心臓から胸が飛び出しそうだ。違う。胸から心臓かな? いや、どっちでもいい。面と向かって告白された。初めて女の子に告白された。
こんなにうれしいんだ。
幸福エキス。そんなものがあるのかどうか知らないけど、それが頭の先から足の先まで隅々まで行き渡って、ほかほかと温かくなるのを感じた。心臓がルンルンと踊っている。僕までスキップしてしまいそうだった。いや、スキップどころではない。手をパタパタと振れば、今なら空も飛べそうに思えた。
朱嶺はさらににじり寄ってくる。
あああ、近いい
手を伸ばさなくても触れられるほどの距離に、朱嶺のきれいな顔がある。たわわな胸が、目の前にある。
「先輩、私、何度も確認しましたよね? 黄崎先輩と付き合ってないのかって。おっしゃいましたよね? 彼女じゃないって。ならば、私が彼女になってもいいですよね?」
あ、そうか。
それで何度も何度も「付き合っているのか」「彼女なのか」って聞いていたのか。
朱嶺は初めて一緒に帰った時だけではなく、その後も何度も僕たちに「付き合っているのか」と聞いた。単純に冷やかしているのかと思っていたが、そうではなかったのだ。
いや、マズい。誤解させてしまった。
僕はマイに首ったけだ。世界で一番、好きと自信を持っていえる。朱嶺のことは、かわいい後輩だと思うようにしていた。そのくせ時々、おかずにさせてもらっていたけど…。
だが、しかし。
こうして告白されて、にじり寄られて、拒否する自信がなかった。だって、めちゃくちゃかわいいんだもの。
朱嶺は、クールビューティーという言葉がピタリと当てはまる美少女だ。その分、普段は表情の変化に乏しく、何を考えているのかわからないところがある。この前、空手の試合の応援に来てくれた時にも、マイがピョンピョン飛び上がって喜んでいたのに対し、いつもの真顔で「おめでとうございます」と言っただけだった。
なのに今は、告白した恥ずかしさからなのか、ほおを赤らめて、少し困った表情をして、目をうるうるさせて僕に迫っている。
ちょっと待って。そんな目で見ないで。
「先輩、返事を聞かせてください」
「ひぇえ」
初めて僕の前で感情をむき出しにした朱嶺に、圧倒された。さっき「ここで寝れる」と思った広いソファーの上で、押し倒された。
うわぁ、力、強いな。
朱嶺は僕の両手首をつかんで押さえつけると、馬乗りになった。下腹部が、僕の股間に触れる。ふわふわしてなんだか気持ちがいい。ああ、やっぱりちんちん付いてないよね。接しているところがゴソゴソしないもの。当たり前か、女の子なんだし。
いやいやいや、ちょっと待って!
ヤバいヤバい、そんなにゴソゴソ動かれたら、出てしまいそう!
巨乳が僕の胸板に思い切り押し付けられる。想像していた以上に柔らかい。
ちょっと待ってちょっと待って! ダメダメダメダメ! こんなの逆でしょ! 本来なら男子が「好きだ!」とか言って押し倒すんじゃないの?
「先輩。私、真剣なんです」
朱嶺は顔を寄せると、ちょっと怒ったような顔をして僕の目をのぞき込んだ。そりゃそうだろう。ふざけてこんなことされては、たまったものではない。頭の片隅で冷静にそんなことを考えながらも、朱嶺の下半身でぐりぐりされて、僕の男子エキスは爆発寸前だった。
朱嶺は僕に抱きついた。
「先輩。私のこと、軽蔑していただいても構いません。私、変態なんです。先輩の匂いが大好きなんです!」
そう言って、僕の首筋にむちゅっと吸い付いた。
何それ!
「ち、ちょっと待って!」
手首を振り解いて、体を起こす。勢いで朱嶺の胸を思い切り触ってしまった。
柔らかい……。
「あ♡」
僕が起き上がった勢いで、朱嶺がひっくり返る。その上にのしかかるような体勢になってしまった。
わああああ
朱嶺の両足の間に入ってしまい、お互いの股間が密着する状態になってしまった。
うわああ、朱嶺の股間、柔らかくて気持ちいいッ。
「あンっ♡」
朱嶺が顔を真っ赤にして、切ない声をあげる。
やめろお、なに変な声出してるんだ! あ、ヤバい。ちょっと出た! もうダメだ。刺激が強すぎるう! 目を開けると、真っ赤になった朱嶺の顔が間近にあった。
「先輩……」
朱嶺は目を閉じて、唇を突き出す。
なんだあああこれええええ ちょっと待ってくれええ
据え膳食わぬはなんとやらというが、これがそうなのか。エロ漫画でもこんなに都合のいいシチュエーションは今どきないぞ! そうだ、今どき、ない!
気がつけば、汗びっしょりだった。脇の下やお尻を汗が流れていくのを感じる。いや、待て。呼吸を整えろ。そうだ。呼吸を整えるんだ。目を閉じて、父さんの顔を思い出す。柔和な、典型的な中年オヤジの顔。父さん、いつも遅くまで仕事をしてくれて、ありがとう。スーハー、スーハー。
あ、なんか落ち着いてきた。
朱嶺の唇に、額を当てた。このまま空振りさせるのは、あまりにも酷だと思ったからだ。フーッと深呼吸を一つして、ゆっくり体を起こす。
「朱嶺」
朱嶺の股間に挟まれたまま、彼女を見下ろす。ゆっくりと名前を呼んだ。
「ハイ……」
朱嶺はもう息も絶え絶えと言った感じだ。
「先輩……」
うるうるしながら、切ない視線をこちらに向けている。
「先輩、好きにしてください。きょうのために、新品の下着を履いています」
恥じらって、目を閉じて指をくわえ、横を向いてしまった。なのに一方で膝を立て、僕を迎え入れようとする。緩やかにカールしたロングヘアの間から、白い首筋が露わになる。
やめろおおお、めちゃくちゃエロいッ そのビジュアルだけでイッてしまいそうだッ
「朱嶺、ちょっと待って。ちょっと、きちんと座ろう」
先っぽから汁が漏れ出して、下着を汚しているのを感じる。いや、すでに出てしまったのか。その感触が、急に僕を冷静にさせた。
「え……」
朱嶺は少し腰を引いて、上体を起こした。その拍子に、かわいいレースがついた白いパンティーが丸見えになる。あ、ヤバい。改めて襲いかかってしまいそうだ。
いかんいかん。冷静、冷静! 股間は引き続きカチカチで、簡単に収まってくれそうもない。それでもなんとか朱嶺を座らせると、僕も一人分くらいの間を開けて、座った。
「朱嶺」
手の甲で額の汗を拭きながら、しっかり顔を見た。唇に手を当てて、僕を見ている。もうクールビューティーではなかった。いつもより、もっと幼い感じがする。恋に恋する、めちゃくちゃかわいい16歳だ。
「カレンって呼んでください……」
「僕たち、まだ知り合って2カ月しか経ってないよね?」
「好きになるのに、時間が必要でしょうか?」
「……」
ああいえばこういうやつだな。
「うん、必要ないと思う。とはいえ、いざ付き合ってみて、こんなはずじゃなかったってなったら、困るでしょ?」
チラッとマイの顔が頭をよぎる。
「私は困りません。この2カ月間、先輩のことだけを見ていました。私の目に、絶対に狂いはありません」
朱嶺はすがるような目で僕を見た。
僕は、自分が小学校から中学校にかけていじめられっ子だったこと、高校に上がっても1学期はいじめられていたこと、不登校だったことを包み隠さず話した。空手の試合で漏らしたことがあることも。自分がいかに弱い人間で、朱嶺が過大評価しているかを説いて聞かせた。朱嶺は最後まで黙って聞いていた。
だが。
「先輩、自分のことを過小評価していますね」
何を聞いていたんだよ!
「私の知っている先輩は、そんな人ではありません。過去がどうだったかなんて、私には関係ありません。私は今の先輩のことが好きなんです。愛しています」
……。どこかで聞いたようなセリフだ……。
「先輩」
「わあ」
またにじり寄ってきた。巨乳が僕の腕に触れる。
「もしかして、先輩は本当は黄崎先輩のことが好きなんじゃないんですか?」
今更、それ聞く? いや、本心をきちんと説明していなかった僕が悪いのか。朱嶺は泣きそうな顔で僕を見ている。急に罪悪感が押し寄せてきて、勃起が急激に収まっていくのがわかった。
「そうなんですね?」
否定できない。だって好きだもの。だけど、それを正直に言ってしまうと、朱嶺を傷つけてしまいそうで、言えなかった。
「もう一度、おうかがいします。正式に付き合っているんですか?」
視線が真剣だ。逃げられない。
「うん。いや……。正式には付き合ってないけど、僕はマイのことがずっと前から好きだよ」
ああ、すまない、朱嶺。
「どうして告白しないんですか?」
「それは、いろいろ事情があって…」
話せば長い。それに、話せばマイがあまり人に知られたくないことに、触れざるを得ない。話すわけにもいかない。朱嶺は体を離すと、ふうっと息を吐いた。
「じゃあ、まだ私が割って入る余地は、あるということでよろしいですね?」
少し首を傾げて、そう言った。
え! なんでそうなるの? マイのことが好きだって今、言ったじゃん! まだ本人にも言ってないのに。驚いて朱嶺を見ると、あちらもこっちを真っ直ぐに見ていた。
「私、先輩のこと、諦めませんから」
そう言うと、ニコッと口角を上げて笑った。なんだ、そんなにかわいく笑えるんだ。朱嶺はかわいいな。いや、いかんいかん。何を考えているんだ。
「いや、告白してないだけで、僕はマイのことが好きなんだってば」
もう一度、言った。
「それはもうわかりました。でもさっき、私に欲情してくださいましたよね?」
バレてる……。
「先輩、すごく硬かったです」
また真っ赤になって、でもニヤニヤしながら斜め下を向いた。
やめろおおお朱嶺ええええ かわいいいいいいっ 惚れてまうやろがあああああああ
「違う、違うぞ、朱嶺くん! さっきから君は何を聞いていたんだ!」
思わず立ち上がる。動揺して朱嶺くんとか言ってしまった。
「しっかり聞いていました。黄崎先輩とは正式に付き合っていないと。私のことも、憎からず思ってくださっていると」
前半は間違いではないが、後半はそんなことひと言も言ってないし!
「お友達からでも構いません。私、必ず先輩の彼女の座、勝ち取ってみせます」
違ううううう! 何を聞いていたんだあああ!