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第7話:どこもかしこも人手不足だ

「さて……」


 俺は立ち上がり、隣で寝ているはずのリリムを揺さぶる。


「起きろリリム」


「はい……エイジ……」


 リリムもぼんやりと目を覚ました。人間の体を手に入れたら、やたら眠るなこいつ。


「夜、女神マーヤ…神堂しんどう摩耶まやが現れた。リリムも見たよな?」


「はい」


 間違いない。リリムも見たという事は、昨日のあれは夢でもなんでもない。


「元の世界に帰るためにも、その女神サーラとやらを止める必要があるな」


 リリムもうなづく。


「そうですね。でも私たちが女神サーラを倒すには、圧倒的にデータが不足しています」


「は? データもへったくれもないだろ。村長から見せてもらった地図で、この大陸をしらみつぶしに探すしかない」


 とりあえず顔でも洗って外に出るか。

 外に出て新鮮な空気を吸う。アイランドの刺客を気にしなくていいなど、脱走してから初めての朝だ。

 辺りを見回すと村長が声を掛けてきた。


「エイジ様、お目覚めですか? 朝食の準備が出来ていますので、どうぞ……」


「あ、ああ。ありがとう」


 食材さえ用意すればリリムが用意したのに…とツッコミを言いかけて俺は堪える。

 俺は村長に案内されるがままについていく事にした。

 リリムは俺より先に寝室から出ていく。


「エイジ」


 テーブルに着いた俺に、リリムが話しかけてきた。


「ん? どうした?」


「朝食のメニューを解析しました。パンとスープです。それとサラダも危険要素はありません」


「そうか……ってお前、そんなもんまで解析するのか!?」


 今度は思わずツッコミを入れてしまった。


「毒が入っているか確認する必要がありますので」


「おいおい。ここには俺とお前と村長しかいないが。作った人が気分を悪くするような発言は控えろ」


「エイジ。あなたはこの異世界の人間が信用出来るとでも? リリムはあなたの身の安全を第一に考えています」


 リリムの口調は厳しい。しかし、それは俺を思っての発言だ。


「分かったよ、リリム」


「はい」


 とりあえず腹も減ってるし、腹が減っては戦は出来ぬともいう。まずは飯だ。

 リリムには村の状況をデータとして俺に伝えるよう言ってあるから、今は余計な事を言わないだろう。

 俺たちは村長についていき食堂に入った。ラズ村長が椅子を引くので俺はその椅子に座り、後ろにリリムが続く。


「そういえば村長。昨日国境警備は凄い手薄、みたいな事言ってたな? そこまで人手が足りないのか?」


 村長は申し訳なさそうな表情で答える。


「はい……正直言えば、国境警備隊には村を2・3個も守れるくらいの力はありません……」


 申し訳なさそうな表情で答える村長。


「そうなのか?」


「なら、なぜそこまで無力な警備に任せているのですか?」


 おい、言葉を選べリリム。


「……人手が圧倒的に足りないのです。むしろ警備隊を率いているハイロード伯爵は本当に耐え忍んでくれています」


 村長は言いづらそうだ。


「そうか。いや、警備隊の上がまともな人ならいいんだ」


「エイジ。あなたは一度も会った事もない人を信用するのですか?」


 ……リリムの質問も最もだ。だが、今のところ村長の言葉を疑う理由もない。人も少ない辺境に人員やインフラを回せないなんて、元の世界でも良くあった話だ。

 その時である。


「ラズ村長! ミア様がいらっしゃいました!」

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