「あん? それで逃げ帰って来たってワケか?」
兵藤は凄まじい形相で伊達をにらんだ。
「は……。す、すいません……」
伊達はすっかり兵藤に怯えていた。無理もない。相手はあのバイレーンの収容所の兵士達を逆に全滅させたエイジなのだ。伊達如きが勇者の力でどうにか出来るものではない。
「ったく、使えねえなテメーは」
兵藤は舌打ちする。だがすぐにニヤリと笑った。
「まあ良いぜ。俺が直接出向いてやる」
「え!?」
伊達政道は驚いた。まさか兵藤が自ら乗り込むなど、思ってもみなかったからである。しかし……。
「勘違いするな。俺が乗り込むのは奴らを全滅させた後だ」
兵藤がそう言い直したので、伊達政道はホッとした。だが兵藤はそれでも納得していないらしい。
「もう一回だけテメーにチャンスをやる。3度目は無ぇぞ?」
兵藤は伊達に尋ねる。彼は首を横に振った。
「い……いや、もう勘弁してください! 兵藤さん」
エイジの戦闘力を見せつけられた伊達がビビるのも無理はない。
「ああ!? テメーふざけんじゃねーぞっ!」
兵藤は伊達の胸倉を掴んで、そのまま殴り飛ばした。
「がはっ!!」
「いいか? いくら勇者だろうが俺たち“三巨頭”にとってお前らは単なる駒なんだよ! 駒を上手く使えるのは上に立つ人間だけだ!それが分かんねーのか?」
もはや兵藤の声は伊達には届いていない。だが、それでもなお……。
「す、すいません……」
と謝罪を述べる伊達であった。進学校の生徒である自分が、こんな半グレのリーダーだった男に殴られるのは内心納得していない。
それでも“勇者の力”は兵藤の方が遥かに上。逆らったり怒らせようもんなら何をされるか分からない。
伊達はひたすら謝り続けるのみだった。
「が、がはっ!?」
すいませんを連呼する伊達の体に異常が起きた。ブルブルと痙攣したかと思うと、鼻血と血の涙を流し始めたのだ。
「あ……ああ……」
伊達は胸を押さえてその場に倒れる。兵藤は興味なさそうに鼻くそをほじくりながら、その様子を見ているだけだったが……。
やがて口からも血を流し、その場で倒れ電気が流れたように倒れた伊達は───そのまま絶命した。
驚き、声も出ないバイレーン帝国の兵士達。
「ほう…これはこれは。収容所を潰した奴の、俺達に対するメッセージらしいな」
兵藤が伊達の無残な遺体を見ながら呟く。兵士達はというと、腰を抜かしてその場に座り込んでしまっていた。
「そ、それでは…ヒョウドウ様たちをこんな風に殺すという…」
「ああ…伊達をこんな風にした奴の怒りが分かるな…。どうやら俺らは触れちゃいかんものに触れちまったらしい…」
そう言いながらも兵藤は、ニヤニヤと笑うばかりだった。