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第121話 セクシーなところを見せて

 駅と電車内では、ほとんどしゃべらなかった。なんだか話ができる雰囲気ではなかったからだ。電車を降りて駅を出てから、ようやく僕から口を開いた。前から聞きたかったことだ。隠しごとなしと言うのなら、僕もこれについては隠してほしくなかった。


 「僕と黒沢を比べることって、ないの?」


 我ながら下衆な質問だと思う。だけど、知りたかった。


 「え?」


 マイは一瞬、言葉に詰まった。


 「僕と黒沢を」


 「え、ないよ」


 質問が悪かったかな。


 「じゃあ、黒沢と比べて、僕はどう?」


 「え、なんでそんなこと、聞くん?」


 不安な顔をしている。


 「だって、知りたいから」


 「え〜っ……」


 マイは口元を押さえて困っている。困らせてごめん。正直、男らしくないと思う。元彼と比べてどうか知りたいだなんて。


 「黒沢のことが好きだったから、付き合い始めたんでしょ?」


 意地悪だなと思いながらも、質問することを止めらない。


 「うん、まあ、それは否定できへん」


 マイは「気の迷いだったけどね」と言いながら、自分の手に目を落とした。


 「最初は楽しかった。毎日、みんなで遊びに行って。高校生になったなって思った」


 小さな声だった。


 ごめん。こうなるんじゃないかと思っていたけど、やはり負担をかけてしまったみたいだ。まだ黒沢のことを聞くべきではなかった。もういいよと言いかけたところで、遮られた。


 「だけど、2人きりになると、思っていたのと違ったよ。カップルって、もっとイチャイチャして、楽しいものだと思っていたし」


 どういろいろ違ったのか、知りたい。


 「ひどいやつだった、ざっくりまとめて言うと。わーっと騒がしくて、みんなを引っ張っていくカリスマ性があるだけ。彼氏としては自分勝手で、ひどいやつだった」


 マイは所在なさげに自分の指を触った。


 「それに比べれば、まあくんはすごく優しいよ。明るく楽しくって感じじゃないし、パリピ感は全くないけど、一緒にいると、すごく安心する。きっと、あいつとは違う世界を見せてくれるんじゃないかって、思う」


 ほめられているのか、けなされているのか、微妙。マイは目を上げた。僕を見る。


 「うまく伝わったかな?」


 もう少し聞いてみたかったけど、これ以上、マイの心をえぐる必要はないと思った。


 「うん」


 「ウチは、まあくんに隠しごと、せえへんよ。全部、一緒に背負ってもらうから」


 少し秋の気配が漂う風に吹かれて、ワンピースの裾がフワッと広がった。


 「まあくんの隠しごとも、そのうち全部、しゃべってほしいな」


 こちらを向くと、やっとホッとするような穏やかな笑みを浮かべた。


   ◇


 なんだか微妙な雰囲気で僕が帰ってきたので、夕食の時に母さんにいろいろ根掘り葉掘り聞かれた。「まさか、マイちゃんを泣かせたりしてないでしょうね?」と鋭く突いてきたので、味噌汁を吹きそうになった。


 食事が終わると、マイがやってきた。着替えていて、上下とも水色のスウェットだ。母さんが「マイちゃん、きょうは楽しかった?」と聞くと、あっけらかんと「めっちゃ楽しかったです!」と言い放った。


 女って怖い。


 部屋に行く。


 「で、さっきの続きやけど」


 マイはちゃぶ台を出すと、いつものポジションに正座した。自分の隣の床をポンポン叩いて、座るように促す。マイといい、朱嶺といい、なぜ女の子は座らせるときにポンポンと床を叩くのだろうか?


 「続きって何の?」


 隣に正座する。


 「まあくんの悩みの話やんか」


 しぶといな。だが、それがマイらしい。


 「ほら、デート中のロマンチックな雰囲気ではよう言えんかったやろうけど、帰ってきてリラックスしてたら、話せるんとちゃう? ほら、ウチなんかスウェットやで。スウェット」


 スウェットと何が関係あるのかさっぱりわからないが、胸のところをつまんでパタパタさせている姿がかわいいので、よしとする。


 うーむ、しかし。どうしよう。何か話さないと解放してくれそうもない。少し考える。そうだ、こんな話なら無難かもしれない。


 「実は」


 「実は?」


 マイは身を乗り出す。真剣な表情だ。


 「最近、マイでイケなくて」


 口から出まかせだった。昼間の悲しい雰囲気を一掃したくて、嘘をついた。こんなちょっとエッチな話題なら、気分もガラリと変わるはずだ。


 「うん、うん。うん?」


 「それで悩んでいるというのは、ある」


 「ん? え?」


 もっとはっきり描写しないとわからないのか。これ以上、詳しく話させないでくれ。恥ずかしいじゃないか。マイは不思議そうな顔をして、自分の唇を触っている。


 「???」


 「あのほら、わかる?」


 マイはしばらく沈黙していたが、見る見るうちに顔が赤くなってきた。


 「え!」


 「わかった?」


 「え! まあくん、ウチを想像しながら、そんなことしてるの?」


 そんなことって言うな。


 「え、うん。だけど、最近はしてない。というか、できない。それで困ってる」


 「え! してるのはいつから?」


 そこから蒸し返すか。


 「えっと、中学の頃から……」


 自分から振っておいて、だんだん恥ずかしくなってきた。顔が熱い。マイは真っ赤になったままわなわなと震えていたが、絞り出すように「変態っ」と言った。


 「いや、変態じゃないでしょ。好きな子のことを考えながらそういう行為をするのって、変態じゃないと思う」


 なぜこんな話を真顔でしているのか。


 「だって、まあくんのエッチ!」


 マイは平手で僕の腕をペシッと叩いた。それからもう一度、手を振り上げて、ちょっとためらってから僕の横面をはたいた。手加減しているので大して痛くはないけど、嫌というくらいマイの動揺が伝わってくる。


 うん、まあ、そうなるよね。でも、ここまで話しちゃったら、もう止められないぞ。


 「話が進まないので進めさせてもらうけど、最近、マイでイケないので悩んでいます」


 「しれっとした顔で言わんといて!」


 今度は拳でポカポカと僕の胸を叩き始めた。一応、腕を上げて防いではいるけど、本気ではないので痛くはない。善意で受け止めれば、照れ隠しだろう。たぶん。そうじゃなかったら困るんだけど。マイはひとしきり僕を叩いて、はあはあと息を切らせた。そこまで動揺しなくてもいいんじゃない?


 「え、じゃあ、勃たないってこと?」


 「いや、勃つには勃つよ。でも、最後までイケないんだ」


 「え…」


 いやあ、本当はそんなこと全然ないんだけど。


 「それで、ウチは、どうしたらええの?」


 お、そう来るか。なんだかちょっと楽しくなってきた。


 「え、お願いしていいの?」


 「えっ」


 マイはビクッと後退りする。


 「悩み解消に付き合ってくれる?」


 僕は身を乗り出した。


 「いや、それはもちろん付き合うけど」


 マイはスウェットの裾をいじりながら、もじもじし始めた。


 「じ、じゃあさ」


 うわあ、ちょっと待ってくれ。われながら嘘八百な話から、どうしてこんな展開になってしまったんだ。だけど、チャンスだ。もうカップルなんだし、普通ならば絶対に頼めないことを、頼んでしまおう。


 「マイの、その、セクシーなところが見たいんだけど」


 「はぁ?!」


 マイは素っ頓狂な声を上げた。


 前から思っていた。マイはかわいいけど、セクシーという感じではない。水着姿ですらかわいいが先に立って、性的な興奮が後回しになってしまう。だからこそセクシーな一面を知りたかった。朱嶺に興奮するのは普段はクールなのに時々、かわいい面を見せるからだ。マイの場合は、その逆に違いない。


 「ええっ。ちょっと待って。セクシーって、どんな感じ? え? マジでわかんない」


 マイは真っ赤になってうろたえている。目が泳いでいた。


 「なんかほら、チラ見せとかあるじゃん。あんな感じはどうかな?」


 自分でも何を言っているのか、わからなくなってきた。


 「え、マジで恥ずかしい。ほんま恥ずかしいわ」


 とか言いながら、マイはスウェットの上着に手をかけると、おもむろに胸の下あたりまで引き上げた。薄いグレーの下着が目に入る。


 「こ、これでどう……かな?」


 ん……?


 「マイ」


 「何?! これ以上、無理!」


 顔を真っ赤にして目をつぶっている。


 「シャツが見えてるだけなんやけど」


 「それ、ブラトップっていうの!」


 ああ、なるほど。シャツとブラジャーが一体化しているやつがあるのね。


 「どう?」


 頑張って見せてくれたけど、お腹の部分しか見えていなくて、セクシーさのかけらもない。


 「いや、ごめん。ダメだわ」


 「え……!」


 マイは上着を直す。


 「じ、じゃあ、下はどう? 前がええ? それとも後ろ?」


 わななきながら聞く。


 「いや、もうそんなに嫌なら、ええけど」


 「あかん、あかんって! 最後までやる! それで、前なん? 後ろなん?」


 なぜそんなに意固地になっているのか。


 「マイはどっちがええの?」


 「まあくんが見たい方でええって!」


 扇情的なのは前だろうが、普通に考えれば後ろの方が精神的な負担は少ないような気がする。


 「じ、じゃあ、後ろで」


 「わ、わかった」


 とんでもないことになってしまった。本人公認で生尻が拝めるとは。ごくりと唾を飲む。マイは僕にお尻を向けると、スウェットのズボンに手をかけた。きれいな丸いお尻だ。これは素晴らしいと思う。お尻は朱嶺に負けていない。マイはスッとズボンをお尻の半分くらいまで引き下ろす。グレーのパンツが少しだけ見えた。


 「あああああ、恥ずかしい」


 プルプルと震えている。


 「マイ、そんなに辛いのなら、もうやめておこう!」


 ごめん。悪ノリした。なんだかマイがかわいそうになってきた。


 「いや! やる! やるって!」


 マイはもう少しだけズボンを下ろした。


 いわゆるハミケツになった。なんだかだらしない感じがする。すごくかわいそうになってきた。それに、こんなに一生懸命にやってくれているのに今、申し訳なくて勃ってない。でも、こっちに無防備にお尻を向けている姿が、かわいくもあった。


 僕はマイのお尻を触ってみた。


 「ひゃん!」


 マイは驚いて飛び上がると、振り向きざまに僕の頭を平手でペシッと叩いた。


 「エッチ!」


 真っ赤になっている。


 「で、どうなん?」


 はあはあと息を荒げながら聞く。


 「ごめん。ちょっと勃つ以前の問題やった」


 ごめん。ちょっとからかいすぎたかも。マイは肩を落とした。僕の隣に座る。


 「ウチ、そんな魅力ないかなあ?」


 僕はマイを抱き寄せた。髪に顔を埋める。ちょっと汗臭いけど、いい匂いだ。なんだかホッとする。


 「そんなことない。十分、魅力的やって」


 ほおを寄せると、マイの体温を感じた。とても気持ちいい。安心する温かさだった。


 「ほんまに?」


 マイも僕の胸に顔を埋めた。


 「まあくん、ウチのこと、お姉ちゃんかなんかと思ってない?」


 「中学生の時はそう思っていたけど、今はそんなことないよ」


 「じゃあ、なんであかんのかな」


 マイは不意に僕の股間に触れた。


 「うわあ! ちょっと、何すんの?!」


 タッチしたという感じではない。グッとつかんだ。真剣な顔をして僕の股間をまさぐる。


 「ちょっとちょっと、くすぐったい」


 「え、マジで? 現役JKに触られてるのに、何も反応ないん?」


 「いや、ちょっと待って! くすぐったいって!」


 僕は身をよじってマイから逃れた。


 はあはあはあはあ


 ドキドキしている。思わぬ反撃だった。マイはほおを赤く染めて、僕を見ていた。


 あ、キュンとする。ちょっと反応する。マイはおっぱいとかお尻とかより、そういう表情で僕を刺激する。


 「大丈夫。頑張ってもう一度、イケるようにするから」


 ごめん。全部嘘なんだけど。 


 「え、ほんま? 大丈夫かなあ」


 珍しく嘘だって気がつかない。だけど、さっきまでの深刻な雰囲気は、もうなかった。珍しく僕の嘘がバレずに、なおかつうまくいった。本当に珍しいな。こんな日もあるんだな。

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