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第27話:バイレーンに潜入

 それから1時間後。


「あれか」


 俺は前方に見える城壁のような壁を見て呟いた。

 先日の収容所を襲撃した件のように、壁を越えていくか…。


「リリム」


 俺は御者台で手綱を握る彼女に呼びかける。


「なんですか?  エイジ」


「あの壁を飛び越える方法、リリムならどうする?」


 彼女は少し考えると口を開いた。


「……流石に無理でしょうが……壊すのはどうでしょう?」


 俺が破壊するのは簡単だが……いいのだろうか。


「しかし壊して入ると余計な争いになるんじゃないでしょうか?」


 ミアが言う。確かにバイレーンだって馬鹿じゃないはずだしな……。


「やはり縄を張って壁を登るのが一番現実的かと…」


 リリムが提案する。まあ確かにそれが一番無難だろう。じゃあそうするか……。俺は馬車の中にあったロープを取り出し、その両端を持って構える。そのまま力いっぱい投げた!


「っと」


 先端のフックも上手くかかってくれた。とはいえ俺やリリムはともかく、ミアはどうしよう?

本人はついてくる気満々だが、この距離を登り切れるかどうか…。


「わたくしも連れて行って下さい!」


 そう言ってミアは馬車の荷台から飛び出してくる。それを見届けると、俺は一計を案じた。


「捕まってろミア。手を離すなよ?」


 俺はミアを背負うと、一緒に登り始めた。


「え、エイジ! これはさすがに申し訳ないです…」


「遠慮するな。それよりこの高さで落ちたらまずい。怪我しないようにしっかり捕まってろ」


 俺はそう言うとさらに高く飛び上がり、壁を越えた!


「きゃあっ!」


 ミアが悲鳴を上げる……ん? 今やわらかいものが背中に当たったような……。まあいいか。

 そのまま着地すると、俺はロープを回収する。


「よし、じゃあ行くぞ!」


 俺は再び駆けだした。


◇◆◇◆◇◆◇


 俺たちはバイレーンに侵入する事に成功した。しかし……。


「エイジ、バイレーンの勇者はどこに?」


 リリムが俺に尋ねる。俺は辺りを見渡しながら答えた。


「おそらくこの城にいるはずだ」


 ここはバイレーンの首都。その中心にある城の前である。だが……。


「おかしいぞ? 見張りがいない……」


 そうなのだ。門の前にも城壁の周辺にも、兵士一人いないのである。これは一体……?


「……罠か?」


 俺が言うと、リリムは頷いた。


「恐らくそうでしょう。ですが、行くしかないのでは?」


 確かにその通りだ。俺は頷き返した。


「そうだな。今更後戻りは出来ない。行くか」


 しばらく歩き、城の中に足を踏み入れた。中は薄暗く、不気味な雰囲気を醸し出している。


「静かですね……」


 リリムが呟くと、ミアも同意した。


「ええ……まるで誰もいないみたい」


 確かにそうだ。人の気配が全くしないのである。だがその時だった。突然目の前に黒いローブを纏った、巨大な剣を持った男が現れる。


「……待っていたぞクソ野郎めが!」


 男はフードを外すと、そこには軽薄そうな脂ぎった少年の顔があった。目といい髪といい、どう見ても日本人である。


「……そういうお前も日本人のようだが?」


「エイジ!」


 リリムが叫ぶ。だが俺は奴の斬撃を避けつつ、奴の懐に飛び込んだ。そして……。


「うおっ!?」


 俺の指拳が奴のみぞおちに突き刺さる。さらにそのまま回し蹴りを食らわせると、あっという間にダウンしてしまった。


「な、なんだこいつ……」


「おい」


 俺は男の胸倉を掴み上げながら言う。男の表情は恐怖に変わっていた。


「バイレーンの大将はどこだ? 答えろ!」


 俺が凄むと、男はますます震えだす。そして……。


「さ、三巨頭なら王室にいます!!」


 そう叫ぶと泡を吹いて気絶してしまった。


「……だそうだぞ?」


 俺がリリムやミアに言うと、2人とも頷いた。さて……。


「じゃあ早速乗り込むとするか!」


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