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第30話:謎の男が現れた!

「ぐあっ!?」


 そして……。


「あがっ!? ぎいいっ!!」


(無意識に超粒子加速とやらを身に着けてきてるのか? こいつは殊更スローモーに見える…)


 俺は奴の急所経穴“天柱”を突く。これは針治療で『三焦経』と呼ばれるツボで、胃や腸などの消化器系と深い関係があり、この経穴を突かれると激しい腹痛に襲われる。


「あぎいいっ!! やめてくれえええ!!」


 奴の叫び声など無視し、さらに天柱を突く。すると……。


「ぎゃあああああっ!!」


 断末魔のような絶叫を上げた後に、白目をむいて動かなくなった。やがて強烈なニオイが立ち込める。

 近づいてきたミアも、しかめっ面をしている。痛みのあまり気絶して漏らしたか。まあどうせすぐに目覚めるだろ……。

 俺は兵藤を見下ろすと呟いた。


「さて……。こいつがバイレーン三巨頭の一人とやらか? 目が覚めたら色々聞くか」


 その時だった。後ろから……。


「よく来たな、新たなる勇者さんよ」


 振り向くとそこに一人の男が立っていた。その男は全身真っ黒なローブに身を包み、顔もフードを目深に被っていてその表情は見えない。声から察するに若い男だろう。

 フード越しに背が高く、肥満しているのだけは分かったが。


「……お前は何者だ? 味方じゃなさそうだが」


 俺は尋ねた。すると男は答える。


「俺か? 名乗るほどの者じゃない。バイレーンがたった一人の男に手を焼いてると聞いてね。見学に来ただけさ」


「見学?」


 俺は訝しんだ。こいつはバイレーンの勇者とは違う組織のようだが……。

 すると男は答えた。


「ああそうだとも。俺はバイレーンの連中とは違って、勇者同士の争いなどには興味が無いのさ。ククク…」


 そう言って男は笑う。何とも気味の悪い奴だな。その時だった。


「うっ……」


兵藤とやらが目を覚ましたようだ。だが……。


「この雑魚野郎! クチばっかだなテメーッ!!」


 フードの男は巨体に似合わぬダッシュをしたと思いきや、兵藤の胸部に凄まじい掌底打を食らわせた。


「ぐふっ!?」


 兵藤は口から血を吐き出す。そして……。


「がっ!? あがっ!?」


 さらにもう一撃。今度は顔面だ。兵藤とやらの鼻から血が溢れ出す。

 そのまま倒れ込んだ。間違いない、こいつは兵藤の息の根を止めたのだ。


「口封じのつもりか? ふざけやがって…」


 しかもタイミングの悪い事に、今の騒ぎで兵士たちがさらに押し寄せてくる。

 ここはミアだけじゃどうしようもあるまい。


「仕方ないミア、一度撤退だ!!」


 俺はそう言うと、兵士どもに手刀をくらわせる。奴等の首には青筋が浮かびそのまま倒れ伏した。


「あ……ありがとうございますエイジ!」


 ミアが俺に礼をする姿を見て、フードの男は笑う。


「クク……やるじゃないか。龍拳と白鶴拳を組み合わせた幻の拳法・飛龍八翔拳…。まさか実物を、しかも異世界で見るとは思わなったぜ」


 捨て台詞を吐いて男はその巨体から信じられないジャンプ力で遠くに飛び、何処かへと姿を消してしまった。

 一人大物勇者を倒したようだが、さすがにガス弾をもってくるんだった。

俺はミアの手を引き、そのまま城壁まで突っ走る。


「掴まってろミアっ!!」


 城壁にたどり着き、片手でミアを抱いてそのまま飛び越える。そして……。


「うおっ!?」


 着地の瞬間、俺はバランスを崩して倒れこんでしまった。ミアは俺に抱き着くような姿勢になる。


「す、すみませんエイジ! お怪我は?」


「いや大丈夫だ。それより早く逃げないとな」


 俺たちはそのまま城から逃げ出した。しかし兵藤とやらがやられた事でバイレーンの連中も動き出すだろう。急がないとな。

 スカートの上からも分かるミアの巨大なヒップに触れてしまったが、それは黙っておこう。

 それにしてもあのおデブちゃんの技…。


(十八羅漢拳の一つ、羅漢金剛拳…)


 掌打に入る時の踏み込みは、俺ですら見えなかった。野郎も超粒子加速を身に着けてるのか…?

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