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第34話:B.A.B.E.Lシステム

「行こうミア、リリム。勇者に対する対策と、これからの行動も話し合いたい」


「そ、そんな……!?」


 バイアーノが焦りだす。しかし今度はミアの冷淡な声がそれを遮った。


「分かりました。それではエイジとリリムには及びませんが、わたくしも尽力いたします」

「おい! 俺にも分かるように説明しろ!」


「エイジ。気にすることはありません」


「分かっている」


 俺はミアを見るが、その表情には嫌悪感しか浮かんでいない。

 ……まあ、そうだよな。

 バイアーノの年齢はずっと上。下手したら20代後半といった所だろう。

 ミアも17歳とまだ若いし、金欲しさに年上と結婚するタイプではない。

 それでもミアを見下せる格があるのだ。こいつも貴族か、それに準ずる出身なのだろう。


「とにかくアレックス。陛下の勅命というのなら、お父様に話を持っていきます。異論はありませんね?」


 バイアーノはミアにそう言われると、苦々しげに舌打ちした。


「分かったよ。だが陛下の勅命が下れば、必ず従ってもらうからな」


「ええ。それではエイジ、リリム、行きましょう」


「あ、ああ……」


(このバイアーノって男……)


 俺は馬車に乗り込む時に見たバイアーノの表情を見逃さなかった。


『今に見てろよ』


 そんな顔をしていたのだ。


◇◆◇◆◇◆◇


 サーラとマーヤを祀ったほこら

 この中の秘密の部屋の中にある、巨大な遺跡のようなスーパーコンピューター。

 空中に浮かんだホログラムパネルで、エイジとリリムの動向を覗き見ているものがいた。

 マーヤである。


「この世界に来てから5日で勇者をすでに3人も…信じられません」


「しかもエイジはまだスキルすらまともに使っていないのに…」


 マーヤの背後から女性の声がした。応答したのはスーパーコンピューターである。


「いや、それだけではない」


 しかし姿はそこにない。ホログラムパネルにも映っていない。それでもマーヤはその声に反応し振り返った。


「何か分かったのですか? B.A.B.E.Lバベル?」


「ああ。あのエイジという男は、あまりにも危険すぎる」


「え?」


 B.A.B.E.Lはスーパーコンピューターに宿る意識である。


「今は確かに元の世界に戻りたい一心でマーヤに協力している。しかし自分の力に気付き、サーラが召喚した勇者と同じ道を歩むかも知れない」


「滅多なことをいうものではありません、バベル!」


 マーヤが思わず声を荒げた。


「エイジはそんな人ではありません!」


「しかし、この5日間で勇者の3人を葬った」


「だからこそです……!」


 バベルの言葉にマーヤは激昂する。

 しかしバベルはスーパーコンピューターであるからこそ、不安要素を逐次報告する義務があると思っているのだ。


「マーヤ。召喚した人間を信じたい気持ちは分かる。しかし1%でも…」


「黙りなさいっ!!」


 マーヤが一喝した。

 バベルは生みの親であるマーヤにだけは逆らえない。そうプログラムされているからだ。

 しかもそれは絶対的判断ではない。あくまでスーパーコンピューターの演算速度から割り出された、“確率の高い予測”に過ぎないのだ。


「バベル! あなたはエイジを危険視しすぎているのです!」


「……分かった」


「とにかく、引き続きリリムにはデータを送り続けなさい」


「了解した」


 言い終えると同時に、マーヤは激しい動悸や痙攣に襲われる。


「マーヤ。治療の時間だ」


 マーヤはバベルのその声と共に、メカニカルな椅子の上で意識を失った。

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