肉屋を応援する豚という言葉があります。
わたしの記憶だと社会かなにかの教科書に載ってた気がする。それとも養豚所を応援する豚だったっけな?
社会的風刺。つまり『自分にとって不利益になる相手を応援するな』というメッセージ。豚が養豚所を応援してるってことはつまり――ってことですね。
言うまでもないけど、これは豚に対して言ってるワケじゃない。人間への教訓として表現した言葉であり風刺。が、実際のにんげんはけっこう養豚所を応援する豚になってしまったりする。
意識的に、あるいは無意識に、そしてあるいはどうしようもない力によって。
みたいな社会的文章にしてるけど今回は心理学の話ね。まあ社会も関係あります。
心理学のジャンルのひとつに『社会心理学』ってのがある。ひとが社会で生きるとき、どーしても表れてしまう心理的あれこれの研究。そのなかのひとつに『ゲーム理論』がある。
いわばゲームをする人の心理を研究する分野。これを知ってるか知らないかでポーカーの勝率もめったくそ違う。マジで。ほんとだよ?
で、皮肉なことに、心理学は研究すればするほと「にんげんはおろかないきものである」ということがよくわかる学問でもある。ってことで、今回はひとのそんな愚かな部分について書いていきましょう。
:ラスボスみたいな考えのにんげん:
よくさ、ゲームでもアニメでもラノベでもさ、なんか「我が物にならぬならすべて消し去ってくれるわ!!」言うて世界を破壊しようとする系ラスボスっているじゃん?
それ、実は多くの人間がもつ心理でもあります。だからこそラスボスの描写として多く採用されてるんだろうけど。
自分の欲求が満たされないとイヤになっちゃうよね。だからラスボスみたいにぬわーってなる。いやなんないか知らんけど。っていうあれこれはとりあえず置いといて、えー、まあ自分の欲求が満たされないと書きましたが、にんげんがもつ根本的な欲求のひとつに『公平性』ってのがあります。
かんたんな例。ふたりの人間が同じ時間帯、同じ仕事量、同じ作業効率、そのほかモロモロがすべて同じだったとします。が、そのふたりにはひとつだけ異なる要素があります。
お給料。片方が月20万、もう片方が月45万だったとしたら、双方どのような想いを抱くでしょうか? ――言うまでもないよね。
はい、ひとは公平性をめったくそ大事にします。それはゲームでもいっしょ。両者が公正公平なルール、扱いのもとで行われるから成り立つのです。
公正公平を判断するため、ひとは"他者と自分を比較"する。自分の努力、相手の努力、それに対するリターン、あるいは待遇や仲間内での扱い、まあいろいろ。それらから「わたしは公正公平な評価を受けている」と認知すれば満足するし「わたしは公正公平な評価を受けていない」と認知すれば不満を抱える。
心当たり、あるでしょ?
そういった公平性が保たれてないと、キミは最終的にラスボスになります。いや、べつに魔王になったり強大な力をもって世界を支配しようとしたり勇者に倒される宿命を担うワケじゃありません。
自身の望み通りにならぬのなら世界を滅ぼしてくれるわ! みたいなマインドのことです。
これをわかりやすく説明するために、心理学 → ゲーム理論界隈で有名なおあそびをふたつほど紹介しましょう。
:最後通牒ゲーム:
最後通牒。相手に対し示す最終的な要求。これを受け入れない場合は交渉なんてもうしないぜ的なニュアンス。つまり「よろしい、ならば戦争だ」モード。
そんな物騒な名前がついたゲーム。
① プレイヤーを『提案者(A):受諾者(B)』に分ける
② AがBに金額の分割を提案する
金額はゲームにより異なる
③ Bはそれを受諾するか拒否するかを決定する
受諾 = A,Bどちらも金を受け取れる
拒否 = A,Bどちらも金を受け取れない
やりとりは1度きり。さらに、両者は事前にこのルールを把握してます。つまり
これ、ちょっとでも冷静に考えれば受諾者は『どんな金額でも受諾する』を選択すればオトクなはずだよね? だけどね、受諾者は不公平なオファーを、たとえば100円中「おまえ1円な」言う提案をされたら「は?」って感じでお断りをする割合が多かったのですよ。
なぜか? それは『提案者がめっちゃトクをする』から。不公平な提案をしたヤツには1円たりともやりたくない! という心理が働いてるようです。
自分が損をしてまで相手の利益を消し去ってくれる。これぞまさしくラスボス思考。いよ! じんるいの足の引っ張り合いは世界一イイイィィィィィィィ!!!
もちろん、提案者側だって公平性の心理をもってるんで「あまり不公平な提案すると突っぱねられるかもな……」って感じで
しかもコレ、国や文化などでわりと差が出る。とある部族は不公平と思われるような提案も受諾してたけど文化圏ではわりと公平性に敏感だった。資本主義の影響かな? なんて妄想したりすっけど、ちなみに日本人がやった場合どうなると思う? ――平均すると、提案者は他国と比較しても自分にとって有利な提案をすることが多かったようです。
はい、ここまでゲームの説明したんで次は心理の解説。まあだいたいわかるでしょうが、ひとは公平性が大事なのでそれを反故にするヤツは許せない! みたいな心理があるわけよ。
一方で、ひとは利己的な欲求をもつ。なるべく自分の取り分を多くしたい。でも公平性心理を相手がもってることを(自分もにんげんだから)知ってるわけで、じゃあどんくらいの割合なら相手も妥協してくれっかな? って塩梅で比率を決める。
公平性の心理って書いたけど、これ実は主観的な心理。実際に公平かどうかは問題でなく、その人が公平と
それは主観的なもの。ここに100円があるとして、さてキミはどうだろう?
自分が提案者だとしたら何円を自分のモノにする?
受諾者だとしたらどのくらいの割合でおーけーする?
金額が10000円だとしたら? ――ぜひ自分の想いをコメントでおしえてください。
:独裁者になろう:
小説家より独裁者をめざそうぜ!
っていう冗談はよして次のゲーム。最後通牒ゲームの派生なんだけど、これはちょっと変則的なルールになる。言うて変更箇所はただ1点だけ。
・受諾側は"拒否"ができない
ゲームの意味あるぅ? ってなっちゃう変更点だよね。だってこんな会話が繰り広げられること待ったナシじゃん?
提案者「こっち100、おまえ0な?」
受諾者「……はい」
一方的に金額決められて受諾者は拒否できないとかマジ独裁者! これをゲームとして扱うなら、提案者の立場の場合『自分10割、相手0』が最適解となる。だって受諾者に拒否権ないし。
つまり10:0以外は研究者にとって非合理的な結果となる。さぁーて実際はどうなったでしょう?
結果は『半々 or 全取りの2極化』。つまり理屈通りに選択するタイプと、公平性を意識して選択するタイプに別れたってこと。もちろん細かい数値がいろいろあるけど、だいたいはこんな感じになった。
半々をチョイスした提案者あらため独裁者は、なぁぜこのような選択をしたのだろう? ――なんとなく予想がつくんじゃないかしら?
ひとは公平性を望む。それが成されない場合、すべてのじんるいはラスボスと化し、世界をみぞうゆう(なぜか変換できない)の危機に陥れるのだ!
ってのは言い過ぎか。まあ、公平性は主観的な感覚なので、そのてんびんはみなさん自身でご判断いただければと思います。
:足でもなんでも引っ張ればよろし:
どっちのゲームも、社会心理学では古典的な実験となっております。なのでたくさんの派生実験がある。
たとえば『だれかに見られてる状況で金額を決める or 匿名で金額を決められる』みたいな差分を調べたら匿名のほうが利己的な金額を提案してたし『だれかの"目"がある状況』では公平性を重視した金額になったり、けっこーすごいこれ。
フレーミング(奪う、などのワードを実験中に盛り込むことで心理的変化を促す)要素を入れてもいろんな実験結果が得られるのだからおもしろい。そうそう、裕福そうなカッコの人には金額マシマシ提案されたりするので、みなさんもリッチな見た目を目指したほうがいいですよ?
今回のお話でぜひとも覚えてもらいたいこと。それは『ひとはだれもがラスボスになれる』ということです。世界崩壊のスイッチを押すのはキミだ! みたいなノリでもいいし、なんだったら世界を支配して「みんななかよくしよ♡」ムーブをかますのも良いでしょう。
すべてはキミ次第。どんなラスボスになりたい? 決意表明は順次受け付けておりますので遠慮なくどうぞ。
キミのラスボスライフが順風満帆でることを祈ります。
とりあえず参考になりそうなヤツ
関西大学ソシオネットワーク戦略研究機構:高橋広雅氏
ttps://www.kansai-u.ac.jp/riss/researchers/interview/interview15/