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第17話:村長が!?

「青馬さん。体調はいかがです?」


「おかげ様でかなり回復したよ。流石はバイレーンのポーションだ。ありがとう、エイジくん…」


 俺とリリムは今、ハイロード伯爵こと青馬さんの屋敷に来ている。

ポーションのおかげで、呼吸器官の症状はかなり回復したようだ。


「ところで青馬さんは。以前バイレーンの捕虜となった際、人体実験に使われたそうですね?」


「ああ。『人間兵器』を作るため魔導士たちにね」


 青馬さんは、その当時を思い出したのか、少し顔色を悪くした。だが俺は続ける。


「……実はマーヤによると。青馬さんや俺と同じく、勇者としてここに召喚されたのが50人以上いたそうです。俺が召喚される前に…」


「何だって!?」


 青馬さんは驚きの表情を見せる。まあ当然だろう。自分や俺の他にも異世界に、しかもそれが50人以上召喚されていたなどと。


「一つは進学校のクラス丸ごと。もう一つは底辺工業高校の不良グループ…」


 流石に青馬さんの年の人に半グレなんて言っても通じないし、イチイチ説明するのも面倒だ。普通に不良グループでいいだろう。


「呼んだのは女神サーラです」


「!?」


 青馬さんも、驚きを隠そうとしない。……これはミアやラズ村長だけではなく、青馬さんにも真実を話しておくべきだろう。

 俺は神堂沙羅が女神サーラに転生した事や、サーラの本当の目的は勇者を使って殺し合いをさせて、この世界の人間を含めた生物全てが困るのを見たがっている事だと正直に話した。


「………信じられん。サーラが元々我々の世界の人間だったというのも驚きだし、実は蟲毒のために勇者を召喚していたなどと…」


「この世界の対なる女神で、サーラの妹マーヤが言ってるんです」


「そんな!? それではミア達も……!」


 青馬さんが顔面蒼白になるのも無理はない。何しろ妹の摩耶さんの話す限りでは、サーラは笑って人を殺せるタイプと認識されているのだ。


「俺とリリムが息の根を止めないと、サーラはまだまだ暴走を繰り返します。ミアにも危険が及びます。俺も摩耶さんと取引した以上、サーラをるつもりです」


 俺がそう話すと、青馬さんは少し考えてから口を開く。


「そうか……。だが私はもう長くは生きられん。だからせめてミアに私の遺志を……」


「……俺に任せてもらえますか?」


 青馬さんは頷いた。俺は彼に全てを話す事にした。


「分かった。私に何かあったらミアの事はエイジくん、よろしく頼むよ」


◇◆◇◆◇◆◇


 その頃、バイレーン王国首都。


「なあ。長谷部が殺されたってマジ?」


 円卓を囲み、3人の男達が紅茶のようなものを飲んでいる。


「ああ。救助が駆け付けた途端死んだ。ガキも全部奪い返された。生き残った奴の話から察するに、アンダルシアの国境警備隊のガキにやられたらしい」


 彼らは今のバイレーン王国を牛耳る3人の勇者。

 岩平いわひら純太じゅんた兵藤ひょうどう達也たつや速水はやみ美樹彦みきひこ

 彼らがバイレーン帝国の乗っ取りに成功してから、全ての権力は彼ら3人“バイレーン三巨頭”が握っていた。

 この世界で進学校グループと不良グループは『元の世界に戻るまでは同盟の関係』を結び、手始めにバイレーンの頂点に収まる事を決めた。現皇帝とその軍勢は彼らの前に全く歯が立たず、今や書庫室で名ばかりの国政を行っているハメになっている。


「それで? これからどうする?」


「決まってるだろ。たかが小国の国境警備隊のくせに。今すぐアンダルシアの田舎に軍を差し向けろ。逆らう奴は全て殺せ」


「おいおい。あそこはモルモットをさらう、いい狩猟場なんだぜ?」


 半グレグループのリーダーだった兵藤に、流石に岩平が釘を刺した。


「ウッセーよ。オリャアそんな雑魚に舐めた真似されて、黙ってるようなタコじゃねえんだよ」


 兵藤はそう言い、速水と岩平を睨みつけた。


「なるほどな。じゃあ俺がアンダルシアに行って、ガキどもを攫ってくるよ」


「ああ頼むぜ岩平。俺の兵隊がお前の命令を聞くよう、しっかり言い聞かせておく」


「分かったよ兵藤くん。でも……」


 速水は兵藤に尋ねる。


「本当にいいのか? アンダルシアの田舎に兵を向けるなんて……」


「まあ兵藤クンの気持ちも分かるよ。弱小国の田舎らしく、黙ってガキを生贄に差し出してりゃいいものを…」


 と、速水と岩平は兵藤に懐疑的な目を向けたが……。


「何言ってんだお前ら? あんな国のガキ一人二人殺そうが、俺のハートはちっとも痛まねぇよ」


 そう言って兵藤は立ち上がった。


◇◆◇◆◇◆◇


「それじゃあ、俺らはこれで…」


「ああ」


 青馬さんの屋敷を出て、村に戻ろうとしたその時だった。

 ドアが激しくノックされる


「伯爵! 伯爵! 大変です!!」


 声からするに、青馬さんの屋敷の召使いのようなものか。

 かなりひっ迫した状況なのが分かる。


「どうした? 落ち着いて話せ」


 青馬さんが召使に落ち着くよう促す。すると召使いは、俺らの想像の斜め上を行くとんでもない事を言い出した。


「伯爵! 大変です!! ラズ村長が……!」


「!?」


 青馬さんは慌てて屋敷から飛び出し、俺とリリムも後を追った。

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