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第26話:バイレーンを迎撃

「っ!」


 俺は軽く構えをとった。しかしその時、奴が跳ぶ。それは垂直に5メートル以上飛び上がり……空中で一回転し俺の真上に来る。


「!?」


 奴は落下しながら剣を振り下ろす。

 キィィィン!!と甲高い音が鳴り響いた。そして……。


「うおっ!?」


 鎧の隙間を縫って刺さった首の根元の針矢の痛みに、ようやく気が付いたようだ。


「そこは頬車ほうしゃという急所経穴だ。指でも突けないくらい小さな経穴だが、突かれると呼吸器官に深刻な影響が出るぞ」


 俺は奴に諭すように言った。だが……。


「う、うるせえええ!!」


 怒りに身を任せて突っ込んで来た。だがまあ無謀だ。俺は軽くかわす。

 すると奴は俺のすぐ横を通り過ぎ、そのまま地面に激突した。さらに頭から突っ込む形で滑っていき頭を強く打ったようだ。過呼吸を起こしている状態だ、こうなるのは分かっている。

 脳震盪を起こして動けなくなっているみたいだが、まだ意識はあるらしい。最早呼吸が困難になっているのに、まあ頑張るな。


「ぐ……くぞ……」


「さてどうする?このまま死ぬか?」


「……っ」


 悔しそうに歯ぎしりしながら、俺を睨みつける。


「俺は……こんなところで死ぬわけにはいかねえんだ……」


「なんでだ?」


 俺が尋ねると、奴はふんぞり返りながら言う。


「なんでかって?そんなん決まってんだろ! テメーをやらなきゃ俺が殺られるっ!?」


「…じゃあ今死ね。100%俺には勝てないんだから、逃げ帰って連中に殺られるのも一緒だろ」


 勇者っぽい大男に名前も聞かず、俺は肝臓を抉ってトドメを刺した。


「あ、ああ……俺は……まだ……」


 奴は何か言いかけたが、そのまま息絶えた。

 これでバイレーンは終わりだ。あとはあの毒ガスを食らった奴らがどうなるかだが……。

 一時間後。いくらなんでももうガスも霧散しただろう。

 リリムの案内により村人と子供たちがやって来た。


「エイジ様!」


村人の一人は俺に駆け寄ると、俺の両手を取り涙ながらに礼を言った。


「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!!」


 村人はそれしか言わなかったが、敵の軍勢の餌食となりかけていた者達だろう。余程怖い思いをしたに違いない……。まあ俺だって死にたくはないしな。


「どういたしまして。皆を救えてよかった」


 俺がそう言うと、村人たちから歓声が上がった。これでもう村は大丈夫だな……。俺はうんうんと頷いた。

 さて…。こうなった以上、敵がますますちょっかいをかけてくるのは、目に見えている。

 それを防ぐためにはどうすればいいか。いくさは大将首を取ればいいのだ。今バイレーンを仕切っている勇者共の首を上げればいい。


「エイジ、バイレーンに乗り込むのですか?」


 リリムが俺の前に来て覚悟を問う。俺は頷き返した。


「ああ、奴らの大将の首を落として終わらせる」


「しかし……向こうには勇者が何人もいます。いくらエイジとはいえ……」


「大丈夫だ。俺を信じろ」


「……分かりましたわ。ではわたくしも同行します」


 ミアの表情から拒否は許さない、といった意志が汲み取れる。まあ聖騎士シュバリエとやらだし、足手まといにならないのを祈るか。


「じゃあ、行くか!」


 俺は馬車に飛び乗る。ミアとリリムも馬車に乗り込んだ。

そういえばリリムの銃の弾丸…在庫もつだろうか。

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