「せい…伯爵。俺とリリムには伯爵が思っているような関係はありません」
……なんか、ものすごくプレッシャーをかけられてしまったな。
「ごほ! ごほん!」
青馬さんは慌てて咳をした。俺とリリムの関係を誤解していることを悟られないためか?
「ハッキリ言いましょう。リリムの本体はそれです」
俺はリリムの手首のブレスレットを指さした。
「……どういう事だね?」
この事はハイロード家の重鎮たちにも話しておくべきだろう。
「ミア。それとアルバンさん。ケイトさん。ちょっとよろしいですか?」
俺はミアと2人も話に招き入れる事にした。
「実は俺は、元の世界で誘拐された身でしてね……」
「誘拐!?」
「なんですって!?」
ミアとメイド長さんが驚く。まあ当然か……。執事さんに至っては眉間にシワを寄せている。
俺は話を続ける事にした。
「タワーって組織は絶海の孤島に引っ掛けて“アイランド”という研究部門を置き、俺のような年端もいかない子供を誘拐しては、各国に売り飛ばしていた……。屈強な
しゃべりすぎて少し喉が渇いたので、俺は水を一口飲んだ。
「消された記憶が戻って自分が誘拐されたのが分かり、リリムと一緒に脱出したんです。リリムの体は元々俺を暗殺するため組織が送りこんだ刺客で、気絶させてそのブレスレットを嵌めたんです。人間の脳は最高のCPUだそうなので。今は刺客の女の意識は完全にありませんがね」
おっとっと、CPUと言っても意味が通らないか。
「じゃあ……」
ミアが何か言いたそうだった。まあ言いたいことは分かる。
「大丈夫。リリムは完全に自分の記憶をその女の脳に移した終えた。今はブレスレットは単なる受信用だ」
「はい。エイジとリリムは今は仲間です」
表情を変えずリリムが言う。俺は話を続けることにした。
「……で、俺のルーツを知りたくて日本へと辿りついたら、女神マーヤに召喚されたってワケだ。『サーラが呼んだ勇者を殺して、最後はサーラも殺してくれ』ってね」
「酷いですね……」
俺の話を聞き、メイド長さんがため息をつく。俺も頷く。
「ああ、あの女神マーヤの話だとサーラは子供の頃から人を困らせて、陰でゲラゲラ笑っている女だったそうだ」
「そういう事だ、アルバン、ケイト。エイジくんはサーラじゃなくマーヤに召喚されこの世界に来たんだ」
青馬さんも会話に参加してきた。俺は改めて質問を聞くことにした。
「……で、その勇者とは誰なんです?」
執事さんの問いに俺は一旦呼吸を止める。そして…
「今バイレーンを仕切っている奴らです。バイレーン皇帝は半年前に勇者たちの操り人形に成り下がり、今や名ばかりの皇帝ですよ」
「な!?」
2人が驚く。ミアも何とも言えない表情である。
「じゃあ、バイレーンが本格的に侵攻してくる可能性も……」
「ええ。もちろんあります」
俺は頷いて、さらに話を続ける。
「村長を殺したのも俺らに対する通告でしょう。まあ、そんな事はさせませんが」
「確かにバイレーンの連中……。特にハイロード領を侵されたくはありませんな」
執事さんが腕を組んで唸る。それに同意し、ミアも言う。
「……エイジなら可能ですわ。一国の軍隊が押し寄せてきても…エイジとリリムなら何とかしてくれると信じています」
「ありがとうよ」
ミアには強気な返事をしたが。確かにおとぎ話じゃあるまいし、向こうには得体の知れない魔法だの魔術だの使う奴もいる。
俺が人間兵器として育て上げられたとはいえ、一国の軍隊に立ち向かうなど普通に考えてバカげた話だ。
しかし俺には策があった。
「明日朝イチで早速行動を起こすつもりだ」
「作戦は決まっているのですか? エイジ」
リリムが聞いてくる。俺は頷いて答えた。
「ああ。勇者たちへの宣戦布告とリベンジマッチだ。見てろよ、勇者め」