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第16話:ポーション

 ルソン村に戻った俺たちは、早速ポーションを村の子供たちに配った。


「ありがとうお兄ちゃん!!」


「礼はいい。家族に病気の人がいたら飲ませてやれ」


 俺の言葉に子供たちはコクンと頷く。すると……。


「あのー、エイジさん……」


 一人の少女が俺に話しかけてきた。確か名はメルとか言ったっけ?


「ん? どうした?」


 俺は少女メルの目線に合わせて話すと、彼女はまたもコクリと頷いた。そして……。


「あ、あの……! ほ、本当に助けてくれてありがとうございます! こ、このポーションがあれば村のみんなが助かるんです!」


 少女はそう言って頭を下げたが……。


「いや、こっちも知りたい情報があったからな。ほんのついでだ」


 本当は青馬さんの病気がメインの目的だったんだが、こんな小さな女の子相手にわざわざ斜に構えた態度を取る事もあるまい。


「それよりメル。申し訳ないがラズ村長を呼んでくれるかな」


「あ、はい!」


 メルは笑顔で頷くと村の方へ駆け出した。


◇◆◇◆◇◆◇


 俺が収容所で見聞きしたことを村長に話す。


「ジュンタ・イワヒラ…何を研究していたんですかね?」 


「さあ…所長のあいつも下っ端で、詳しいことは何も知らされてなかったようだからな…」


 ふむ、やはり村長も知らないか…。


「…ポーションのことですが、実は」


 村長は眉間にシワを作り、真剣な表情だ。


「バイレーンは以前からポーションの名産地でした。お抱え魔導士がたくさんいたので…」


「……ある日を堺に変わった、という事ですか?」


 俺は思わず村長に聞き返す。


「はい。半年前から突然このアンデルシアを含む近国全てに対し、ポーションの輸出を止めたのです」


「……勇者たちが大量に来た時期と合いますね」


 リリムが村長に尋ねる。


「……おそらくですが、バイレーンは“ある物”を造り始めたのだと思います」


「ある物……?」


 ここで俺の中に疑惑が浮かんだ。それが人間兵器!? まさか……。

 いや、人体実験で死にそうになった被検体をポーションで治すとすれば、納得のいく話だ。

 これは青馬さんにも教えておくべきだろう。


「まあともかく。これで病気も治るはずです。村長、今夜は皆さん子供達にご馳走でも振舞ってください」


 そう説明すると村長は頷く。そして……。


「エイジ様。出来る限りこの村でお休みください。このご恩は一生忘れません!」


「ええ……どうも…」


 一応は村長に相槌を打つが、俺がアイランドを抜け出て何人もの刺客を返り討ちにした理由は、両親を探すため。異世界で勇者なんかやってる場合じゃない。


「それでは……」


 と、その場を去ろうとした俺に、ノックの音が歯止めをかける。

 ノックの主は先ほどの少女、メルだった。


「失礼します。エイジさん。ハイロード伯爵が、エイジさんに話があるそうです」


「分かった。では村長、俺は一旦失礼して伯爵のところに行ってきます」


「はい。私は急いでませんので。ごゆっくりしてきてください」


 俺は村長に一礼し、その場を後にした。

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