それから1時間後。
「あれか」
俺は前方に見える城壁のような壁を見て呟いた。
先日の収容所を襲撃した件のように、壁を越えていくか…。
「リリム」
俺は御者台で手綱を握る彼女に呼びかける。
「なんですか? エイジ」
「あの壁を飛び越える方法、リリムならどうする?」
彼女は少し考えると口を開いた。
「……流石に無理でしょうが……壊すのはどうでしょう?」
俺が破壊するのは簡単だが……いいのだろうか。
「しかし壊して入ると余計な争いになるんじゃないでしょうか?」
ミアが言う。確かにバイレーンだって馬鹿じゃないはずだしな……。
「やはり縄を張って壁を登るのが一番現実的かと…」
リリムが提案する。まあ確かにそれが一番無難だろう。じゃあそうするか……。俺は馬車の中にあったロープを取り出し、その両端を持って構える。そのまま力いっぱい投げた!
「っと」
先端のフックも上手くかかってくれた。とはいえ俺やリリムはともかく、ミアはどうしよう?
本人はついてくる気満々だが、この距離を登り切れるかどうか…。
「わたくしも連れて行って下さい!」
そう言ってミアは馬車の荷台から飛び出してくる。それを見届けると、俺は一計を案じた。
「捕まってろミア。手を離すなよ?」
俺はミアを背負うと、一緒に登り始めた。
「え、エイジ! これはさすがに申し訳ないです…」
「遠慮するな。それよりこの高さで落ちたらまずい。怪我しないようにしっかり捕まってろ」
俺はそう言うとさらに高く飛び上がり、壁を越えた!
「きゃあっ!」
ミアが悲鳴を上げる……ん? 今やわらかいものが背中に当たったような……。まあいいか。
そのまま着地すると、俺はロープを回収する。
「よし、じゃあ行くぞ!」
俺は再び駆けだした。
◇◆◇◆◇◆◇
俺たちはバイレーンに侵入する事に成功した。しかし……。
「エイジ、バイレーンの勇者はどこに?」
リリムが俺に尋ねる。俺は辺りを見渡しながら答えた。
「おそらくこの城にいるはずだ」
ここはバイレーンの首都。その中心にある城の前である。だが……。
「おかしいぞ? 見張りがいない……」
そうなのだ。門の前にも城壁の周辺にも、兵士一人いないのである。これは一体……?
「……罠か?」
俺が言うと、リリムは頷いた。
「恐らくそうでしょう。ですが、行くしかないのでは?」
確かにその通りだ。俺は頷き返した。
「そうだな。今更後戻りは出来ない。行くか」
しばらく歩き、城の中に足を踏み入れた。中は薄暗く、不気味な雰囲気を醸し出している。
「静かですね……」
リリムが呟くと、ミアも同意した。
「ええ……まるで誰もいないみたい」
確かにそうだ。人の気配が全くしないのである。だがその時だった。突然目の前に黒いローブを纏った、巨大な剣を持った男が現れる。
「……待っていたぞクソ野郎めが!」
男はフードを外すと、そこには軽薄そうな脂ぎった少年の顔があった。目といい髪といい、どう見ても日本人である。
「……そういうお前も日本人のようだが?」
「エイジ!」
リリムが叫ぶ。だが俺は奴の斬撃を避けつつ、奴の懐に飛び込んだ。そして……。
「うおっ!?」
俺の指拳が奴のみぞおちに突き刺さる。さらにそのまま回し蹴りを食らわせると、あっという間にダウンしてしまった。
「な、なんだこいつ……」
「おい」
俺は男の胸倉を掴み上げながら言う。男の表情は恐怖に変わっていた。
「バイレーンの大将はどこだ? 答えろ!」
俺が凄むと、男はますます震えだす。そして……。
「さ、三巨頭なら王室にいます!!」
そう叫ぶと泡を吹いて気絶してしまった。
「……だそうだぞ?」
俺がリリムやミアに言うと、2人とも頷いた。さて……。
「じゃあ早速乗り込むとするか!」