俺の言葉を聞いてミアは、少し安心したような表情を浮かべた。
「ありがとうございます……。辺境警備隊は元々父が隊長していたのですが、数年前から病魔に侵されまして…。今はわたくしが務めているのです。村長や子供達から、お2人はとても強いと聞きました」
「そうか。色々大変なんだな……」
別にあの程度、アイランドの刺客共と戦ってきた俺からすればどうという事はない。
正直バイレーン帝国の兵士とやらは、アイランドの
しかしここは、自分らの強さには敢えて答えない事にした。
「リリムはエイジがどの様に答えるか、判断に困っています」
リリムの少し困惑した声が耳に響く。
「まあ、さっきも言ったがメシと宿の恩がある。あの程度なら2,000いようがどうってことはない」
ミアはそんな俺を見て微笑む。
「そうですか。では私からお願いがあるのです……」
俺とミアは村の中を歩き始めたのだった。リリムもミアの“お願い”とやらには興味ありそうだ。
「リリムもミアの“お願い”には、大いに興味があります」
……口に出しやがったこいつ。
「ご、ごほん。で、俺達に頼みとは?」
「はい。この辺境を守る為に、国境警備隊に入っていただけないでしょうか? 勿論形式だけでも構いません」
リリムが補足説明をする。
「この国は人口が少なく、軍事兵力も乏しいようですね。さらに村長さんからこの国の上層部は辺境の被害には目を瞑っている、と聞いております」
恐らくリリムの通りなのだろう。
「ミアさんはシュヴァリエ? だかなんだったかだろう。王に志願は出来ないのか?」
俺がミアに聞いたが、ミアは首を横に振る。
「陛下は悪い人ではありません……。ただ……」
俺は少し考え込んだ。ミアのもどかしい態度には言い辛い何かがあるのだろう。
「もしかして。この国の王は何かの理由で、幕僚たちに強く言えないのですか?」
リリムの疑問通りだ。こういう状況でまず思い浮かぶのは、王が家臣や幕僚に首根っこを掴まれてる状況である。
「はい……」
何か歯切れの悪いミアの態度がそれを裏付けた。まあ、答え辛いなら今は無理に聞く事もないか。
「とりあえず、形式だけでもいいならまあ、警備隊への入隊は構わない」
「リリムも入隊には問題ありません」
ミアは俺達の言葉に、喜びの表情を浮かべる。
「ありがとうございます! では早速エイジ、リリム、こちらへ」
ミアは俺とリリムは連れて、村の中を歩いていく。
暫く歩いていると、一軒の大きな屋敷に着いた。
「ここが私の家、ハイロード家です。お2人共どうぞ中へ……」
俺達はミアの案内で屋敷へと入る。
中に入ると、執事やメイド達が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませミア様」
「ただいま戻りました。お父様は?」
「書斎にいらっしゃいます……」
「お父様ったら、また無理をなさって……。分かりましたわ。書斎に向かいます」
無理をなさって?
ひょっとしてミアの親父さんは、病気か怪我でも患っているのか? まあ、会えば分かるだろう。
ミアの先導で屋敷の中を歩いていくと、応接室らしき部屋の前に着く。
「お父様、わたくしです。入ってもよろしいでしょうか?」
「構わんよ、入り
ドアをノックする音の後、少ししてドアは開いた。
現れたのは長身の、優しそうな男性だった。
「この男性が村長から聞いていたハイロード伯爵という人物ですね。健康状態は良好とは言い難いです」
リリムの言う通り、というか予想通り。男性はいくばくか笑顔を作るのも辛そうだった。俺は軽く会釈をする。すると男性は笑顔で答えてくれたのだった。
「初めまして。私はブルーホース・ハイロード伯爵…。ミアの父であり、この辺一帯を治める事を命じられている領主です。どうかお見知りおきを……」
「よろしく、ハイロード伯爵。エイジ……呼び方はエイジで構わない」
「リリムと申します」
リリムも俺の後ろでお辞儀をした。