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第23話:リリムの正体

「せい…伯爵。俺とリリムには伯爵が思っているような関係はありません」


 ……なんか、ものすごくプレッシャーをかけられてしまったな。


「ごほ! ごほん!」


 青馬さんは慌てて咳をした。俺とリリムの関係を誤解していることを悟られないためか?


「ハッキリ言いましょう。リリムの本体はそれです」


 俺はリリムの手首のブレスレットを指さした。


「……どういう事だね?」


 この事はハイロード家の重鎮たちにも話しておくべきだろう。


「ミア。それとアルバンさん。ケイトさん。ちょっとよろしいですか?」


 俺はミアと2人も話に招き入れる事にした。


「実は俺は、元の世界で誘拐された身でしてね……」


「誘拐!?」


「なんですって!?」


 ミアとメイド長さんが驚く。まあ当然か……。執事さんに至っては眉間にシワを寄せている。

俺は話を続ける事にした。


「タワーって組織は絶海の孤島に引っ掛けて“アイランド”という研究部門を置き、俺のような年端もいかない子供を誘拐しては、各国に売り飛ばしていた……。屈強な護衛者ボディガード暗殺者アサシン…用途はなんであれ、そういう子供を欲しがる金持ちはいっぱいいましたから」


 しゃべりすぎて少し喉が渇いたので、俺は水を一口飲んだ。


「消された記憶が戻って自分が誘拐されたのが分かり、リリムと一緒に脱出したんです。リリムの体は元々俺を暗殺するため組織が送りこんだ刺客で、気絶させてそのブレスレットを嵌めたんです。人間の脳は最高のCPUだそうなので。今は刺客の女の意識は完全にありませんがね」


 おっとっと、CPUと言っても意味が通らないか。


「じゃあ……」


 ミアが何か言いたそうだった。まあ言いたいことは分かる。


「大丈夫。リリムは完全に自分の記憶をその女の脳に移した終えた。今はブレスレットは単なる受信用だ」


「はい。エイジとリリムは今は仲間です」


 表情を変えずリリムが言う。俺は話を続けることにした。


「……で、俺のルーツを知りたくて日本へと辿りついたら、女神マーヤに召喚されたってワケだ。『サーラが呼んだ勇者を殺して、最後はサーラも殺してくれ』ってね」


「酷いですね……」


 俺の話を聞き、メイド長さんがため息をつく。俺も頷く。


「ああ、あの女神マーヤの話だとサーラは子供の頃から人を困らせて、陰でゲラゲラ笑っている女だったそうだ」


「そういう事だ、アルバン、ケイト。エイジくんはサーラじゃなくマーヤに召喚されこの世界に来たんだ」


 青馬さんも会話に参加してきた。俺は改めて質問を聞くことにした。


「……で、その勇者とは誰なんです?」


 執事さんの問いに俺は一旦呼吸を止める。そして…


「今バイレーンを仕切っている奴らです。バイレーン皇帝は半年前に勇者たちの操り人形に成り下がり、今や名ばかりの皇帝ですよ」


「な!?」


 2人が驚く。ミアも何とも言えない表情である。


「じゃあ、バイレーンが本格的に侵攻してくる可能性も……」


「ええ。もちろんあります」


 俺は頷いて、さらに話を続ける。


「村長を殺したのも俺らに対する通告でしょう。まあ、そんな事はさせませんが」


「確かにバイレーンの連中……。特にハイロード領を侵されたくはありませんな」


 執事さんが腕を組んで唸る。それに同意し、ミアも言う。


「……エイジなら可能ですわ。一国の軍隊が押し寄せてきても…エイジとリリムなら何とかしてくれると信じています」


「ありがとうよ」


 ミアには強気な返事をしたが。確かにおとぎ話じゃあるまいし、向こうには得体の知れない魔法だの魔術だの使う奴もいる。

 俺が人間兵器として育て上げられたとはいえ、一国の軍隊に立ち向かうなど普通に考えてバカげた話だ。

 しかし俺には策があった。


「明日朝イチで早速行動を起こすつもりだ」


「作戦は決まっているのですか? エイジ」


 リリムが聞いてくる。俺は頷いて答えた。


「ああ。勇者たちへの宣戦布告とリベンジマッチだ。見てろよ、勇者め」

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