァーッ!! モンスターよ! モンスターが村を襲ってきたわ!!」


 これに、フィリップとフェリオの兄妹は、思わず一瞬硬直する。

 過去の、故郷での記憶が蘇る。


「行こう! お兄ちゃん!!」


「ああ」


 ガタッとフェリオとフィリップは、椅子から立ち上がる。


「ったく! 人が美味い酒飲んでる時にっ!!」


「同じく」


 ショーンも、万が一の為に持ち歩きテーブルに立てかけていた大剣を引っ掴み、レオノールと一緒に兄妹に続いて立ち上がった。



 宿屋から外へ出ると、人間よりも一回り大きい醜い姿をした、深緑色の肌で人の二倍くらい大きな頭と膨らんだ腹に腰巻一枚のオーグルが数多く、逃げ惑う人間達を追いかけている光景が目に飛び込んできた。


「ここは、私が」


 ショーンは剣を手にすると、まずは自分に一番近いオーグルを薙いだ。

 すると、そのオーグルはギャッと短い悲鳴と共に、上半身と下半身が切断されて即死する。


「ショーンがいくら強くても、これだけの数は処理しきれねぇぜ!?」


 レオノールの言葉に、不敵な笑みを浮かべてフィリップが、前へ進み出た。


「漆黒に燃えろ! 闇の業火オスクリダフェゴ!!」


 途端。

 一体のオーグルが黒い炎に包まれ、消滅する。


「ファ~! さすがは裏フィルお兄ちゃん!」


 しかし、フィリップは何かから目覚めたかのように、残忍な笑みを浮かべて次々と魔法を、オーグルへ向かって繰り出す。


 それは、炎だの氷だの雷だのと、枚挙に暇がない。

 気が付くと、レオノールも果敢にオーグルへと向かって行き、攻撃をしていた。


「踵落とし! 粉砕撃! 真虎竜拳!!」


 そうこうするうち、全ての数十体に及ぶオーグルを三人は倒していた。


「ああ! ありがとう! 旅の方々!!」


 三人へ感謝を述べてくる、村の人々。


「ボク……出番なかった……」


 フェリオが肩を落とす。

 しかし、どこからともなく不気味な音色の音楽が、流れてきた。


「!? お前ら耳をふさげ!!」


 フィリップの鋭い言葉で、フェリオ、レオノール、ショーンは素早く両手で耳をふさぐ。

 すると、周囲の人々が次々と、倒れ始めたではないか。

 よく見たら、眠っているようだ。

 そこへ、ブロッコリー密林がある闇の中から、竪琴を持った3m以上であろう大男が姿を現した。

 褐色肌に、赤茶色のボロズボンを穿き、茶色のポンチョ姿をしている。

 ざんばらな肩甲骨までの、黒い髪。

 白目の部分は黄色い。


「やはりな……あいつは、アレン・マク・ミーナというモンスターだ。あいつが奏でる竪琴で、強制的に眠らされる」


 フィリップが耳から手を下ろしたのを確認して、三人も耳から手を離す。

 すると、その大男の後ろから不気味な植物が、根を這わせながら出現した。

 まるでタコを思わせる根っこを足のように動かし、ウネウネと数本の野太い蔓を触手とし、その花弁は青紫色に黒い斑点が付いており、中心は口のようになって無数の牙が円状に並んでいる。

 しかもそれなりに大きく、アレン・マク・ミーナよりかは小さいがそれでも、2m以上は優にある。

 花の直径も、同様だった。


「今度は食人花か。厄介な」


 フィリップは舌打ちをすると、ぼやいた。


「前衛は俺達に任せな!!」


 レオノールとショーンが、アレン・マク・ミーナと食人花の前に飛び出す。

 これに気付いたアレン・マク・ミーナが、また竪琴を鳴らし始めたので再び一斉に、耳をふさぐ。


「チッ……両手を塞がれちゃあ、何も出来ねぇ……!!」


 レオノールも舌打ちをする。


「フン。今こそ俺の出番か」


 フィリップは、アレン・マク・ミーナが竪琴を奏で終えるのを待つと、すぐさま弓矢を構えた。


「疾風の牙!」


 技名と共に、矢を放つ。

 矢は見事、竪琴を持つ手に命中して大男は、竪琴を地面に落としてしまった。

 竪琴を持てなくなった大男は、驚愕の表情をしている。


「よし。行きますよ、レオノール!!」


「おうよ!!」


 ショーンとレオノールは声を掛け合って、大剣と拳でアレン・マク・ミーナと食人花に立ち向かったが。

 食人花が、花弁を閉じたかと思うと、パッと開いた。

 同時に、紫色の霧が発生する。


「まずい!!」


 フィリップは、大急ぎで隣にいる妹と共に自らの白いマントで、頭から身を包んだ。

 しばらくして、マントを払って見ると、ショーンとレオノールの様子がおかしい。


「何も、視えない!!」


 そう叫ぶレオノールから離れた場所では、ショーンが誰もいない所で剣を振るっている。

 どうやら、レオノールは暗闇を、ショーンは混乱の状態異常を受けたようであった。


「ど、どうしよう! 荷物、全部部屋に置いてきちゃったから、アイテム回復出来ない……!!」


 顔を青ざめるフェリオ・ジェラルディンへ、フィリップ・ジェラルディンが落ち着き払った口調で述べる。


「リオ。今こそドリアードを召喚する時だ」


「え?」


 戸惑うフェリオ。

 これへ苛立つフィリップ。


「ドリアードを召喚しろ!!」


「う、うんっ!!」


 フィリップから怒鳴られ、フェリオは慌てて意識を集中させた。

 すると、自然と彼女の頭の中から、詠唱呪文が浮かび上がってくる。

 目を閉ざしたフェリオの片手が、ユラリと垂直に持ち上がったかと思うと、もう片手も持ち上げてそれらを上下交互にゆっくり揺らし始めた。


「自然豊かな世界で生きし者よ。あらゆる植物の頂点に立ちし精霊よ。今こそ現れん! ドリアード!!」


 フェリオは、目を見開くと声高らかに召喚霊の名を叫び、一歩片足を踏み出して中腰姿勢になりながら、両手を真横に扇状に振るう。

 直後、その空間から無数の蔦が一ヶ所に向け出現し、人型を形成し始める。

 引き続きそれはグリーンの光を纏い、パンと弾けるやドリアードの姿を成した。

 ドリアードは、その場で四回転し上半身を前方へ倒し、片足を後方に高く上げ両手を広げ、 フェリオ、フィリップ、ショーン、レオノールを囲みながら爪先立ちし大地を滑る。

 そして、元の場所へと戻り両手を口元に当て、フゥと息を吹いた。

 吐息は、グリーン色の輝く風になり四人へ吹き抜け、それを確認後ドリアードの姿は大地に吸収されるかにして、消えた。


「……今のは、一体……」


 呟くフェリオの後へ続き、レオノール・クインとショーン・ギルフォードが言葉を発する。


「お!? 視える……視えるぞ!!」


「私は、何を……」


 気付けばレオノールの暗闇、ショーンの混乱が解除されていた。

 これに気付いた食人花が、再度紫の霧を発生させる。

 思わず、フェリオ、レオノール、ショーンは腕を使い鼻と口を塞ぎ身構える中、フィリップだけが平然としていた。


「あ、あれ? ……何も、起きない……」


 フェリオが、キョトンとしながら顔面へ構えていた両腕を、おそるおそる下ろす。


「ドリアードは全てのステータス異常の回復、無効化をもたらす力を持つ」


 フィリップが、冷静沈着に解説をした。


「おーっし! だったら、もう怖ぇもんはねぇぜ! 今度こそ行くぞ! ショーン!!」


「ええ!!」


 改めて、レオノールとショーンの二人は、アレン・マク・ミーナと食人花の前へ飛び出す。


「ショーンは食人花を! 俺はこの大男の相手をするぜ!!」


 レオノールが、掛け声を発した。

 直後、大男は大きく口を開けてから、目前のレオノールへ炎を吐きかけた。


「ぅわっと! マジか、こいつ! 口から火を吐きやがった!!」


 レオノールは、瞬時に横ステップを踏み、炎から免れる。

 一方ショーンは、食人花が放つ蔓の鞭を避けながら切断し、這い進み来る根を同じく切断する。

 少しずつ、食人花の動きが緩慢になる。


「霧攻撃の効果がない以上、恐るるに足りませんね」


 彼の言葉が通じたのか、食人花は茎の部分の膨縮を繰り返し始めた。

 ショーンが眉宇を寄せる中、花弁の中心の口腔らしき場所から、弾丸の如く種を吐き出し始めた。

 咄嗟にショーンは、剣を捌いて種攻撃からの盾とする。

 種の大きさは、直径5cm程ではあったが、大剣なので気にせず弾く事が出来た。


「連続パンチ!!」


 レオノールは四~五打、大男の鳩尾みぞおちめがけてラッシュする。

 大男は、鳩尾に手を当てて、身を屈めた。

 そこへ。


「踵落とし! 二段蹴り!!」


 レオノールは容赦なく、アレン・マク・ミーナの頭と顎へ、キックを炸裂させた。

 大男は再度、彼女へ向けて口から炎を吐く。

 しかしレオノールは、大きく垂直にジャンプすると空中で前転し、アレン・マク・ミーナの背後へ着地する。

 大男はふと気付き、炎を吐くのをやめ、背後へ振り返ったところで。


「いらっしゃいませ! 喰らえ! 地獄車!!」


 大男の胸元を掴むと、力一杯引き寄せた勢いそのまま、後ろへ一緒に倒れこみながら鳩尾へ足の裏を当て、アレン・マク・ミーナを更に後方へ投げ飛ばした。

 強か地面に叩きつけられ大男は、倒れたままだが三度炎を吐かんと、口を開いた時だった。


「粉砕撃!!」


 レオノールは、その口の中に拳を叩き込んだ。

 頭部がある地面が、陥没する。

 その衝撃は、口から脳へと強烈に伝わり、脳が破壊されてしまう程だった。

 アレン・マク・ミーナは、白目を剥き、それっきり動かなくなった。


「ぅえぇ……っ! 拳がこいつのヨダレまみれになっちまった!!」


 アレン・マク・ミーナを倒したレオノールは、口の中から拳を引き抜きぼやいた。

 直後、少し離れた位置から、ショーンの声がした。


「見切り! 瞬速斬り!!」


 レオノールが、それへ視線をやると食人花の花から茎へかけ、縦に一刀両断されている所だった。 

 こうして、村を襲撃してきたモンスターは、全て片付いた。

 レオノールは、アレン・マク・ミーナのポンチョで、ヨダレ塗れの拳を拭い取ってからフェリオの元へと歩み寄る。


「眠っている人達、どうする? フィルお兄ちゃん」


 外である地面に倒れこみ、あちこちで眠っている人々を気にするフェリオ。

 しかしフィリップは、冷ややかに言い捨てた。


「放っておけ。直、目覚める」


 彼の言葉を率直に受け入れたレオノールは、声高らかと言った。


「おっし! じゃあ飯の続きだ!!」


「そうですね」


 これに思いの他あっさりと、ショーンも承諾する。

 そうして言葉を交わしながら、四人は宿屋の食堂へ戻って行った。

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