バイレーンから出撃した小隊とはリリムの報告で分かっていた。彼らが向かう先は……ハイロード家屋敷があるこの町だ。奴らの目的は自分たちの要求を呑ませる事。
その為にはまず村長を殺し、収容所から子供を奪還した俺を倒そうと攻めてくるだろう事は予測出来た。
だが村長を殺すというバカな真似をしたせいでもう間近である事も分かっているし、それを迎え撃つ準備も出来ている。
「エイジ、こちらに」
リリムが俺を呼び馬車に案内する。そこには10個近くの大砲が用意されていた。
俺は肩に下げていた大きなリュックを地面に下ろすと中に手を突っ込み……
「よし! これだな!」
10個の大砲全てに、毒キノコから作ったガスを詰め込んだ砲弾をセットした。
この毒ガスは致死量に至るようなものではないし、風に乗ってバイレーンの奴らにも影響が出るだろう。しかしそれでも十分だ。
数でこられたら流石にこっちも骨が折れるし、一日動けなくなるだけでいい。
「エイジ、村の住民が避難しています。私も向かいます」
リリムが言うので俺は頷き返した。
「ああ、頼むぞ」
リリムは俺に一礼した後馬車から降りて行った。俺も自分の馬に跨り、バイレーンの連中が攻めて来るであろう方向を見る。
「さてと……そろそろかな」
◇◆◇◆◇◆◇
5分後。バイレーンの軍勢がやって来た。数はおよそ4,000人程度か……。先頭には黒髪、それと明らかに染めているとしか思えない、勇者どもの顔が見える。
「よし、来たな」
風も丁度向こうに流れるように吹いている。俺は小石を手に取ると、バイレーンの軍勢に向けて石を投げつけた。
「ぎゃあっ!?」
石は戦闘の男の顔面に直撃したらしく、悲鳴が上がった。
俺は今度は軍勢に向かい、照明弾代わりの火矢を射る。
「エイジからの合図ですわ! 大砲発射!!」
ミアの号令で警備隊が一斉に毒ガス入り大砲を発射した。
「うぐっ」
「げほ、ごほっ!」
「ぎゃああああ!!」
バイレーンの軍勢は大混乱に陥る。そりゃそうだ。普通の人間ならあの毒ガスを食らえばただじゃすまないからな。だが俺は続ける。今度は火矢の代わりに照明弾を撃つと、辺りが明るくなった。
「まだまだいきますよ! 皆さん大砲発射っ!!」
ミアの命令で再び大砲が火を噴く。さらに風向きも追い風に変わっているのでどんどん毒ガス弾がバイレーンの軍勢に飛んで行った。
「よし、そろそろだな」
俺は馬に乗り軍勢に向かって駆けだした。
「ゴホ、ゴホ…ガキが一人向かってくるぞ来たぞ!?」
「殺せっ!! これだけの人数で一人にやられたとあっては、俺たちの面目が丸つぶれだ!!」
いや逃げた訳じゃないんだが……まあいい。ここまでは計算通りだ。あとはあの勇者どもを蹴散らしておしまいだ。
「だらしねえっ! 下がってろテメーら!!」
軍勢の中から大声を張り上げ、一人の兵士が飛び出してきた。金色の甲冑に身を包んだ大男だ。黒い髪に黒い瞳。間違いない、勇者の一人だな…!
剣を抜き俺に斬りかかって来るが、無論この程度の速さの斬撃など俺にはスローモーションに見える。