「「「よろしくお願いします、エイジ様」」」
夜、ミアがメイドや使用人、執事たちを呼んで俺が新しいハイロード伯爵になる事、リリムもここのメイドになることを伝えたが、反対する者はいなかった。
本来ならミアが家督を継ぐべきだろうに、意外だな。
「しかしミア。本当に良かったのか? 言っちゃなんだが婿養子みたいなんもんだろう、これ」
これは俺の正直な気持ちだ。普通こんな得体の知れない俺に家督を継がせるなんて、絶対にしない。何か裏があるのかと勘ぐってしまうほどだ。
だが……。
「ひょっとしてエイジ様は私共が反対すると思っていたのですか?」
執事のアルバンさんがそう言った。
「ああ」
俺は頷く。すると彼は微笑んだまま話を続けた。
「でしたら心配はございませんよ、エイジ様」
「え?」
どういうことだろう?
「あなた様の人柄に問題がなければ、我らは反対などいたしません。この世界に来て早々面識のない子供を助けるなど、勇気無き者には取れぬ行動です」
とメイド長であるケイトさんが言う。そして他のメイドや使用人も笑顔で俺を見ていた。
な、なんか照れくさいな……。そんなに慕われるような事はしてないと思ったが……。
「さらに言えば、エイジ様は家督を継げば、ミア様が頭を悩ませる事も無くなるのです」
と執事さんが言った。さらにメイド長が言う。
「エイジ様が婿養子となれば、ハイロード伯爵家は安泰です。あの人もちょっかいを出せなくなるはずです」
……あの人?
「それは誰のことなんです?」
俺が執事にそう聞くと彼は首を振って答えた。
「申し訳ございませんが、詳しくは私達にも……。お時間のある時にミア様か伯爵にお聞きになられた方が……」
そうか、執事さんで気を揉むようなヤツなのか。
「まあまあ。その話は後で私から話す。ハイロード家の新伯爵の誕生を祝い、今日は
ヨロヨロと奥から出て来たのは青馬さんだった。が、「寝てろ」なんて俺にはとても言えない。
「はっ! 承知いたしました!」
執事さんやメイドさんたちが一礼し、宴の用意をし始める。まあ今日は仕方ないか……。
◇◆◇◆◇◆◇
宴は夜遅くまで続いた。ミアもリリムも、そして使用人や執事たちも皆楽しそうにしていた。
「エイジくん」
そんな中、青馬さんが話しかけて来た。
「はい」
「…実はミアにはしつこく婚約を迫っている男がいてね」
「はあ」
なんとなく話が見えてきたな。が、あえて最後まで聞く事にした。
「ミアもその男は心底嫌っていたので、私はその男に『娘の意志を尊重します』と断りの返事を入れたのだが……。逆に私の方が殺されそうになってね……」
「……マジですか?」
俺は青馬さんの次の言葉を待った。しかし彼は首を振る。
「いや、嘘を言っても仕方ないだろう」
なるほどな。俺に家督を譲って婿養子みたいに受け入れたのは、その件もあるのか。
その時である。メイド姿のリリムが、盆を持って立っていた。
「ポーションをお持ちしました」
「ありがとうリリム……」
青馬さんがバツの悪そうな表情を浮かべる。
ああ……。俺とリリムが男女の関係だと思っているのか。これは誤解を解いた方がいいな。