やはり、モンスターが多く生息するオリーブ大陸への海路は、決して楽ではなかった。
大陸へ近付くにつれ、海の凶暴なモンスターが、船を襲ってくる。
船を沈ませようと出現した、全長5m程の人喰い鮫二頭の襲来。
海の中にいる以上、物理攻撃が不可能だ。
「ボクの魔法に任せて!」
フェリオ・ジェラルディンが、甲板へ進み出るや声高らかに、呪文と共に海中の鮫へ向かって両手を突き出した。
「凍れ! フローズン!!」
すると、たちまち鮫を含めて周囲10mの海水が凍り、一頭の鮫が閉じ込められ身動きが取れなくなる。
「このまま一気に叩き込む! 帯びろ! エレキオン!!」
凍った鮫の全身を、落雷の如き電流が流れるや直後、周囲の氷が砕け散る。
故に、氷から解放された鮫だったが、激しい電流のおかげか腹を見せプカリと海面に浮き上がり、ピクリともしなくなった。
これを学習したのか、もう一頭の鮫は海面から大きくジャンプして、空中へ躍り出る。
上から船を、その巨体で押し潰すつもりだろう。
だが、海面から外へ飛び出したのが、運のツキ。
レオノール・クインが、沈み込むように膝を曲げるや、タイミングを合わせ力一杯真上にジャンプした。
そして、頭上にある鮫の腹へ、身を反転させ鋭い蹴りをお見舞いする。
「二段蹴り!!」
強烈な衝撃を受け、その場から真下へと鮫が落下してくる。
これを確認し今度は、ショーン・ギルフォードが剣を構えた。
「瞬速斬り!!」
言葉通り、目にも留まらぬスピードで、大剣を振り回す。
鮫は、賽の目に切り刻まれ、船へ落下した時はもう、30cm四方のブロックに切り分けられていた。
「思わぬ食料が増えたな」
「ヒレと皮と牙は、アイテム屋へ高額で売れますよ」
レオノールとショーンの言葉で特に、食料という響きへ敏感に反応し、フェリオは大喜びする。
「生の魚肉なら新鮮なうちに、食べきってしまわなきゃね」
妹の様子を見て、苦笑いするフィリップ・ジェラルディン。
「これだけ赤々とした血で汚された以上、デッキの掃除を宜しく頼むぜ。血生臭くていけねぇや」
赤く日焼けした、白髪混じりで短髪の船長が、操縦席の小窓から顔を出す。
「ええっ!? 鮫からこの船を救ったのに、何たる仕打ち!!」
船長の言葉を聞き、フィリップは驚愕する。
「……見てたが、あんたは何もしちゃいねぇだろうが……」
船長は、小窓に腕をもたらせて、呆れ果てた様子を見せた。
港から出航し、半日が経過した頃──。
「それじゃあ、アンちゃん達! ボートを置いていくから、帰りは自力で頑張んな!!」
船の脇に積んでいた、木製のボートを括り付けていたロープを、刃物で切断し海面へ落としてから船長は、そう言い残しミント村があるクローバー大陸へと、戻って行ってしまった。
四人で目の前の浜辺へ、六~七人は乗れそうなボートを引き上げる。
「もう、ここまで来たら簡単には、引き返せないね」
フェリオの、いかにも不安を煽る言い方だったが、そんな事などお構いなしとばかりレオノールは、ウキウキした表情でガッツポーズを取る。
「いいぞ、いいぞ! レアアイテムの匂いだ!!」
「その目の輝き……レオノールの本職は、本当にレアアイテムハンターなのですね」
ショーンがクスクス笑う。
「さぁ、いざ参らん! レアアイテムハントの世界へ!!」
レオノールが、気合いを込めて言い放った目の前は所々、林や丘はあるが開けた平原だった。
「よっし! じゃあ僕も、気を引き締めなきゃ!!」
「そうだね。フィルお兄ちゃんは基本、メンタル弱いから」
意欲を高めようとする兄へ、さらりと言ってきた妹。
「……」
言う通り、メンタルが弱いゆえ落ち込むフィリップへ、フェリオは慌ててフォローした。
「ご、ごめん! 別に悪気はないんだ! ただ本当のことを言っただけだから!!」
「フォローになっていませんよ。リオ……」
「いいんだショーン……この子は昔から、こうだから……」
フィリップは、口元を引き攣らせながら告げた。
上陸したからには、前進あるのみ。
こうして四人は、ひとまず歩き始めた。
だが、このオリーブ大陸は、モンスターが多く生息している。
よって、まるでサファリパークのように、それぞれのモンスターがそこかしこといたが、視界に入らなかったり、必要以上のちょっかいさえ出さなければ、問題なく進めた。
無駄に突っ込み体力を消耗しないよう、モンスターの方から来ない限りは迂回しながら、目的地であるハイビスカス塔を一行は、目指すのだった。
「ところで、レオノール。そのハイビスカス塔がどこにあるのか、ご存知なのですか?」
ショーン・ギルフォードからの問いかけを、レオノール・クインは答える。
「ああ。ミント村のアイテム屋のオッサンからの情報だと、南の方角にあるらしい」
「成る程。では、手探りで進まずには済みますね」
レオノールの言葉を、ショーンはにこやかな笑顔で首肯した。
途中遭遇する、レベルの低いモンスターを、難なくなぎ払い前進する。
すると、今度は妖狼が現れたがまだ四人の存在に、気付いてはいなかった。
妖狼は、体を丸めて休んでいる。
だがこれを、動物好きなショーンが、反応してしまったのだ。
下手な戦闘を避ける為、無言のまま通過していた他の三人が、あっと思った時はショーンが妖狼へ、声をかけてしまっていた。
「やぁ、こんにちは。今日はお昼寝するのには、とても良いお天気ですね♪」
突然声をかけられ、眠りを妨げられた妖狼が、のそりと頭を持ち上げる。
その妖狼は、全身が黒色だが爪と目が赤く、左右に二つずつで額に一つと五つの目を持ち、尻尾が二本、足が六本あった。
「グルルルル……」
妖狼は、うなり声を漏らしながら立ち上がったのだが、その高さは約3mもあった。
「おや。普通の狼かと思ったのですが、モンスターでしたか。これはマズいですね」
「当たり前だろうが! このボケ!! ここはそういう場所なんだから!!」
レオノールが、ショーンへ怒りを露わにする。
「大丈夫ですよ。私達から何もしなければ、例えモンスターでも何もしてきませ、ん──」
ショーンは、笑顔でレオノールへ答えていたが、気付いた時には前足で叩き飛ばされていた。
「もう既に、お前が眠りから起こすという、“何か”をしてんだよ!!」
「最早、お馴染みのパターン……」
怒り肩のレオノールの斜め後ろから、フェリオ・ジェラルディンが口元を引き攣らせた。
改めて、三人は戦闘態勢へ入る。
4~5メートル程向こうへ、払い飛ばされていたショーンが、ゆらりと立ち上がる。
「これは……宣戦布告と受け取っても、宜しいのですね!?」
そうして背負っていた大剣を、正面に構えるショーンへ、三人が声を揃える。
「当たり前だーっ!!」
改めて、レオノールはファイティングポーズを取り、言った。
「こいつは手がかかりそうだぜ。サポート頼むぞフィル!」
「OK」
フィリップ・ジェラルディンが、短く彼女へ答える。
「よーっし! さぁ、かかっておいで!!」
フェリオは言うや、地面へ鞭をパァンと打ち鳴らした。
これを合図に、妖狼はフェリオとレオノールの方へ、向かってきた。
「どうか力を──“
フィリップは、レオノールへ攻撃力アップの補助魔法を放つ。
「フィル。私にもお願いします!」
フィリップは、妖狼を挟んだ二時の方向にいるショーンの頼みから、彼へも同じく魔法をかける。
「行くぜーっ! ──電光石火!!」
レオノールの、かけ声が聞こえたと思った時には、妖狼の顎が天を向いていた。
彼女が、真下から渾身の蹴りを炸裂させていたのだ。
「は、速すぎる……」
「レオノールには、スピード上昇の補助は必要なさそうだね……」
フェリオとフィリップは、彼女の攻撃を見て、感嘆の言葉を漏らした。
正面ではレオノールが、背後からはショーンが、妖狼を攻撃していく。
妖狼も、尻尾と牙や爪にて二人へ反撃しようとするが、何せ正面にいるレオノールの動きが素早い。
これで、妖狼は本気になったらしく片方の前足を、力強く踏み下ろす。
すると、赤い五つ目から電流が
そしてウォンと吠えると、その全身にまとっていた電流が、周囲へ放電された。
レオノールは、両手を交差させ防御しながら、後方へと飛び退く。
ショーンも、剣を正面へ横向きで構え防御姿勢を取り、同じく後ろへ下がる。
「チッ……これじゃあ、攻撃できねぇ……」
「そこは、このボクにお任せを! 雷電系には地の魔法!!」
ぼやくレオノールへ、フェリオが進み出た。
「撃ち放て! アーシムア!!」
フェリオの言葉と共に、空間から直径30cm程の石が無数、出現して妖狼の全身へと発射された。
「ギャオン!!」
石は、弾丸の如く妖狼の肉体へ、食い込んだ。
その激痛に、妖狼はよろめいたが、六本の足で踏み止まると天を仰いだ。
「ウオオオォォォォォーン!!」
妖狼の全身から流れる、紫色の血液が霧散すると、周辺へ広まり始める。
「……これは……?」
後方にいたフィリップが、眉宇を寄せる。
三人は前方で戦闘態勢を取っていたが。
「!! これは
だが、その時には既に三人はフラつき、次々と倒れこんでしまっていた。