誘拐された子供たちは、皆両親や兄弟との再会を祝っていた。
「あ、あの……エイジ様。皆から聞きました。あなたが一人でバイレーン帝国の収容所に乗り込んだって……」
ルソン村の村長が俺に尋ねる。
「…厳密にはリリムと2人で、ですけどね」
確かに俺が乗り込んだ時に長谷部という館主の男を放置してきたが、あんなクソ野郎のガキの事など正直どうでもいい。
それよりはポーションの方が重要だ。あれを使えば静馬さんだけじゃない。命に関わる病気で苦しんでいる人を救う事が出来るのだから。
「それにしてもエイジさん。あなたは一体……?」
俺は村長の問いをスルーした。答えるつもりなどないからだ。
「ミア、悪いがこのポーションは一つだけ、俺とリリムが持ち帰らせてもらうぞ?」
「……はい。分かりました」
ちょっと寂しそうなミアだが、こればかりは仕方ない。それに……。
「あの長谷部というガキ、『バイレーン帝国では人間兵器を造ろうとしている』とかほざいたな」
「そうなのですか? リリムはその場面を見てないので分かりません」
「ああ。間違いなくバイレーンを仕切ってる勇者の奴ら、人の命を何とも思っちゃいない」
俺がそう言うと、リリムは頷く。
「エイジがそうおっしゃるなら間違いないでしょう。では、その人間兵器とは一体?」
「それは分からない。俺みたいな強化戦士かもな。でもなリリム、ミア……」
俺はリリムとミアに顔を近づける。
「な、何でしょうか……?」
少し頬を赤らめるミア。何か勘違いしてるだろ。俺は構わずに続ける。
「あの収容所の所長も俺と同じ世界の人間だった。摩耶さ…女神マーヤの言う通りだ」
「ですね。あくまでここまでの体験、そしてエイジの話からするに、能力の大小はともかく、少なくとも女神サーラが召喚する“勇者”は誰でもなれるようです」
リリムも俺の意見に同意してくれた。
「ですが、女神サーラは何故そんな事をしたのでしょう?」
ミアがそう聞いてきた。まあ当然の疑問か。ミアは沙羅と摩耶姉妹に関する真相を知らないんだし…。
俺は少し考えた。真相を言うべきか……
「おそらく遊びだ」
「遊び、ですか?」
ミアは首を傾げる。
「ああ……」
もう隠してても仕方ない。俺とリリムはマーヤこと神堂摩耶から姉のサーラを討ってほしい、と頼まれたのをミアに打ち明けた。
「女神サーラを討つですか!?そんな事が……」
「信じられないかも知れないがこれが真実だ。サーラもマーヤも長生きして神に等しい力を手に入れたとはいえ、元々は俺らと同じ世界の人間なんだから。マーヤによると斬りもすれば血も出るらしいし」
俺はミアが疑ってるがと顔を見たが、彼女は首を横に振った。
「いいえ。エイジやリリムが嘘をつく理由がありませんし」
「そうか……。でもマーヤの話では、女神サーラを討たないとこの世界はメチャクチャになるらしい」
俺がそう説明すると、リリムは頷く。
「はい。それは事実でしょう」
「で、ですが! 何故そんな恐ろしい事を……?」
「ミアが信じられないのも無理はないけど、俺は見た。あの収容所のガキが俺と同じ島国出身なのを。下っ端でアレな奴なのに、それよりも力があるのがまだいるっぽい」
「そんな……!?」
驚くミアだが、無理もない。この世界が崩壊するかもしれないのだ。しかも女神様たちの姉妹喧嘩のせいで。
「それでエイジはどうするおつもり? まさか……」
ミアの問いに俺は答える。
「もちろん、サーラを討つつもりだ」
俺の言葉にリリムは頷き、ミアは絶句したのだった。