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大谷翔平は長嶋茂雄を越えたか?

 結論を書けば『越えようがない』といったところ。それほどまでに長嶋茂雄という人物はトクベツで、大谷翔平という人物をしても到達できない領域だ。


 勘違いしないでほしい。これは長嶋と大谷を比較してどっちが良くてどっちが悪いという話じゃない。それぞれのベクトルが異なり、比較できるものではないという意味だ。


 このふたりは時代、スタイル、舞台、数字、周囲の反応など異なる点がありすぎる。なのでどうしても比較したいのなら『〇〇に関しては~』という前提が必要になり、総合的判断をしようがない。


 するとしても、それはどう考えようが主観的感想になってしまう。まあ、どっちのほうが優れてるか? という話題は得てして主観的な評価になってしまうのだが。


 じゃあ、こういう『どっちのがすごいの?』的な話題の指標になりそうな要素を探してみよう。その上で、長嶋茂雄と大谷翔平のそれら・・・を比較してみよう。そう思い立って書いてみようと思った。






:わかりやすいのは数字:


 最も重要視されるのは『数字』だ。


 ざっくり考えていこう。大谷翔平はMLBで『50本塁打:50盗塁』を記録している。これは圧倒的な成績で、長嶋茂雄には残せなかった記録だ。


 一方、長嶋茂雄は初年度『30本塁打:30盗塁』を記録するはずだったが、まさかのベース踏み忘れで29本塁打になるという珍事を残している。とはいえこれも圧倒的な成績で、大谷翔平も記録していないものだ。


 いやいや待てと、大谷は50-50だぞ? まさか「50-50は50-50であって30-30ではないから30-30は記録してない」なんていう屁理屈か? なんてツッコミは無し。これには理由がある。


 長嶋茂雄はNPBで残した記録。大谷翔平はMLBで残した記録だ。そしてお互いに、お互いが活躍したリーグでお互いの記録を越えていない。


 大谷翔平のNPB時代の打撃成績キャリアハイはおそらく4年目の2016年。本塁打だけざっくり書いてくか。


104試合

323打数

22本塁打


 長嶋茂雄の4年目は1961年。


130試合

448打数

28本塁打


 おお、本塁打率的に見ると意外にいい勝負感がする。じゃあ他の指標も見てみるか。じゃあ打率とか打者としてのポテンシャルはどうだろう?


長嶋茂雄

 打率:0.353

 OPS:1.108

大谷翔平

 打率:0.322

 OPS:1.004


 やや長嶋茂雄優位に見えるが、まあ大谷翔平には例によって「投手としての負担もあるから」的な枕詞がつくので、やっぱいい勝負してる感がある。


 もちろん、これは「大谷翔平の投手としての負担」がどの程度あるのか? を考慮しなければならない。フル試合出場してないし、投手として登板する前後に休養があるのだから負担は比較的少ないとするか、いやいやその年は20先発で投球回140なのだから負担は大きいよとするかは個人の判断だ。


 なお、この年の大谷翔平は10勝4負、防御率1.86でWHIP0.91を記録してる。


 ここまで書くと「長嶋茂雄は投手登板がないから大谷翔平のほうがすごい」という意見が多そう。多そうじゃない?


 数字で比較するなら、長嶋茂雄ははじめから投手として登録されていたわけではないので考慮しないというかできないっていうかしちゃダメ。それをしたらいろんな数字を持ってきて、より盛る・・ことができる人がすごい理論になっちゃうから。


 少なくとも、長嶋茂雄がアマチュア時代に投手やってりゃ多少は考慮の余地があったかもだが――残念ながら長嶋茂雄は最初から最後まで内野手だったので比較できない。大谷翔平外野手だったし。


 でも、試してみて意外にも大谷翔平選手のNPBでのキャリアハイにだけ着目すると、長嶋茂雄と大谷翔平はけっこー似たような成績を残してることがわかった。






:数字の功罪:


 データのなにがいいって『わかりやすさ』だ。たとえば打率、本塁打、打点の打撃三部門を比較して、このふたりだったらキミはどちらのほうがスゴイと思うだろうか? ってかどっちのが「ワイのチームに来てくれや!」って思うかな?


A選手

 打率::0.280

 本塁打:15

 打点::60


B選手

 打率::0.310

 本塁打:35

 打点::110


 言うまでもないよね? ――一方で、データは特定の情報・・・・・しか見られない・・・・・・・という一面もある。上記三部門だけ見ればB選手一択だろうが、B選手が三振数100に対しA選手は30かもしれないし、さらに盗塁50とかやってるかもしれない。


 加えて、B選手は守備がポンコツかもしれない。まあ指名打者という道もあるだろうが……守備位置などの兼ね合いもあり、決してB選手だけに需要が集中することはないだろう。


 数字は事実をあらわしてくれる。が、それに対し良い・・と思うか悪い・・と感じるか、どちらのほうが、という判断は主観的なものでしかないのだ。


 なお、長嶋茂雄もアンタッチャブルな数字を残している。数字というか記録というか、たとえば『天覧試合でのサヨナラホームラン』などがそれだ。


 1959年6月25日。巨人のもと本拠地である『後楽園球場』での大阪タイガース(当時)戦。長嶋茂雄はこの試合ふたつの本塁打を放ち、そのうち1本はサヨナラだった。


 天皇陛下は時間厳守だったので9時15分には帰らなきゃいけない。けどもつれた試合は9回裏時点で4対4。延長したら天皇陛下が帰っちゃうって場面でのサヨナラ劇。これで天皇は無事、試合終了まで見ることができました。


 天皇陛下が見に来た試合でサヨナラホームランって展開マンガにある? そんな記録前にも後にも長嶋茂雄だけなんですよね。






:長嶋茂雄がなぜ唯一無二なのか?:


 長嶋茂雄が『ミスタープロ野球』と呼ばれる所以はなにか? それは日本野球界にオンリーワンな貢献をしたから。


 キミがイメージしてる以上に凄まじいよ? 言っとくけどフツーにオンリーワンよ? ってことで、とりあえず日本プロ野球の歴史をちょっと紹介しつつ、並行して長嶋茂雄の偉大さを語っていきましょう。


 日本野球は、もともと大学の文化でした。アメリカ人が持ち込んだ野球が外国人教師により大学の間で広まった。いわゆる『六大学』ってヤツね。


 戦前まで、プロ野球球団はあったけど有名でない。まあ"職業野球"言われてそこまで人気じゃなかったんです。まあ大学生たちは運動として野球をやってただけだから、卒業したらさっさと離れて仕事しますわね。その後も職業として野球を選択するってのは稀有でした。


 発足当初は海外遠征、チームをつくってリーグ戦。それでも戦争の煽りを受け選手たちが次々と辞めたり戦場に散ったり――このあたりは『沢村栄治』や『ヴィクトル・スタルヒン』といったワードで検索すれば詳細がわかると思います。


 契機は戦後。ボロボロになった日本が復興しようとするなか、国民に元気を与えるには娯楽だ! ということでそっち方面にも力が入れられていきます。野球もそのひとつ。まあGHQが野球を利用しようとしたのも大きいね。それに乗っかって正力松太郎など多くの実業家が野球を広めていきます。


 読売テレビという報道機関があったのも大きい。土台は揃った。あとはスターの存在だけ――長嶋茂雄は、そんな時代に訪れた逸材でした。


 彼は大学野球のスターでした。高校時代はとくに突出した選手ではなかったもののプロに着目されるくらいにはすごかった。彼は大学進学しメキメキと上達。当時の記録を次々と塗り替えて大学野球のレジェンドとなります。


 こんな逸材、天下の読売巨人軍が見逃すと思って?


 大学野球のレジェンドが新聞、テレビで報道しまくれる巨人に入った。あとはまあご想像にお任せいただければと思いますが、彼の凄さはそんだけじゃないのよ。


 ここまで見ると「なんだ、野球人気のための客寄せトンボか」みたいな印象になりそうですがぜんっぜん! むしろ長嶋茂雄は想像以上にやべー成績を残しました。


 初日は同じく球界のレジェンド、400勝投手『金田正一』に4打席連続三振を喫するなどが話題になりつつ、その年から3割29本塁打90打点とルーキーとは思えない化け物っぷりを発揮。このころからメディアの『巨人×長嶋茂雄』比率はぶっ飛びングになり、それと同時に国民の野球人気が高まりました。


 その後の活躍は、彼の訃報によって多くのメディアで伝えられているので語るまでもないでしょう。敬遠に抗議してバットを持たず打席に入ったなんて彼以外にいるのか?


 ニュースは連日のように彼を報道されつづけ、彼は永遠にその期待に応え続けた。


 ボクが言いたいのは永遠。


 結果を残せなければ報道されなくなる。いかにワッショイされたとしても――では、彼がどのような成績を残したのかはWikipediaとかでも確認できるけど、とりあえず参考になりそうなのは野球殿堂博物館だと思いますよ。



:野球殿堂博物館、長嶋茂雄:

ttps://baseball-museum.or.jp/hall-of-famers/hof-086/



 これは誰と比較するという次元じゃない。まさにオンリーワンな傑物でしょう。彼は数字だけでなくメディア対応もしていました。彼のトークは名言も迷言もとにかくたくさんあります。


 我が巨人軍は永久に不滅です

 野球とは人生そのもの

 メークドラマ

 いわゆるひとつの

 失敗は成功のマザー

 ミートグッバイ

 魚へんにブルー

 インフレ?(インフルエンザのこと


 まだあるよ? ほんとだよ? すげーよ?


 試合中だってサインをダサず直接バントのジェスチャーで選手に伝える場面もあるとかどんだけだよと。しかもしっかり成功させちゃう選手も選手だよね川相昌弘選手すごい!


 彼自身、トークが得意なわけじゃないのでしょう。でも一生懸命になって言葉を考えて、とにかく話そうという意志をもった結果、数々の迷言が生まれたのでしょう。こういった姿勢もまたメディアから好評を受け、好意的に伝えられ、日本野球が盛り上がっていきました。


 象徴ですよ象徴。当時はメディアパワーが強くて、テレビでは連日のように野球中継があり、巨人は強いチームとして君臨し続け『巨人・大鵬・卵焼き』なんつー迷言も生まれて、そこで長嶋茂雄は同じく球界のレジェンド『王貞治』と共に巨人の象徴であり続け、日本野球の象徴であり続け、そして日本全体を元気にしてくれました。


 今日の野球があるのはこの人のおかげです。長嶋茂雄という人物がいたからこそ野球は国技になり、世界最高のプロ野球がある国になったのです。


 少なくとも、そう信じてるジジババは多いと思うよ? もし疑ってるならキミのじっちゃんばっちゃんに「長嶋茂雄ってそんなスゴイ人だったの?」と聞いてみてご覧なさい。もしかしたら「大谷翔平よりすごかった!」って言う人もいるかもしんないね。




 長嶋茂雄、大谷翔平。


 どちらもすばらしい選手で、偉大な人物で、そして野球界になくてはならない存在だ。それぞれのスタイルを見ても、ベクトルが違うので決して比較できるものではなく、っていうか比較できないのだよワトソンくん。


 わたしの個人的感想でいえば「どっちもすごい!」です。え? どっちつかずの玉虫色な回答だって?


 いいじゃん。どっちも好きなんだから。わたしが野球を始めたころにゃあ長嶋監督・・が連日テレビに映っててね? そりゃあもうミートグッバイな活躍してたんよ。ジャンパーを脱いで背番号『3』が顕になる場面とか記憶に残ってるし優勝して胴上げされてるシーンも印象深いし長嶋茂雄を語る大人たちの反応だって「ああ、あの人は偉大な人なんだなぁ」っていう気持ちにさせてくれたし野球やってない人だって(ry


 理由がどうあれ、キミがその人を尊敬するに理由なんざ必要ありません。好きなら好きでいいし、スゴイと思うならスゴイでええんよ。


 キミが思うスゴイを大切にね。

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