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第24話:毒ガス兵器

 翌早朝に俺達はハイロード家の馬車でバイレーンへと向かった。リリムが運転し、後ろに俺とミアとメイド長さんが乗っている。

 2人に同行してもらったのは、「ある事」を確かめたいからだ。

 ここがファンタジーのような世界なら、それは可能性がある。

 昨日の宴で料理にキノコが入っていた事から、この世界にキノコがあるのは確定だ。

 ついたのはあの子供たちが誘拐されかけてた森の中。


「なあミア、ケイトさん。この世界に食べちゃならない猛毒キノコってあるか?」


 聞くと、メイド長さんが俺の意図を理解してくれて、毒々しい赤いキノコを持って来てくれた。


「これがそうですね。猛毒で、食べた生物の神経を麻痺させます。死に至る場合も多いです」


「そうか…少し集めてほしい」


「はい」


 ケイトさんは集めに行ってくれた。俺はミアに向き直る。


「ちょっと試したいことがあるんだ」


「……分かりました、エイジ」


 ミアは頷き、俺の指示を待つ。


◇◆◇◆◇◆◇


 5分くらいして、俺たちは森を出て馬車に戻り出発させたが……。


「うっぷ!うぐ!」


 ミアは吐き気を催していた。まあ無理もないか……。

 アイランドにいたころ、あらゆる毒に体を慣らすようにしていた俺ですら気分が悪い。

 メイド長さんはタオルのような布をマスク代わりにしていたが、胞子でも具合悪くなるようなキノコなら教えてくれよ…。

 しかしおかげ様で、袋には大量の毒キノコが満載だ。

 こんなキノコなら猶更、バイレーンを迎撃するのに都合がいい。


「ミア。リリム」


 俺は馬車に戻る途中の2人に声をかけた。


「はい」


「なんでしょう?」


 2人が俺を見る。俺は言った。


「バイレーンからの宣戦布告まで、大至急で行動を起こすぞ」


◇◆◇◆◇◆◇


 ハイロード家に戻った俺たちは、青馬さんと執事アルバンさんにも来てもらった。

 そして俺の作戦を話すと、2人とも驚いていた。


「……そんな方法があったとはな……」


 青馬さんは唸る以外にないようだ。


「いくら俺とはいえ、万単位を相手には出来ませんのでね…。ま、この世界にはジュネーブ条約もありませんし」


 青馬さんは言葉の意味が分かったようだが、執事さんは眉間にシワを寄せて訝し気な表情を浮かべている。


「エイジ様。その、ジュネーブ条約とは?」


 そうか……知らないのも当然か。


「俺の元の世界にある条約で…大雑把に言えば非人道的な武器…例えば毒を広範囲に撒くといった武器を使うのを禁止したものです」


「え、エイジ……まさかっ!?」


 俺の顔を毒キノコを見比べ、ミアは金切り声を上げる。


「そのまさかだよミア」


「な!?」


 毒キノコを採った森で気分悪くなったのはみんな同じだ。

 要はこの毒キノコには細菌・ウイルスや有毒ガスが含まれているという事だ。


「あ、あなた! 毒キノコから有害な兵器を作るつもりですか!?」


「大正解。ただし死なない程度のな」


 俺はニヤリと笑う。ミアは顔を真っ赤にして叫ぶ。


「バカな事はおやめなさい!!」


「バカとはなんだ。俺は大真面目だが」


 ……あ、まずい。つい口に出してしまった。案の定ミアの怒りに火がついたようだ……。


「毒キノコから兵器を作るなど危険すぎます! そもそもわたくしも聖騎士シュヴァリエとしての誇りがありますっ!!」


 しかし青馬さんが言う。


「いや、私もエイジ君のいう事に一理あると思うぞミア」


「お父様まで!?」


 娘のミアより青馬さんの方が冷静だな……。さすが勇者として召喚され、色々苦労しただけある。


「確かに毒キノコから兵器を作るのは危険だ。しかし、あのバイレーンの連中を撃退するには……一番効果的な方法でもある。エイジくんは致死量に至るガスを作ると言っているのではない」


「……」


 ミアも渋々納得してくれたようだ。しかしまだ不満げな表情を浮かべている。まあ当たり前か……。


「ただエイジ君。君はいったいどこでそんな知識を得たんだ?」


 青馬さんの疑念はもっともだな……


「組織の刺客を退けるため、あらゆる知恵をつけましたから」


「……そうか」


 青馬さん、執事さん、メイド長さんが頷く。


「で、エイジ君。その毒キノコから兵器を作るのはいつ頃だ?」


 青馬さんは俺の作戦に乗り気のようだ。


「そうですね……。この後すぐに開始するつもりです」


「確かに、早いに越した事ないね……」


 青馬さんは少し考え込んだ後、口を開いた。


「よし分かった。バイレーンも明日明後日に、攻め入るつもりはないだろうよ」


 5日後の夜。ハイロード家の屋敷の前に俺とリリム、ミア。そして警備隊のメンバーが揃っていた。


「バイレーンから大部隊が近づいてくる、との情報がありました!」


 走って来た警備隊の一人が、ミアに状況を報告する。


「よし、幸いにも風はありません。皆さん、大砲をセットしに行きましょうっ!!」


「は!!」


 ミアの号令に、一同が動き出した。俺はメイド長さんと共にミアに付いて行く。

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