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第14話:立場を呑み込めていない男

「…おいおい? テメーも女神様から召喚された勇者か? 俺様に手を出したら…?」


 この状況でまだ俺に食って掛かる。ったく、学習能力のない奴だ。


「あいにくだがお前が何様だろうが興味ない」


「……へ?」


 俺の言葉を受け、裸のままの所長とやらはあっけらかんとする。どうやら状況が飲み込めてないらしいな。


「お前、自分が何をしたか分かってないのか?」


 俺はそう言うと所長に近づく。そして……。


「な!? テメー何しやがる!?」


「黙れ。お前が今までしてきた事を思えばこのくらい可愛いものだ」


 俺は裸の所長を縛り上げると、そのまま引きって廊下に出る。


「おい! 離せよ!」


「……うるさい奴だな。いいか? 今から俺が質問した事にだけ答えろ」


 こいつのわめき声に俺が付き合っても仕方ない。


「お前のその髪、茶に染めているけど根元は黒だ。瞳の色といい日本人だな? 名前は?」


「え?あ、ああ……。俺の名前は長谷部だ。長谷部健太…」


 ……間違いない。こいつサーラに召喚された、勇者の一人で間違いない。

 なるほど、摩耶さんが俺とリリムを呼んだ訳だ。こいつらのほとんど、こういう風に勇者の力でこの世界で悪さしてるようだな。


「えーと、それで長谷部くん。この収容所は誰が作ったんだ? キミがロリコン趣味だけで作ったんじゃないよな?」 


「誰がロリコン趣味だ!? この収容所はな……。俺のダチが、この世界を救うために作ったんだよ! でもバイレーンの子供を実験に使うワケにはいかねぇじゃん!?」


 こいつ……まだ自分のした事の罪深さが分かってないのか……?


「…その“ダチ”とやらの名を教えてもらおうか?」


「だ、誰がしゃべ…」


 瞬間。俺の人差し指と中指が、こいつのヘソの下の急所経穴“梁門りょうもん”を突いた。


「しゃべりたくないならそれでもいい。でもお前のその粗末なもんは、もう一生つことはないぞ?」


 俺の指拳を食らった男は、“くっ”と黙り込む。そして……。


「わ、分かったよ……! そのダチの名前は岩平純太だ」


 予想通り日本人か。まあだが、直ぐに気を取り直した。 


「その岩平純太くんは何の実験をしてるんだ?」


「それは……。あ、いや、これは言えない」


「そうか……」


 俺はそう言うと、経穴“梁門”を再び突いた。


「ぎゃああああ!?!?」


 男は絶叫する。


「……もう一度聞くぞ? その岩平純太くんとやらは何の実験をしているんだ?」


「わ、分かったよ! 純太はな、ポーションのモルモット代わり、そして人間兵器を作ろうとしてる

らしいっ!!」


「!?」


 人間兵器……だと!?


「それって具体的には……」


「し、知らねぇ! 純太はただ、“俺の理想の兵隊を造る”としか言ってなかったんだ……!」


 またも自分の血液が沸騰しているのが分かる。世界中の子供を誘拐、人間兵器に仕立てる。

こいつとダチとやらがしているのは、アイランドがしてきた事と同じだ。


 俺は長谷部を縛り上げたまま、別館の外に出た。


「お、おいっ! 約束通りしゃべたろうがっ!!」


 全身が痺れ、動けなく半べそをかきながら叫ぶ長谷部。


「うるせーよクソガキ。俺が約束したのは『命は助けてやる』だ。痺れを治してやるとも縄を解いてやるとも言ってない」


 さらに俺は肩の付け根の急所経穴“肩井けんい”を突いた。


「なっ!? た、頼む、助けてくれっ!!」


 あの調子では魔法も使えまい。ヤツには言ってなかったが、経穴・肩井は横隔膜を急激活発させ過呼吸が酷くなっていく。

 やがて呼吸出来なくなり、3時間以内に苦しみぬいて死ぬのだがまあ、命は奪わない約束だ。。数日後には冷たい遺体に変わっているだろう。

 長谷部を無視して、俺は倉庫に入る。なるほど、これが様々な病気のためのポーションか…。


「エイジ。いつでも出発できますよ?」


ミアが駆け寄ってきたが、正直笑う気が起きない。


「エイジ? 一体どうしたのですか?」


 流石にリリムも、俺のご機嫌が斜めなのには気づいたようだ。だが俺は構わず続ける。


「……倉庫にあるポーションを運び出す。皆さん、手伝ってくれないか?」

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