俺は川面を睨んで言った。
「おいお前、もう用済みだ。さっさと消えろ……」
「ひっ!?」
急所経穴“梁丘”を再度突き、血行を戻してやった。
「エイジ、いいのですか?」
リリムが川面を遮るように立ちふさがる。
「いいんだリリム。俺はこいつにもう用はない」
「う、うう……っ!」
川面は観念したように大人しくなった。
こいつの知っている情報は兵藤とやらに話している事だろう。この三巨頭とやらの情報も持っているかもしれない。だが……。
(ヘンに不安を与えないためにも、あのデブの事は少し黙った方がいいな)
俺はリリムとミアに言った。
「さあ一旦帰ろうか」
「はいエイジ」
メイド服のままのリリムは、銃をガーターに仕舞う。
このセクシーな動作には、俺もちょっとドキッとしてしまった。
「…エイジ。あの川面という男、このままにして大丈夫ですか?」
心配げな表情で質問してきたのはミアだった。
「大丈夫だよ。どうせあと数日の命だ」
そう、3日も経てば川面は折れた骨が肺に刺さり死ぬ。そうすれば三巨頭の残る2人も俺の前に出張ってこざるを得なくなるだろう。
(それに……)
リリムにも悟られないように、心の中で考えを整理する。
(三巨頭より、デブの動向だけはつかんでおきたいしな……)
◇◆◇◆◇◆◇
俺らが馬車に乗り込むと、
「止まれっ!」
俺達の目の目に、ミアと同じように白い鎧を着た騎士が率いる集団が現れた。
相手はざっと15人。
騎士以外はどいつも貧相な身なりなのに、不釣り合いに馬に乗っている
救い出した子供達の話じゃ、この世界にも冒険者に相当する稼業はあるらしい。
が、金が無い下っ端が装備より先に乗り物に金をかけるなんて、常識的に考えれば有り得ない事だと分かる。
装備すら買えない盗賊や貧乏駆け出し冒険者なら、馬になんか乗らないだろう。
「何が『止まれ』ですか。リリムはあなたたちの支配下に置かれた記憶はありません。よってそのような指示は拒否します」
………感情がなく思った事をヅケヅケとモノを言うリリムの性格は、こういう時は考え物だな。
騎士の仲間らしき5人組との距離は約10m。
早速太腿のガーターから銃を取り出したリリムは、気負った様子もなく御者台から降りていくと、牛馬の前の方へと立ち、大きく息を吸い込んだ。
「こちらも警告いたします。これ以上進路を塞ぐなら武力を以って排除いたします。よろしいですか?」
バーンッ!
「な、なんですのっ!?」
ミアが驚く。間違いなくリリムが撃った、空に向けての警告発砲だ。
あっちの馬も驚いて、見ると前脚を上げて
とりあえず、あちらの牛の嘶きは止まったが。リリムと向こうの騎士のリーダーが、どうやら言い合いになっているな。
「それ以上近付けば斬る! 武器に手を掛けても斬る!!」
「こちらこそ。5をカウントする間に去らないのであれば、今度は空ではなくあなたたちを撃ちます」
向こうを覗いてみるとローブを着た女が杖を掲げ、何か唱えている。
なんかキナ臭くなってきたな。流石に止めた方が良さそうだ。