「いや、ウソだろ?」
「リリムがあなたに虚言を吐く理由はありません。外見だけではありません。リリムの計測では、あなたの肉体年齢は18歳前後です」
リリムはアイランドの女刺客の体を乗っ取った時の、美少女のままなのに。この世界に鏡があったら、この村の村長に見せてもらわねば。
やがて村の中心にある、多少大きな家に辿り着く。
「ここだよ!」
案内した子供が指を指しながら叫んだ。
「村長、お客さんだよ!」
「エイジ」
「分かってる。……しかし」
俺はリリムに小声で話しかけると、彼女もそれに応じる。
「この異世界の人間が俺達と同じ人間である保証はない。何故か俺もリリムも言葉が通じてるが、俺らが信用された訳でもない」
万が一に備え、リリムは
「遅れました。ささ、どうぞ中へ…」
老人は俺らを招きいれた。
「遠慮なくお掛け下さい。ワシはこの村の村長をしています。ラズ・グリフィルです」
村長を名乗る老人に言われ、椅子に腰をかけるエイジとリリム。
「俺はエイジ。こっちはリリムだ」
「はい、存じております。勇者様……ですよね? この度はこの村の子供達を助けていただき、本当にありがとうございますっ!!」
「違います」
リリムが間髪入れずに否定すると、ラズ村長は面食らったような顔をする。しかしすぐに平静に戻った。
「では……一体どのようなご用件で……?」
「ああ。まず色々聞きたい事がある。俺を勇者様と呼んだのなら、村長さんは俺らが違う世界から来たのを知ってるんだよな? この村の子供を誘拐しようとした兵士共も言っていた。どうやって知った?」
「はい。先の勇者様が召喚されたのが一週間前。半年前には相当数の勇者が召喚されたと聞きます。そして今日、村の近くにゴブリンの群れが現れました。連中は勇者に反応して現れるのです」
リリムは村長の話を聞きながらも分析する。
「一週間前…。どうやらこの異世界では、“勇者”という者が頻繁に召喚されるようですね」
「そのようだな……」
「それで……エイジ様達はこれからどうなさるのですか? この村に留まって下さるのでしょうか?」
村長の目は真剣だ。恐らくこういう子供の誘拐やゴブリン共に襲われるなど、全く珍しくない現象なのだろう。
「村長。リリムとエイジはこの世界で行くアテがありません。永遠にとは言いませんが、条件付きでこの村に少々滞在しても構いません」
「そ、そうですか! それは良かった!」
村長は俺達に安堵の表情を見せる。
「ではまず、この大陸の地図を見せて下さい」
リリムがそう言うと、村長は部屋の奥にある本棚から一冊の本を取り出してきた。
「どうぞご覧下さい。これがこの大陸の地図です」
俺達はその地図を見る。しかし……。
「リリムにはデータがありません」
「……まあ、当然だろうな」
何故か俺にはこの世界の文字が読める。それはリリムも同じらしい。
「リリムにはこの世界の文字を解読出来ます。データにはないのに、理解不能です」
「細かい事はあとで考えよう、リリム。なるほど。この村はアンデルシアって国の辺境なのか」
「はい、この村はむしろバイレーン帝国の隣に位置しておりまして……。先ほどのようにこの村や近隣の集落の子供は頻繁に狙われるのです」
「バイレーン帝国?」
リリムが村長に尋ねる。
「国境警備隊はどうなっているんです? いえ、アンデルシアは正式に抗議しないのは何故です?」
「一応国境警備隊はりますが、ゴブリンやオークの討伐、他の村や集落も守らない為我が村まで手が回しません。バイレーンの武力を恐れてか、アンデルシアの上層部は真剣に抗議しないのです……」
村長は深くため息をついた。
「世界は違えど、国を治める連中ってなんか同じだな…。どこも遺憾の意を示してなあなあかよ」
俺もため息をつく。
「エイジ。リリムも疑問があるのですが」
「どうした、リリム?」
リリムは村長を見ている。何か質問があるようだ。
「村長様。この大陸には他に国があるのでしょうか? 例えば……人間以外の種族の国とか」
「はい。北の大国バイレーン帝国は獣人やエルフが暮らしていますし、東の王国ラミサルも亜人が多いと聞きます。南にある小国は交流がありませんから、我々には分かりません」
「なるほど。まあ、あとは疑問が浮かんだらその