「これは……!!」
感情がないはずのリリムですら、思わず口に手を当てている。
村長の屋敷の玄関で目にしたのは倒れた村長と、点々とした血だったからだ。しかも……。
「…これは失血死ですね」
リリムに言われるまでもなく、そうなのだろう。村長をやった奴は、メッセンジャーとしてワザとトドメを刺さなかったに違いない。
「あ、あの……。村長は……」
村の若者が恐る恐る俺に聞く。俺は黙って首を横に振った。
「そんな……!」
絶望する村人達。すると青馬さんが口を開いた。
「……ラズ村長をやった奴がこの村に来ているという事だ」
と、その時だった。村人の1人が声を上げながらこちらに来る。
「た、大変だ!! 隣村にバイレーンの奴らがきて、若い女を!!」
「……案内してくれ!!」
青馬さんの命令で馬車が出る。俺とリリムと青馬さんは、すぐに馬車に乗った。
「エイジ。さっき村人がバイレーンの奴らが来たと……」
「ああ。もしかしなくても収容所の件だろうな」
俺は青馬さんにそう答えた。リリムも頷く。
「だからリリムはあの時全滅させるべきだと……」
「だな。下手に情けをかけた俺の失態だ」
いずれはバレただろう。ただ、リリムの言うように全滅させておけば発覚まで数日はかかったはずだ。
「しかしまさかバイレーンの奴ら、隣村にまで来ていたとは……」
青馬さんは馬車の中で歯ぎしりする。隣村に来たのは偶然ではないだろう。恐らく威嚇目的で最初から隣村を選んだのだと思う。
「エイジ! あれを!!」
リリムが指さす方向を見ると、そこには……。
「あれは……!」
バイレーンの騎兵と村人達が戦っていた。しかもその騎兵の中には、収容所で見た奴が何人もいる。
「やはりな……」
俺は自分のグロック17とマガジンをリリムに渡した。
「エイジはどうするのです?」
「あんな奴ら素手で十分!」
そう言って馬車から飛び降りた。
「おい貴様! 何者だ!?」
バイレーンの騎兵が俺に槍を向けるが、俺は気にせず瞬時にジャンプで間合いに飛び込み、額の急所経穴“
「ぐわっ!」
今こいつは、頭の中でベルが鳴ったように激しい頭痛に襲われているはず。
リリムも俺に負けじと二丁拳銃で、兵たちを次々にあの世に送っていく。
「エイジくん! リリム!」
馬車から降りてきた青馬さんも剣で応戦している。
だが……。
「ぐわっ!!」
突然、青馬さんが倒れた。見ると背中には矢が突き刺さっているではないか。
「「「伯爵!?」」」
村人達が叫ぶ中、バイレーンの兵士たちは俺らに矢を向けてきた。
「動くな」
バイレーンの騎兵の一人が、村人達に警告した。
「いいか! 一歩でも動くなよ!」
そうこうしているうちに、バイレーンの騎兵たちが馬に乗り込んでいくのが見えた。
「貴様らにはバイレーンに一緒に来てもらう」
騎兵のリーダーらしき男が、俺達に剣を向ける。この男も日本人か。どうやら例の勇者っぽいな…。
だが……。
「断る」
俺はすかさず構えを取り応戦する。騎兵のリーダーも剣を抜いて俺の剣を受け止めたが、その隙にリリムの二丁拳銃が火を吹いた。
「ぐわっ!!」
騎兵の副隊長格は、そのまま馬から転げ落ちる。
「エイジ!」
「ああ!」
俺とリリムは馬車に飛び乗った。すると青馬さんが俺に叫ぶ。
「エイジくん! ラズ村長を殺したバイレーンの兵士を……!」
「……分かりました」
バイレーンの騎兵は大急ぎで、村から離れていくのが見えた。
「リリム! 奴らを追えるか!?」
「任せてください!」
リリムは二丁拳銃を収めて、馬車から飛び降り残っていた馬に
「お前が村長を殺した勇者か? ちょっと話をしようじゃないか」
勿論こんな奴が謝罪してそれを許すほど、俺は優しい性格はしていない。何よりこいつの面を見る限り、謝罪する気は毛頭ないようだが。
が、少し情報は得ておきたい。
「貴様…何者だ?」
「ほう? お前もサーラに召喚された勇者か。あの村長とかいうジジイに、この領地は我々の物だから立ち退くよう言いに来たのだが……」
なるほど。やはり目的はそれか。しかし……。
「ふざけるな! ここはアンデルシアの土地だぞ!」
村人たちが怒るのも当然だ。俺もコイツの態度に、『なるべく苦しめて殺す』決心は固まった。